河童の皿箱
2025-08-03 08:16:23
1486文字
Public 遊戯王:短め(2025年度)
 

あめふり

娑楽斎とファイアがセアミンとGボーイを迎えに行くだけ。


 滝と見紛う大雨の、隔たる向こうに座る子たち。方や、幼くも高名なる能楽師。方や、何の変哲もない地味な少年。着飾り好きの能楽師の横で、少年はリュックの肩ひもをぎゅっと掴んでは、眼鏡とガラスの向こう側を、ジィッと黙って見つめていた。
 相棒たちの仲が良く、決して知らぬ間柄ではない。とはいえ、こうしてふたりっきりになることはほとんどない。ましてや、どこかぽうっとしている能楽師に振れるような話題を、少年は持ち合わせているわけでもなく、人と話すのだって得意ではなかった。
 「あの」。ふたりっきりの沈黙に耐えかねて、少年は思わず口を開いた。ふいに振り返る能楽師がふっと目を向けるけれど、少年はしどろもどろになるばかり。何か言わなきゃ、何も言えない。泳ぐ視線に感づいたか、能楽師は呟いた。「ふたりとも、遅いね」、と。
 「そ、そう。そう、だね」、と。少年が腕の時計に視線を落とせば、約束の時間から、かれこれ1時間も経っていた。真っ赤なヒーローがいつやってくるかは、わからない。そうしてまた雨音に耳を傾けていると、能楽師がまた、呟いた。「娑楽斎、雨が好きなの」、と。
 「雨が?」。少年が尋ねれば、能楽師は頷く。「水溜まりを全部踏んで歩くくらい」、と。少年が、ふとあの鮮やかなサングラスを思い浮かべれば、あのいかにも厳つい人が、そんな子供っぽいことをするだろうかとついつい疑った。けれど、その横を歩くあのヒーローが、微妙そうな顔をしているのは、よくわかる。「ファイアはね、雨が嫌いなんだ」、と。ぽんやり顔はまた頷いて、「喧嘩してるんじゃなければ、いいけど」、と。
 ふと、少年が自分の携帯端末を取り出してみれば、列車の遅れのお知らせが。たぶん、ふたりはこれに乗ってきたんだろうと、隣の子に見せれば、「そっか」、と。

 そうして、また時計の針が進んでいく。ふと、能楽師は歌を口ずさんだ。あめあめふれふれ、かあさんが。じゃのめでおむかえ、うれしいな。そんなかすかな歌声に、少年もまた、声を重ねた。

 ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、らんらんらん。