かずきち
2025-07-29 00:07:17
2847文字
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あまいてあまえた





……ていう事があってね。すっごく、ドキドキしちゃった」
「それはドキドキしちゃうね……!?」

昼下がり、青空の広がるいい天気の中、葵と夜が手作りのお菓子を持ち寄ってささやかなお茶会を開いていた。不定期に開かれるこの会はいつも共有ルームで行われるのだが、それがグラビの階かプロセラの階かは日によって違った。
今回はグラビでの開催だったのだが、それで葵は先日のグラビの共有ルームでの出来事を思い出したようで、そういえば、と話を始めていたのだ。

びっくりした、と顔を赤らめながら話す葵に、アニマルズと間違えたのかな、なんてあんまりにものほほんとした方向へ夜が話題を曲げていくのをこの席に招待されていた黒年少……またの名を、匂いにつられてふらふらとやってきた欠食児童たちと言う。は、目をまんまると皿のようにして聞いていた。
そんなゲストの反応に気付かないまま焼きたてのスコーンを二つに割って、まだ湯気がほんのり立つふわふわの生地にクリームを塗りながら、ホストの二人は会話を続けている。

「俺が言うのも変なんだけど、男の人の手だーって感じがして、郁もすっかり大人なんだなって思っちゃった」
「ラキバとかでハグは今でもよくするけど、手を繋いだりはあんまりしないよね」
「ね。でもすぐ起きてくれて良かった」
「いっくん誰と待ち合わせしてたんだろうね?」

(俺です…………!!)

……とはとてもこの流れで言える筈もなく。それどころか話に加わると墓穴を掘りかねないと、口にマドレーヌを詰め込んでだんまりを決め込んでいた恋に、夜の純粋な疑問が突き刺さる。
誰だろうなあ、なんて一緒に考えるみたいな素知らぬ顔をしてもぐもぐと咀嚼をする。バターの風味にマーマーレードのジャムが合わさってとても美味しい。

「ねー、誰なんでしょうねー!あ、夜さん、紅茶のおかわりが欲しいんですけど!ありますか!!」

恋とは違い食欲に忠実に口いっぱいにパウンドケーキを頬張っていて口を挟めずにいた駆は恋の反応を見て、わざとらしくとぼけて話題を逸らす。
助け舟なのか、この話題早く終わらないかな、の意なのかは定かではなかったが恋にとってはありがたい事この上ない。キラキラとした眼差しで隣を見れば目の前の二人に気付かれないように机の下で小突かれた。

「あ、うん、もちろん!今淹れてくるから待ってて」
「お手伝いします!」

毎度お菓子でも飲み物でもハイクオリティなもてなしをしてくれる夜を追うように駆も席を立つ。ティーポットを取ろうとしていたので恋が渡してあげるとあっかんべをされて思わず引き攣った笑みを返してしまった。
キッチンへと向かう二人を見送ってから、恋はこればかりは感謝するしかないと、自分のお皿に確保していたスコーンを一つ、隣の皿に移しておいた。

ひと安心した恋はマドレーヌを飲み込んで、カップに残った最後の紅茶を飲み干す。運んできた時に葵がなんの茶葉か教えてくれたが、恋の頭からすっかり飛んでいってしまっていた。ごめんなさい葵さん。いい香りなのは分かります。

「ごめんね、恋」

脳内で謝っていた相手から同じ謝罪を受けて恋は首を傾げる。すると葵は口元に手を添えてキッチンに聞こえないようにこそこそと身を乗り出した。

「あの後ちゃんと会えた?」
……っげほ!あお、いさ……ごほごほ!!」

不意を突かれて喉に紅茶が絡まった。盛大に咽せた恋に葵はやっぱり、と溢した。

「なんかちょっとだけ色んなものを垣間見てしまった気がして。郁には内緒にするねって言ったんだけど、一応恋にも、謝っておきたいなーと」
「や、やだなー葵さん!何の事ですかね!?」
「あはは。……うん、なんの事だろうね?」

紅茶と別に用意していた水をグラスに注いで恋に手渡した葵はそれで静かに言葉を切った。
訪れた静寂に恋はいたたまれなくなって、受け取った水を飲み干し、下を向いて、でもまあ、と空のグラスに言葉を注ぐ。

「あの後。郁がめっちゃ動揺してて、面白かったですよ」