皆瀬茶太(シキゴウ全)
2025-08-02 10:00:00
5258文字
Public バットマン
 

ウェイン邸内の茶番『手』『歩調』『メモ』

茶番という名の蝙蝠主従イチャイチャ
イベント無配気分でPDF版作りました。BOOTHからDLできます。
https://yoiyoiyoi.booth.pm/items/7254421



『歩調』


 ブルース様は、とても厄介な主になったなと嘆息する時が何度かある。
「体調が悪いんだろう、今日は下がれ」



 今日は仕事が立て込んでいるからと、ダイニングテーブルに書類を広げている主へと朝食を運んできた時だ。 
 私を見るなり眉を軽く上げて、一寸の沈黙。
 そして溜息を飲み込むように口を開けてすぐ閉じる。
 私には、次に何を言うか分かってしまった。
 そして、冒頭のセリフだ。
「体調が悪いんだろう、今日は下がれ」
 こんな時ばかり、主である空気を纏うのだ。
 だが私にも、この屋敷で唯一の執事である義務と責務と、あとちょっとしたプライドもあるのだ。
 だからね、ブルース様。
「歩くリズムで体調を見抜くのは止めて下さい」
「お前がしごいた賜物の延長線だ。有難いだろう」
 もはや有無を言わせない。
 しっしっと、追い払う真似までしかねない。
 どうしてこんな大人になったのか。
「ブルース・ウェインの評価が上がる能力なので自己管理の出来る私以外には発揮して頂いて結構です。
 ですが、私以外にも度が過ぎるとただの神経質な束縛男にも見えますので、鍛えた私の責務として塩梅をお見せしますよ」
「早口でくどくどと褒めながらけなしても駄目だ。下がれ」
 こうなっては従うしかない。
 ぐっと、歯を痛めるのでしないが奥歯を嚙みしめたい心境で目を閉じて頭を下げて退席した。

 私がいなくてもそれなりに出来るのを知りたくない事まで見抜かれていませんようにと、出たばかりの私室に戻った。
 とはいえ、そう思うのも何度目か。


……………………まあ、病人にパスタ振舞うようではまだまだですね」
「俺が食べたかったんだが…………
 山盛りのミートスパゲッティをふた皿持ってやって来るブルース様を見るのも何度目か。
 ブルース様は湯がきすぎたパスタと私を交互に見てから、朝の威厳など微塵も感じられない顔で引き返した。
「おまえの分は出直す」
 確かに今の私には重くて食べられませんが、あなたがここで食べたいという意向まで反対はしません。
 私は主を呼び止め、近くの椅子を差した。
「簡素な椅子で良ければどうぞ。私の食事は後で結構ですので」
 私も、あなたの傍にいたいのですよ。

 さて。
 この話には後日談がある。
 というより、日常なんていうものは、後日談の繰り返しだ。
 
「ブルース様、やましい事があるのでしょう。私に隠しても無駄ですので、話してしまっては?」
「アルフレッド。さすがのお前でも歩く二歩目での指摘は引っかけだろう?」
「語るに落ちてますよ」
 お互い嘘が下手で助かりますよねえ。



アルフレッドの不調は歩くテンポが僅かに乱れていた。
ブルースのごまかしは歩くテンポが、静かにじわっとしていた。
どちらも、互いにしか分からない。
パスタはあの時空ですが、深い意味は無いです。