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夜明 奈央
2025-08-16 15:24:15
9681文字
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久々綾
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久々綾と鉢尾 策が嵌る者・策に溺れる者
兵助と喜八郎の仲を揶揄ったところ「男同士なんてあり得ない」と言われた三郎。兵助を嗾けるため「『三郎に告白された』と相談しろ」と勘右衛門に持ち掛けるが、その真意は――
がっつり鉢尾とふんわり久々綾。両方ハピエン
綾部視点前日譚
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翌日の授業後、ろ組の部屋に集まり、雷蔵と八左ヱ門に改めて付き合うことになったと報告した。ちなみに兵助には前夜のうちに済ませてある。「良かった! 喧嘩ばっかりしてないで仲良くするんだよ」と自分のことのように喜んでくれて、なんだか照れ臭い。
雷蔵と八左ヱ門も、勘右衛門に対する反応は概ね似たようなものだった。一方で三郎は片思いの相談をしていたらしく、「良かったじゃないか」と八左ヱ門に肩を小突かれて不機嫌そうにしている。勘右衛門もあまり他人のことは言えないが、最近兵助に似たようなことをして嫌がられていた光景に覚えがあるので自業自得といえる。
「それで、結局兵助と喜八郎はどうなったの?」
ひと通り報告と祝福が落ち着いたところで雷蔵が切り出し、三郎と顔を見合わせた。
「そういえばどうなったんだ?」
「どうだっけ?」
そういえば最初の作戦はなかったことになったが、プランBは三郎により強引に決行された。あれは兵助と喜八郎に対してより勘右衛門に対してのプランBな気はするが、結果的に兵助に伝わった情報は同じである。
確か兵助は男同士自体を嫌悪しているわけではないが、自分ではあり得ないとかなんとかそんなことを言っていたはずだ。事態はあまり変わっていない。
「もうどっちでもいいんじゃないのか?」
「ちょっと! 自分たちが上手くいったからって無責任すぎるよ!」
三郎が全てを放り投げる発言をして雷蔵に咎められている。たぶん揶揄おうとしたのは面白半分だろうが、嗾けようと言い出したのは下心ありきだったのだろう。勘右衛門も正直もうめんどくさくなっていた。そもそも兵助が喜八郎と良さそうな雰囲気になってからそれなりに長い。勘右衛門が話を持ち掛けてからでもしばらく経っている。どうにかなるならとっくにどうにかなっていそうなものだ。
「俺、ちょっと思ったんだけど、兵助のあれって既に振られた後とかって可能性はないのか?」
八左ヱ門が意外にも真面目に切り出して、その場がしんと静まり返った。
「そうだよね、告白してなくても向こうに恋人とか好きな人いて諦めた可能性もあるし、卒業したら夫婦になる予定の許嫁とかいるかもしれないし
……
」
雷蔵が八左ヱ門の仮説を引き継ぐ。
「喜八郎の方に脈はありそうなのか?」
八左ヱ門が尋ねるが、誰も答えることができない。皆喜八郎と雑談くらいはするが、個人的な話をする程仲良くないのだ。
確か兵助の方は今のところ許嫁のような相手はいないと言っていた気がするが、喜八郎の方はてんで見当もつかない。そもそも実家がどんなところかすら知らない。おそらくここにいる全員が喜八郎に対して同程度の認識のはずだ。
もし兵助が振られて諦めようとしているなら、あの頑なさにも納得がいく。本人たちの間で既に片がついている話を外野が引っ掻き回すべきではない。
「まずは喜八郎がどう思ってるか確認しないか? 仮に兵助が納得して諦めてるとしても喜八郎もそうとは限らないし、そもそも喜八郎にその気があるのかどうかもわからないわけだろ?」
「だよな。よし、俺ちょっと喜八郎呼んでくる!」
勘右衛門が提案すると、八左ヱ門が善は急げとばかりに部屋を飛び出して行った。
「聞いたところでそう簡単に答えると思うか?」
「どうだろうな」
八左ヱ門の背中を見送りながら三郎が疑問を呈すが、苦笑いを返すことしかできない。
しばらくすると、八左ヱ門は喜八郎を引き連れて戻ってきた。趣味の穴掘りに行くところだったのか、愛用の踏鋤を担いで不機嫌さを隠そうともしていない。集まっているメンバーを見て「僕帰っていいですか」などと言い始める始末だ。この状態の喜八郎を連れてきた八左ヱ門はいっそ尊敬に値する。
「僕、穴掘りしたいので手短かにお願いします」
喜八郎が渋々真ん中に座る。誰が切り出すか目配せをし合って、言い出しっぺの勘右衛門が押し付けられた。
「あの、兵助のことなんだけど」
「はい」
「その、喜八郎はあいつのことどう思ってるんだ?」
「どう、とは」
喜八郎の顔がさっと曇って、慌てて顔の前で両手を振った。
「あ、いや、変な意味じゃないんだ。ただお前たちのことを心配して
……
」
「はあ」
「俺たちは兵助のこと大事な友人だと思ってるし、お前のことも可愛い後輩だと思ってる
……
」
「だから身を引けと」
喜八郎の声が一段低くなった。
「えっ、引かなくていいよ?」
「じゃあこれなんなんです? はっきり言っていただきたいんですが」
“手短かに”と言われたので本題から入ったが、喜八郎は警戒するばかりだ。これではどう思っていたとしても本心を語ってはくれないだろう。出直した方がいいだろうが、この場をどう収めるべきか。そう思っていると、話の展開を見かねた三郎が横から口を挟んだ。
「ずばり聞くが、お前は兵助と付き合う気があるのか?」
そこに遠くからズダダダダと廊下を走る足音が近づいてきて、スパーンと扉が開いた。皆の視線が一斉に扉を開けた人物に集まる。
「お前たち喜八郎に何をする気だ!?」
乱入してきたのは兵助だった。どこかで喜八郎が呼び出されたことを聞きつけたらしい。皆呆然と固まり、我に返ると気まずそうに目を逸らす。何と説明すべきかわからないのだ。
「僕はあるんですけど
……
」
喜八郎が兵助にちらりと視線をやった。予期せぬ展開に場はにわかに活気付く。
「おい兵助、後輩にここまで言わせておいて恥ずかしくないのか」
三郎がにやりと笑う。
「かっこ悪いぞ!」
八左ヱ門も同調するように野次を飛ばす。雷蔵は兵助に期待に満ちた目を向けている。兵助は何のことだかわからないようでぱちくりと瞬きを繰り返すばかりだ。
「喜八郎はお前と付き合う気があるらしいぞ」
仕方がないので、勘右衛門は状況を教えてやった。
「喜八郎!!!」
兵助は怒りを顕にするが、当の喜八郎はつーんとそっぽを向いている。
「おいどうなんだ。返事してやったらどうだ?」
三郎にせっつかれて、兵助は頭を抱えている。
「あ〜〜〜! もうっ! 返事も何も、もう付き合ってるからっ!」
「あ?」
「え?」
「は?」
「どういうことだ?」
皆の注目が一斉に喜八郎に集まる。
「まあそういうことですね」
喜八郎はしたり顔だ。
「どういうこと!?」
八左ヱ門が兵助と喜八郎の顔を交互に見る。
「つまり全部茶番だったってことか」
三郎が悔しそうに項垂れる。
「なんだ、上手くいってるなら良かった」
雷蔵が自分のことのように頬を染める。そんな中、勘右衛門だけは素直に祝福することができないでいた。ずかずかと兵助に近づいていく。
「兵助ちょっと表出ろ」
「なんで!?」
勘右衛門に胸倉を掴まれ、兵助が怯えた声を上げる。歓声を上げていた面々が今度は徐々にどよめき始めた。
「誤魔化すにしても他にいくらでも方法があっただろ! こっちがどれだけ振り回されたと思ってんだ!」
勘右衛門が右腕を振り被ると、兵助は衝撃に耐えるように目を瞑った。その頬目掛けて、ぺちりと拳を打つける。
「俺は本気で心配してたんだぞ」
「ごめん」
「俺たちって、そんな信用ない?」
「ごめん、そういうつもりで隠してたわけじゃないんだ」
「じゃあどういうつもりなんだよ」
「だって、付き合ってるなんて言ったら勘右衛門も三郎も絶対揶揄ってくるじゃん」
兵助が気まずそうに目を逸らした。
「その通りだな。よくわかってるじゃないか」
三郎が他人事みたいに賛同を示す。反論したいところだが、自身を振り返ってみれば勘右衛門にも思い当たる節しかないのでぐっと言葉を呑み込む。
「まあまあ、いいじゃないか。みんな丸く収まったんだから」
雷蔵に宥められ、掴んだままだった手を離して兵助から距離を取る。
「まあお前が上手くいってるみたいで良かったよ」
「俺の方こそ心配かけてごめん」
結局この騒動は早とちりとお節介によるもので問題など何ひとつ発生していなかったわけだが、事態は良い方向に進んだようなので結果的には良かったと言えるだろう。
「僕穴掘りに戻っていいですか?」
「いいけど後で話があるから」
兵助と喜八郎に関しては違うようだが、痴話喧嘩は放っておくに越したことはない。
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