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保科
2025-08-05 01:29:20
2346文字
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スタレ
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望むもの
アグサフェ現パロ
現パロな自称平々凡々サフェルには盗みをして欲しくないけど、前世の記憶持ちでそうしない理由ってなんだろう……という、なんか、そういうやつ
「セファリア、来週は貴女の誕生日でしょう」
向かいに腰掛けるアグライアの言葉の意味がさっぱりわからなくて、あたしは噛りかけの食パンを咀嚼しながら首を傾げる。「
……
へ、ふぁんのふぁなひ?」
「
……
。私は、今、そう理解しがたいことは口にして居ないはずですが
……
」
コーヒーを口にしようとしていたアグライアは、困ったように眉尻を下げる。その様を眺めつつ、ごくん、とパンのかけらを飲み込んで、指についていたバターを舐め取った(特売のマーガリンじゃない、専門店のお高いバターをたっぷり塗ったパンはめちゃくちゃおいしいのだ
――
あたしが意地汚いことを差し引いたって、これを残すのは勿体ない)。
「違う違う。勿論、あたしの誕生日が来週ってのはわかってるよ?最近書類とかにいっぱい書いたし。
……
ま、ちょっと忘れてたけど
……
。
でも、それがなにかと関係あるのかなぁって」
「関係、
――
あります」息が詰まったように掠れた声でつぶやいたアグライアが、嗚呼、とため息をつく。
「ありますとも、セファリア。
貴女にとって、誕生日とは大した日とはならないのかも知れませんが
――
私としては、とても重要な節目と捉えています。
盛大にお祝いしたいのですよ、セファリア。貴女が幾度の輪廻を超え、今、この世に生を受けたことを、出来うる限り、盛大に」
「
……
盛大に」
「はい、盛大に。
それで、プランを相談させてもらえればと
――
貴女の意に沿わない事はしたくありませんから」
盛大って、何。意味不明さに、思わず鸚鵡返しにすれば、アグライアは真顔で頷いた。そうして、なんか分厚い紙束を机の下から取り出した。この女さては暇なの?
またまたご冗談を、と適当に返すにはあまりにも真に迫った様子。その表情に、ふと、この前の地理の授業で流れた、裏側の国で行われるカーニバルの映像が頭をよぎる
――
あの映像さながらに三日三晩夜通し踊り狂う人々を、アグライアが果たして調達するはずがないと言い切れるのか。
――
申し訳ないが御免被りたい。
「
……
あたし、なんか派手なのとかそーゆーの要らないからね。言っとくけど、変なことやろうとしたらその時点で家出するからね?」
「
……
!」
貰えるものは貰える主義だとしても、流石に限度はある。拒絶に、がん、とショックを受けたライアの手から紙が滑り落ちた。1枚、手元まで転がってきたそれに軽く目を滑らせて
――
呆れた、こんなの絶対許可出すわけないでしょ。オクヘイマだとしても予算が通らないよ。
「
……
裁縫女さぁ、加減とか知らないのアンタ
……
?」
「
……
仕方ありません。
分かりました、では、欲しいものはないでしょうか。
家でも、車でも、何だって構いません
……
その、国となると、少し時間がかかるかもしれませんが
……
」
「ただの学生に何与えようとしてんの!?」
だから加減を知れってば。時間さえあれば国家転覆も視野に入るらしい目の前の超人に戦々恐々としつつ
――
欲しいもの、と言われて、恐ろしいほど何も浮かばない自分に、ひそかに驚いた。かつては世界の全てを騙り、盗んでしまえる怪盗だった自分が、一体どうしてここまで無欲になっているのか。
……
いや、問うまでもない。
「ふふ
……
そう遠慮することはないのですよ、セファリア?」
――
目の前のすっとんきょうな女のせいだ。かつて、彼女との離別のため埋まることのなかった心の隙間が、今はこれ以上何かが入る余地もないほど埋められている。
おおよそ、真心も、安らぎも、いつかは素直に受け止められなかった何もかもを与えられた今のあたしが、逃げようもなく満たされたあたしが、これ以上何を望めようか。
「
………
」
だから。
別に要らないよ、と口にしようとして。
でも、それを言えば、彼女は悲しむんだろうなあ、と思う。それも困る。
――
ライアには、笑っていてほしいから。
そう。強いて言うなら、望むことなんてそれ位で。でも、そんな恥ずかしい事は、とてもじゃないけど口にできないから。
「
……
じゃあさ」
代わりとして続けた言葉に、アグライアは困惑したように瞬いた。
そうして迎えた、あたしが生まれた日の夜。
「
……
セファリア、あの」
ネグリジェに着替え、ソファーの隣に腰掛けたアグライアが、酷く不安そうにあたしを呼ぶ。
「本当に
……
いいのですか?このようなことで
……
」
「いいってば、これ何回言えばいいのさ。
――
何でも聞いてくれるんでしょ。ね、主賓のお願い聞けないの?」
「ですが
――
」
なおも反論しようとして。睨むあたしの視線に、アグライアは諦めたように口を閉じた。「
……
貴女が、いいなら、いいのですが」
そう。あたしがいいから問題ないのだ。
だから、手元のリモコンを操作して、正面の大型モニターに表示された、サブスクの映画を選択する。少し前に公開されたアクション映画。
「いやー、これ見たかったんだよね。ライアはあらすじとか知ってる?」
「いえ、以前雑誌でタイトルを見かけた程度で、そう詳しくは
……
」
「そーなの?じゃあ、変に先入観持たせないほうがいっか。早速流すね〜っと」
再生ボタンを押す。
「
―――
」
配給のロゴが流れるのを見ながら、まだ、物言いだけなアグライアの視線がこちらに向けられているのを感じて。わかってないなあ、とあたしは微笑む。
――
あたしのお願いは一つだけ。
『夜、2時間だけ頂戴。一緒に映画とか見ようよ』
――
って。
だってさ、あたしがあんたとなんでもなく過ごせる時間ってものがどれほど貴重か、なんて。言うまでもないことなのにね。
繰り返し続けた返事の代わりに、その華奢な肩に頭に預けてやれば。ライアはほんのちょびっとだけ震えたあと、仕方なさそうにあたしの頭を撫でた。
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