皆瀬茶太(シキゴウ全)
2025-08-02 10:00:00
5258文字
Public バットマン
 

ウェイン邸内の茶番『手』『歩調』『メモ』

茶番という名の蝙蝠主従イチャイチャ
イベント無配気分でPDF版作りました。BOOTHからDLできます。
https://yoiyoiyoi.booth.pm/items/7254421

 『手』

 お前の手が好きだ。と、こういう時に思う。
「相変わらずお前の手は冷たいな」

 真夏でも涼しいウェイン邸で、アルフレッドからアイスキャンディーを受け取った時だ。
 今日はグループ会社の一つが、社会福祉と広告として街中でアイスキャンディーの無料配布を行った。
 それと同じ物を、執事から受け取ったのだ。
『ブルース様も子供の頃、齧っておられました』
 そうだったかもなあとソファで受け取る時、アルフレッドの手を見た。
 まあ、なんのことはない。いつも通りの手だ。
 だが、凝りもせず毎回思うのだ。
 見下ろすたび、ふと触れた時、確かめるまでもなく変わらない体温を。
 今回は口が滑った。アイスの副作用かな。
 そう
「相変わらずお前の手は冷たいな」
 アイスキャンディーを差し出した手を、俺はキャンディーごと上から掴んでいた。
 長年の付き合いにもなるこの執事は、目をわずかに丸くさせた後、わざとらしく溜息を大きくついた。
「私ごとアイスを掴んでいるからでは?」
 そうかもしれない。
 いや、そんな事はない。
 俺は細長い小さなアイスを受け取り、袋を開ける。袋はアルフレッドが回収した。
「お前の肌の温度も分からなくて、アルフレッドの主人なんて名乗れるか」
「知らなくても雇用契約で名乗れます」
 屁理屈めと言い返す声を、齧った音で消した。
 こうなったら意地にもなる。
 この元イギリス諜報員の男を言い負かしたいと思うのは、もはや俺のライフスタイルだ。
「いや、お前の手は冷たい。俺は子供の頃から知っている」
 アイスを齧ること数回、あっという間に食べ終えた棒を指揮者のように降った。
「目の前の事に興味を持つと、せっかくの行儀が悪くなりますね、ブルース様。昨年のパーティーでも植木にペンを…………
「まあ待てアルフレッド」
 そう言って棒を取り上げる手を、もう一度掴む。
「ほら」
 ぎゅっと、握ってやる。
 冷たいの何が駄目なのか。
「良いじゃないか夏は助かるし、冬は寒いだろと口実に握ってやれる。先まで一緒にバットモービルのメンテナンスをしていたが、手の方はおろそかにしたな。
 爪の中まで汚れは落ちているが荒れている。
 お前も俺に礼儀云々と言うなら、自分のケアもウェインの一部と思ってくれ」
 そうさ。
 俺は、この手が好きなんだ。
 同じ思考で武器を生み出していく手が。
 料理を無駄のない動きで作り上げる無骨な指が。
 蹲る俺の腕を掴み上げようとする握力が。
「それにしても…………
 逆らえない執事が、何を言い出すのかと眉根を潜めている。
 気にしていては俺の面倒など見れないのか、黙って聞いている。俺はそれを良い事に、手遊びのごとくアルフレッドの手を観察する。
 手の甲、指の節、そして…………
「アルフレッド、年取ったなあ」
 増えた指の凹みたち。笑いながら皺の一つ一つを撫でられるのは、さすがに嫌らしい。
 パッと逃げる手を素直に開放する。
 久しぶりに弄れて楽しかった俺を、アルフレッドは見下ろして二度目の溜息をついた。
 お前、その態度こそ雇用関係としてどうなんだ?
 にやにやと見上げる俺に、アルフレッドは以外にも俺の手を今度は掴み返した。
 おや? と首を傾げる俺は、掴まれた手に上から優しくかぶさる、アルフレッドの手を眺める。
「年はお互い様でしょう」
 アルフレッドはそのまま膝を折り、視線が逆転した。
「あと、私の手が冷たいのではなく、あなたの手が暖かいのです」
 仕方のない人だと目を細める顔を、俺は良く知っている。
「私の指一本を小さな片手で握ってくれた時も、屋敷の探検に巻き込もうと引っ張った手も、
 絶望で俯くあなたに何もできなかった私の肩を叩いた時は特に。
 あなたの手は暖かい」
 俺より俺を知る顔をしたかと思えば、この執事はやはりしたたかだ。
 ニヤリと目を悪戯っ子のような三日月にして、口角をくっきりと上げた。
「そして、皺も増えましたね。
 あと親指のささむけは、きちんとクリームを塗ってください。ブルース・ウェイン様」
 もちろんご自分で、と言って俺の手を離した。
 アルフレッドは俺の食べたアイスの棒と袋を片手に立ち上がる。
「全く、年寄りの腰をおらせないでください」
「勝手に折っただけだろ」
 ソファに深く沈む俺は、遊びが終わったと苦笑する。
 こうも付き合いが長いと褒め合うのも茶番かもしれないが、俺は割と好きなんだ。
「なあアルフレッド」
 お前の手が好きなのは本当だ。
 俺は、部屋から去ろうとするアルフレッドに手を振った。
「今はアイスで冷えたが、お前の手が冷たいから俺の手は暖かいとしたら、互助的で面白くないか?」
 だから、茶番でも良いからまた付き合え。
 今度は冬が丁度良いだろう。
 アルフレッドは扉を閉める間際、やはり食えぬ元イギリス諜報員の顔で目を細めた。
「あなたはブルース・ウェインなのですから、あなたが望むように決めれば良いだけでしょうに」



手の話。
こういうだらっとした話書くの好きです。
最後のアルフレッドの表情が、ロミオ諜報員ぽくか、父性の塊なのか、情愛かは想像に任せます。鼻であしらうS属性でも私は萌えます。
ハイヒール似合う系執事アルフレッド