すだ
2025-08-17 22:19:27
6430文字
Public 主スバカグ
 

カグヤはスバルのことが分からない

舞手スバルと嫁カグヤ
絆レベル5くらい。
スバルに構われる、自分の魅力に無頓着なカグヤが戸惑う話。
いろはがカグヤへの世話焼き強火勢。
いろはがカグヤより年上だと思っている投稿者による妄想があります。
メインストーリーのネタバレあり。(スバルとカグヤの関係)
#スバカグ

 魅力的な人間。カグヤにとって、それは自分から最も縁遠い存在である。
 何故なら、カグヤは己のことを全く魅力の無い人間だと思っているからだ。
 祭事の際、正装に着替えることを除けば着飾ったこともない。
 愛想がいい方でもない。
 幼い頃から身につけてきたのは武芸と舞だけで、家事と名のつくものは大抵苦手である。
 故郷では比較対象がいなかったから何も感じなかったが、スバルに命を救われ春の里にやって来て驚いた。
 気配り上手で愛想が良く可愛らしいいろは。
 慈愛に満ち、里の人たち皆に敬い慕われるうららか。
 元気いっぱいで自然と人を笑顔にしてくれるすず。
 まあ、すずはまだ小さいので女性の枠に入れるのは違うのかもしれないが。
 自分と全く違う女性がいることに衝撃を受けたのだ。
 己には魅力が無いのだと結論づけるには充分すぎた。


 それなのにスバルは、カグヤを見かけると嬉しそうに近寄って来る。キミの舞は本当に綺麗だね、と頬を染めて笑う。
 いろは茶屋でいろはと話していても、カグヤを見かけると話を切り上げて駆け寄ってくるのだ。理解ができない。何故自分のことをこんなに構うのだろう、とカグヤは不思議で仕方ない。
 確かに同郷の幼馴染で、幼い頃から一緒に過ごしてきた仲ではある。
 今生の別れと思っていたスバルと再会できたことは嬉しかった。だが何年も離れていた分、昔のように屈託なく幼馴染として接するのは難しかった。
 只でさえカグヤは黒竜の乗り手としてアズマの人々を苦しめた存在なのだ。スバルの手を煩わせるわけにはいかない。
 自分は大丈夫なのだと、心配かけまいと意地を張ってしまう。可愛げのないことを言ってしまう。
 それなのに、いくらカグヤが一緒にいても楽しくないだろうからと突っぱねても、スバルは毎日のように会いに来る。里長の仕事が忙しいにも関わらずだ。
 たとえふたりが幼馴染で許婚だとしても、この構われ方は常軌を逸しているのではないか。
 婚約を解消して距離を置こうと提案もしてみたのだが、のらりくらりとかわされ今に至る。
 どうしてスバルはこんな私に構うのか?
 最近のカグヤの悩みである。


 店が落ち着いた頃合いを見計らっていろは茶屋に来たカグヤは、お茶を出してくれたいろはに相談を持ちかけた。
 いろはが瞳を潤ませながら「カグヤさんがわたしに相談!? 夢みたい……!」と呟いていたが、紛れもなく現実である。
「それで、相談って?」
 満面の笑みを浮かべながら隣へ座るいろはに、カグヤは口を開いた。
「スバルって、変わっていると思いませんか?」
「え? スバルくん? まあ大地の舞手だし、普通の人とは少し違うかもしれないね……?」
 いまいち分かっていない様子のいろはに、そうではなくて、とカグヤは続ける。
「たとえ幼馴染だとしても、私みたいな面白みのない女の所へ毎日会いに来るんですよ? 変わっています」
 膝の上で拳を握りしめながら吐き捨てるように言う。声に出すと、ますますおかしいことのように思え拳が震えた。
……カグヤさんが面白みのない人?」
「ええ、そうです」
「誰がそんなこと言ったの?」
 心なしか、いろはの声が剣呑さを増している気がする。カグヤは慌てて弁明した。
「いえ、誰かに言われたのではなく、私がそう思うんです」
「なんだー! カグヤさんにそんなことを言う無礼者がこの里にいるなら、とっちめなきゃいけないところだったよ」
 いろはがさらりと恐ろしいことを言っている気がするが気のせいだろうか。
「それで? カグヤさんは、自分のどういうところに面白みがないと思うの?」
 まさかそこを突かれると思わなかったカグヤは面食らう。それでもおずおずと口を開いた。
「持っている服と言ったらこの一張羅くらいですし」
「えっ? お洒落に興味出た!? じゃあじゃあ、ツバメさんのところでカグヤさんに似合う服見せて貰おうよ! ひなさんも誘ってみんなで選ぶのも楽しそうー!」
 カグヤさん綺麗だもん、何着ても似合うよ! と力説されカグヤはたじろぐ。
「身についていることと言えば舞と戦うことばかりですし」
「強いカグヤさんがいてくれて、すごく助かってるよ! 里の周りは魔獣だらけだから、戦ってくれる人は大歓迎。それにあなたの舞が大好き。美しくて、見ているだけで厳かな気持ちになるの。心が清らかになるっていうか」
 他には他には? と問いかけられ何故か尋問されている気分になってきたカグヤである。
「愛想も可愛げもないですし!」
 やけっぱちになってそう言うと、いろはが瞳をぱちくりさせた。
「え? カグヤさんは可愛いよ?」
「え、えええ!?」
 一体どのへんが? と聞く前にいろはがペラペラと語り出した。
「道に迷っておろおろしてるときは助けてあげたくなっちゃうし」
「ま、迷ってなんていません!」
「スバルくん相手に素直になれなくて落ち込んでる姿はめいっぱい慰めて応援したくなるし」
「お、落ち込んでなんか……
 カグヤの否定を完全に無視して、いろはは慈しむような眼差しを彼女に向ける。
「誰かに頼ることに慣れてないのかな、って。少しずつでいいから、頼ってもらえるようになりたいっていうのが最近のわたしの目標」
「いろはさん……
 いろはの言葉にカグヤは胸を打たれた。いつもそんな風に見守っていてくれたなんて。先程人の話を全く聞いてくれていなかったことは気にしないでおく。
「すぐには難しいかもしれませんけれど、少しずつ、いろはさんに頼っていけたら……と思っています」
 恥ずかしさで段々と語尾がしぼんでしまったが、いろはにはちゃんと聞こえていたようだ。
 胸をどーんと叩いて彼女は頷いた。
「お姉ちゃんに任せなさい!」
「お、お姉さんですか?」
「だってカグヤさんって放って置けないんだもの。すずのお姉ちゃんで、わたしの妹! もし嫌じゃなければだけど……
「嬉しい、です」
「本当ー? 良かったー!」
 カグヤの手を取ってはしゃぐいろはの背後から、低いドスのきいた声が投げかけられた。
「オレは?」
「うわあ! もうスバルくん、今いいところなんだから邪魔しないでよ!」
 突然出現したスバルに驚いたいろはが彼をなじる。
「何ですかいいところって! いろはさんばかりカグヤを独占していてずるいですよ」
「それはこっちのセリフだよ! スバルくんこそいつもカグヤさんと一緒じゃない」
 何故か口喧嘩が始まってしまった。
 おろおろするカグヤに呆れ返るモコロン。すずがお盆を持ってやってきた。
「カグヤちゃん、お姉ちゃんがああなっちゃうと長いから、お茶どうぞ! モコロンは、お団子たべる?」
「お団子3本な!」
「はーい」
 結局ふたりは30分ほど言い合い、誰と親しくするかカグヤの自主性に任せるという結論に至ったようだ。当の本人は先程から置いてけぼりなのだが。
「不毛な争いだったな……
 モコロンの呟きが聞こえていたかは知らないが、スバルがカグヤに近寄ってくる。
「カグヤ、これから家に帰るの? オレも見回りがあるから送っていくよ」
「見回りをするのなら私も一緒に行きます。ふたりの方が早く終わるでしょう?」
「それもそうだな。じゃあ行こう。いろはさん、すずちゃん、ではまた」
「ばいばーい!」
「ありがとうございましたー。カグヤさん、またお話しようね」
 いろはとすずが手を振って送り出してくれた。