作業部屋に籠ってダイヤ電池を削る俺にせっせと食事を運んでくるのは、いつも同じ女らしかった。声も知らない、顔もろくに見たことがない。部屋の外に食事を置いて、きっかり二時間半後に片付けていく。それが必ず七時と九時半。絶対に話しかけてこないのが有難かった。
話しかけてこない代わりに、食事を乗せたトレイの上にはいつも一枚の紙切れが添えられていた。なんてことはない、よくあるフレーズがほとんどだ。“Enjoy!”とか“ How do you feel?”とか。“Good job today!” の時は確かにここの生活で一番あの頃に近い味だった。そうだ “Look up at the sky”なんて時も。あの時は窓から見えるドでかい満月に息を吞んだ。
三度に一度は手を付けそびれていた食事も、この紙切れになんて書いてあるのかが気になって近頃はできるだけ時間を気にして摂るようにしている。これが彼女の戦略なら成功していると言っていいだろう。効率良く働くには十分な睡眠と食事、それには俺も賛成だ。