ふみかぜ@壁打ち
2025-08-11 15:42:51
10914文字
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【Δドロ短編×2】暑さで物理的に溶けるΔロくんの話【スライム化】

「赤い退治人をねらい撃ち!5」にて展示しましたΔドラロナ短編2本立てです/Δロくんが暑さでスライム化する特殊設定を含みます/だいたいド隊長が溶けてるロくんの面倒みたり悪戯したりするだけの話

【とろける銀色、味見の特権】
 それは、茹だるような熱帯夜が続くある日のこと。
「あつい」
 低く掠れた呟きが耳に届いた瞬間、ドラルクの眼前で吸血鬼ロナルドの身体が崩れ落ちた。
 下等吸血鬼の掃討が終わって緩みかけていた意識が凍る。肩に乗せたジョンの声が、やけに遠く感じた。
――は」
 形を失った肉体に遅れて黒いマントがアスファルトの上に落下した光景を目にしたところで、ドラルクの思考は漸く動き始める。
 彼の気配はある、確かにあるが……よもや、こんなにも呆気なく彼の望みが叶ってしまうことがあるなど。空気の熱と真逆に冷えていく指先を握り締めて、地面に広がるものへ静かに目を向けた。
……何?」
 しかし、そこにあったのはドラルクが想像していたような、砂のような塵ではなく。
 それは細かい粒子の集合体ではなく、緩く一纏まりに繋がった物体だった。街灯の光を受けて夜に浮かび上がるのは、ゆっくりと流動しながら呼吸するように僅かな膨張と収縮を繰り返す、人間の大人相当の体積を持つ楕円形の銀色。
 しゃがみ込んだまま、慎重に腕を伸ばして指を押し込んでみれば、温くなった冷却グッズのような微妙な温度感と、わらび餅のような絶妙な弾力性。
 と、色々考えて導き出した結論は、銀色のスライム。
……ロナルド君?」
 指先をそのままに名前を呼ぶと、応えるように粘体が波打った。
 ドラルクが冷静さを取り戻しつつある段階で肩から降りたジョンが、相手の存在を確かめるように前足と鼻先を柔らかなゲルへ沈ませる。愛らしいアルマジロの干渉にスライム――ロナルドは擽ったそうに震え、されるがままにしているのだった。

 曰く、一種の省エネモードのようなものだと。
 何をしても死なない肉体においても、酷暑は堪えるものらしく、一定の形を保つのが億劫になってしまうそうだ。だから、余りにも暑くて体温が上がり過ぎると、脱力して不定形の粘体と化すのだとか。
……それで、元に戻る方法は?」
「あー、気合いを入れれば今からでも戻れるけど……この状態になったらひと昼ぶんは休めって、兄貴が」
「はぁ」
 棺桶の中に流し込まれた銀色のスライムが薄く伸びながら、いつも通りのロナルドの声で答える。身体が溶けた直後は無言で丸まるばかりだったが、落ち着くにつれて身体を動かして移動したり会話に参加したりと順応する様子を見せ、現場を離れる頃には車のドアを開けたりエレベータのボタンを押したりできるほどには動けるようになっていた。
 ドラルクの部下が運転するパトカーでマンションの駐車場へ到着した後、自力でドラルクの部屋まで辿り着いたロナルドスライム(略してロナイム)。しかし、熱にやられているのは事実だったようで、結局は己の棺桶近くでへたり込むように伸びてしまった。最終的にはドラルクとジョンが協力してロナイムを棺桶の中へ押し込み、今に至るのである。
 二十六度の冷房を効かせた室内で、銀色の粘体へ掌を触れさせる。普段のロナルドより若干低めに感じる温度と絶妙な柔らかさは、そのままずっと触り続けていたいような、いつものハンサムとは趣が異なる魅力があると認めざるを得ない。
 このまま手を動かして存分に揉みしだいたら、彼はどんな反応を示すだろうか。そんな邪な考えを遮ってくれたのは、親愛なるアルマジロの足音だった。
「ヌヌヌヌヌヌ、ヌヌヌヌヌン、ヌイ!」
「あぁ、ありがとうジョン」
「さんきゅな、ジョン」
 キッチンへ行って戻ってきたジョンからロナルド用の血液パックを受け取り、開封して棺桶へ赤い液体をとぷとぷと注ぐ。プリン液へと沈むカラメルソースのようにAB型の血液が銀の粘体へ吸い込まれていく様は、思いのほか目を惹く光景に感じられた。
「ま、休むべきなのは一目瞭然だな。後はもう報告書を纏めるだけだし、もう一パック飲んだら早いところ寝たまえ」
「おー……の前に、冷たくて甘いもの食いたい」
 びろんと餅のように一部分を伸ばして今度は自力でパックを開けたロナルドが、自身にぼたぼたと血液を落としながら言う。匂いと含有成分を考えなければ、餅に莓ソースをかけた和菓子に見えないこともない。
 で、冷たくて甘いもののリクエスト。隊長としては必要な栄養を摂取させた以上は早々に寝かせるべきと考えたが、出動前に仕込んだものを食わせる程度なら誤差だろう。
 ……何より。自分が今日作ったものをロナルドが明日まで口にしないというのは、却ってドラルクの調子が狂うというものだ。
「ふむ、バナナアイスがそろそろ冷え固まっている頃か……分かった、出してやるから大人しくしてろよ」
「っ、おう!」
 血液パックを潰しながらロナルドが全身をぽよんと跳ねさせる。目に見えて表情が見える訳でもないのに、感情が分かりやすく伝わってくるのは実に彼らしい。
 スライム体の上にジョンを乗せて遊ぶ一人と一匹の光景を見て胸を掴まれるような感覚になりつつ、彼らを喜ばせる甘味を取りにドラルクはキッチンへ向かうのである。

 部下からの報告書を纏め、各所への連絡を済ませた頃には丑三つ時をとうに越えていた。
「あー……今夜も嫌になるくらい働いてしまった」
 五〇〇mLペットボトルに半分ほど残っていた温いミネラルウォーターを一息に飲み干し、凝り固まった肩を気にしながらワークデスクから離脱する。疲労と眠気で重い足を引きずるように動かして、ドラルクはどうにか寝室へ移動した。
 常夜灯のみ点けた部屋の中。籠の中で丸まり眠っているジョンを優しく撫でた後、視線を己のベッド脇に置かれた棺桶へ向ける。何となく周囲を見回してから蓋を開けると、そこには未だスライム状態のロナルドが、銀色の粘体を縦横に伸ばして眠っていた。内部のシートとぴったり形を合わせて広がる様は、ゼリー型に注いだゼラチン液みたいである。
 今晩はやけに製菓のイメージが浮かぶと思いながらドラルクはゆっくりと右手を伸ばし、呼吸するように微かな膨張と収縮を繰り返すロナルドの身体に触れた。
「ロナルド君」
 触れた掌をそのままに、彼の名前を囁く。
 一瞬、彼の使い魔が現れビームを撃たれはしないかと警戒したが、今のところ出てくる気配はない。主と合わせてスリープモードに入っているのだろうか。
「ロナルドくーん……もう寝たか?」
 小声でもう一度呼びかけてみる。反応はなく、寝息代わりに小さく上下に揺れるゲルの動きが手から腕へ伝わってくるばかりだ。
「ふむ……頭はここで合っているのかね」
 手を滑らせ、枕側の部分を撫でるようにくるくると動かす。吸血鬼の塵は身体の部位に連動していると話に聞いたことがあるが、今のロナルドも頭に相当する部分や口に相当する部分が決まっているのだろうか。
 暫く表層の感触を楽しんでから、少しだけ逡巡した後に人差し指と中指をぐっと押し入れた。ずぷずぷと抵抗なく第三関節まで沈んだ指先は、銀色に食まれてこちらからは見えなくなる。
 ――自分の指が彼に呑まれているのか、指の方が彼を喰らおうとしているのか。傍から見れば児戯みたく思える行為に興奮を覚えつつある事実に、ドラルクは己を嗤った。
 監視役と監視対象。その枠を大きく逸脱した執着を互いに有していたことを認識し、布一枚ない距離まで確かめた今でも、関係性や感情に明確な名を定義することはできずにいるし、吸血鬼ロナルドの監視業務については日々新しい発見がある。
 ぴくん、とスライムが跳ねて全体が波打つ。小刻みに震える様に気分を良くしたドラルクは、突っ込んだものを思うままに動かし始めた。
 ――全く。高等吸血鬼としての形が崩れた彼を思うままに弄り回したいと、あわよくば劣情を掻き立てるような反応が欲しいと感じるとは。あの夜、ロナルドと出会って以来、情が重くなるのみならず妙な方向に捻れているような気がしてならない。
……はは、気持ちよさそうじゃないか」
 吸血鬼にしては肉厚で短い舌を散々可愛がった記憶をなぞりながら指を折り曲げ、擽るように擦る動きを繰り返す。自然と口の端が吊り上がるのを自覚する中、空いた左手もロナルドの流動する粘体へ這わせた。
――ぅ、」
 ロナルドから寝言のような声が響く。さざ波みたいに鼓膜を震わせる音が心地好い。
「見た目通りに柔らかいな。まぁ……私はいつもの方が好みだが」
 力を入れた分だけ彼の中へ沈んでいく手を、捏ねるように動かす。外側から逞しい胸筋と慎ましい突起を弄る動きを内側で試みるのは新鮮な感じだった。
「は……
 募る衝動に従うままに顔を寄せ、震える銀色へ歯を立てる。つきたての餅みたいな歯応えと口内に広がる微かな甘みを堪能しようとした最中、
……っ!」
 ぐ、と己の身体が浮き上がったと思った直後、視界がひっくり返る。棺桶のシートへ叩きつけられて息が詰まり、ぶれる視界。
 薄明かりを受けて光る銀の髪、熱を孕んだ紅玉。頭に直接響く、強烈な吸血鬼の気配。
「あー……ロナルド君?」
……ん」
 背中の痛みで我に返ったドラルクの視界に、天井を背にこちらへ覆い被さるロナルドの姿が余すことなく映る。本来の形を取り戻した吸血鬼はマントすらない真っさらな状態のまま、何かを堪えるように唇を噛み、こちらを静かに睨んでいた。
「元に戻ったのか」
「ドラ公がっ……変なことするからだろーが……
「はーなるほど、それで気合いが入ってしまったと」
「うるせぇ軽率お触りポリ公」
 頭から下半身まで眺めて頷いたドラルクに、早口で悪態を吐いたロナルドが寄りかかる。そのまま位置をずらして棺桶の中で隣り合い密着する体勢になると、こちらの腰へ腕を回したロナルドが肩へ顔を寄せた。
「体調は?」
「眠いけど、多分回復した……というか、それどころじゃなくなった」
 そう言ってドラルクの首元を甘噛みした吸血鬼は、濃密な気配に色香を含ませ、強請るように上目遣いをした。……さっきのスライム形態も楽しませて貰ったが、やはり今の姿が一番だ。
「責任とれよ、タイチョーさん」
「望むところさ、不死の王よ」
 冷房をしっかり効かせた部屋で熱い口づけを交わす。眠る前には氷を浮かせた特選牛乳を用意しようか。