usagipai
2025-08-10 10:59:55
1201文字
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ぬばかん


幸せってなんだろう。
家族に愛されること?
恋人がいること?
日常に溢れるはずのその感情は、私にとって形のないものだった。

しかし今、その概念が覆ろうとしている
彼と出会ってからだ。

今まで感じなかった喜びや多幸感が、胸の奥から湧き上がってくる。

いつも会うたびに溢れそうになる感情を、必死に宥める。
特に今日は逢瀬だ尚更落ち着かせなきゃ
と考えるもやっぱり治らなくて困っていると
ある事を思い出した
――そういえば、晨焔が笑いながら言っていた。
「緊張したら、このおまじないでもしとけ」

その言葉が頭の片隅にふわりと浮かぶ。
でも、教えられたおまじないは少し気恥ずかしく実際にやるとなると、どうしようと胸がそわそわするし、普段の自分ならやらない事だった

そんなことを思っていると、戸口から彼が現れた。

いつも通りの優しい笑顔。
当たり障りのない挨拶を交わしたあと、ふたりの間に静寂が降りた。

自分の鼓動が、耳の奥まで響くように感じられる。
ゆっくりと顔を上げると、彼と目が合った。

言葉はなくても伝わる、深い緊張。
沈黙の中で、互いの鼓動が重なり合っていた。

そのとき、はっきりとわかった。

彼も、緊張しているのだと。

ふと、晨焔の言葉がまた浮かんだ。
「緊張したら、おまじない」

なんとも信憑性に欠ける話だけれど……
少しでもこのくすぐったい緊張感を和らげたい。
二人とも緊張しているなら、逆に恥ずかしさも相殺されて、いい感じになるのでは……と。
なかなかに血迷っていたが
覚悟を決めて、私はそっと彼の手を取り、指を絡める。
躊躇いながらも、彼の手の甲に優しく唇を落とした。

……っ」

熱を帯びた彼の手の感触が伝わり、私の頬も熱くなる。

(へっ……
(あれ、相殺されるどころじゃないじゃない!?晨焔!!?)

思わず今は居ない晨焔にツッコミを入れつつ、彼の方に目を向ける。

頬をほんのりと紅く染める彼は可愛いけれど、
赤面させているのが自分だと思うと、嬉しい半分、申し訳なさ半分で。

お互いに目を合わせて、照れくさそうに笑い合った。

その瞬間、緊張はすっと消え、ただ二人だけの甘い時間が流れていった。