ねぶくろ
2025-08-16 09:45:27
5367文字
Public Skeb
 

君ありて幸福

Skebにて納品した作品です。



 苦しそうな呼吸音。鼻に刺さる消毒液の香り。目に眩しいほど清潔なシーツの白。
 サラの傍には、いつもそんなものばかりがあった。病気がちの妹は度々病院の世話になり、時には入院して、家に帰れない日が続く。蒼白な顔で病床に横たわっている間、サラはささやかな願いを紡ぎ続けた。
 学校に行きたい。友達に会いたい。外で遊びたい。──そんな小さな要望を叶えることも出来ず、ネオはただ彼女の傍でその手を握った。冷え切った指先に熱を分け与え、強張った皮膚をさすることで痛みを和らげる。二人きりの病室は静かで、その静寂が、幼い妹の小さな体を押し潰してしまう悪夢を何度も見た。
 何もしてやれない。無力感に苛まれながら、それでもずっと傍にいた。せめて、あの小さな白い部屋に降りかかる孤独を半分にしたくて、ネオはずっとサラの手を握っていた。子供のネオに出来ることはそれだけだった。
 あんなものにばかり囲まれて、きっと、あの子はずっと、苦しかったに違いない。