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蛍月
2025-08-11 21:00:59
5555文字
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夢小説
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風来事件
文豪ストレイドッグス|谷崎+男主|再会の話|未完
1
2
その事件は、風薫る季節のこと。一枚の写真から始まったと、関わった人間は語る。
谷崎潤一郎は呼び出しに応じ、探偵社の一室へと足を踏み入れた。室内では国木田独歩が手帳の頁を捲っている。
ええと、と谷崎が呟くと同時に手帳が勢いよく閉じられた。谷崎の方を見た国木田は、手帳を懐に仕舞い込んで立ち上がる。
「来たか谷崎。仕事だ」
国木田の言葉に、谷崎も表情を引き締める。手帳の代わりに小さな茶封筒を取り出した国木田は、それを机の上へ静かに置いた。
「警察からの協力要請だ。俺とお前が受け持つことになる」
「協力要請
……
ですか」
谷崎の呟きに、国木田は封筒へ手を伸ばしながら仕事の概要を説明する。
曰く、いくつかの企業に宛てた積荷が横流しされていた。それだけなら小悪党のすることで、警察による検挙で事が済むはずだった。
しかし、この件にはとある大企業が関わっているという噂が在った。そして、その証拠を警察が得る前に、横流しに関わっていた荷運びの一人が証拠となるデータの入った記録媒体を持って逃走したのだという。
谷崎と国木田に割り振られた仕事は、逃走者を確保して記録媒体を警察に提出することだった。
「ただ、厄介な点があってな。その逃走者、どうやら異能力者らしい」
眉間に皺を寄せながら国木田がため息を吐く。本来なら太宰の手も必要なところだが、と続ける口ぶりからして、異能力を無効化できる太宰治を参加させることには失敗したらしい。
逃げられたのだろう、と谷崎は苦笑する。
「其れで、この封筒は?」
「ああ。運良く監視カメラが逃走者の顔を写していたらしい。素性はわからんが、顔がわかれば探しようは幾らでもあるだろう」
「成る程」
言葉を交わし、谷崎は逃走者の顔を知ろうと写真を取り出す。だが、その写真を見た瞬間さっと青ざめた。
え、という呟きを漏らし、彼は完全に固まってしまう。何事かと国木田が写真を覗き込むが、おかしな点は見当たらない。
「おい、どうした?」
「
……
すみません、ちょっと席を外します」
国木田の静止も聞かず、俯いた谷崎は写真を置いて部屋を駆け出る。
「
……
厠にでも行ったか?」
首を傾げる国木田。彼が写真を封筒に戻そうとした矢先、部屋の扉が叩かれた。返事も待たず、扉が開く。
「兄様の様子がおかしかったのですけれど
……
?」
谷崎の妹、ナオミである。心配そうな表情を浮かべた彼女は、国木田になにかあったのかと問いかけた。
「いや、俺も何がなんだか
……
写真を見た瞬間に様子がおかしくなったんだが」
「写真?」
小首を愛らしく傾げ、ナオミは国木田の手元を覗き込む。封筒に半分隠れた写真を白い指がつまみ、取り出した。
そして、ナオミも顔色を変えた。信じられないものを見たように瞬き、表情を真剣なものへと変える。
「
……
あの、この写真、一体何のものでして?」
「今回の仕事で探すべき逃走者だ。小悪党の一員だったが、今はそれ以上の犯罪に関わっている可能性がある」
国木田の端的な説明に、ナオミは納得したように息を吐いた。
「道理で、兄様があんな顔をするはずです」
あんな顔とは、と不思議そうにする国木田に向かい、ナオミは心底痛ましげな顔で事情を説明した。
「この方は
――
兄様の親友ですもの」
「親友、だと?」
国木田もようやく表情を変えた。自分の親友が犯罪に関わっていたとなれば、谷崎がショックを受けるのも当然だろう。
知り合いならある程度素性もわかるという見方もできるが、彼を犯罪者として扱うことを谷崎が嫌がる可能性もある。
「風良さんが悪事に関わるとは思えないのですけれど
……
」
「だが、実際関係者となっている」
なにか事情があると言いたげなナオミに、国木田は釘を刺すように言った。
厄介事だと彼がため息を漏らすと同時、谷崎が部屋に戻ってくる。嘔吐でもしたように顔色が悪い。
「すンません、戻りました
……
ってナオミ!?」
「兄様」
妹がいることが予想外だったのか、目を丸くする。彼の元に、ナオミが詰め寄った。
「どうするつもりですの?」
「どうもこうもないよ、ナオミ」
心配そうな妹を前に口元を緩め、谷崎は国木田の方へ歩み寄る。
そして、決意したように真っ直ぐな目で相手を見つめた。
「すみません、国木田さん」
「
……
ああ」
この事件は降りるか、と国木田が納得したような顔をする。しかし、谷崎の続けた言葉はまったく逆だった。
「続けさせてください」
「
……
は?」
国木田がぽかんと口を開けた。一方ナオミは、表情を心配から安心へと変える。兄様らしい、と呟きながら。
「彼は
――
ボクの親友です。だからこそ、悪事に加担しているなら止めないと」
言い切った彼は、室内に誂えられた棚からヨコハマの街の地図を取り出した。机の上に広げ、国木田に事件の資料はあるのかと問いかける。
その姿は珍しく頼もしいもので、国木田は用意していた資料を机に並べた。
「相手の素性を聞いてもいいか?」
「はい。名前は風良
……
伊達風良。ボクの学生時代の同級生です」
国木田の問いかけに、谷崎は予習してきたように淀み無く答える。異能力者であることは知らなかった、と付け加えながら。
その後も彼が知るいくつかの情報を聞き出し、国木田はまとめた紙を白板に貼り付けた。いつの間にかナオミが貼り付けていた他の資料の間に、最後の仕上げのように地図が設置される。
「何はともあれ居場所だな。谷崎、場所に心当たりはあるか?」
「いえ
……
。長らく連絡も取っていないンで、学生時代によく行った場所とかしか
……
」
「それもそうか。ならば潜伏に使われそうな場所を総当たりするしかないな
……
」
手間だが、と呟き、国木田は倉庫街を中心に印をつけていく。
そのひとつを、不意にナオミが指さした。国木田が何事かと視線を向けると同時、谷崎も「あ、」と呟く。
「まずはここから探してみるのはいかがでしょう?」
「構わんが
……
なにかあるのか?」
国木田の疑問に、谷崎が答えた。
「風良が
……
学校をサボるときによく隠れてた場所です」
手がかりがまったく無いよりはマシだ。そう呟いたのは、その場の全員だった。
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