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保科
2025-07-28 13:08:36
3487文字
Public
スタレ
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貴女はどんな人
アグサフェ現パロシリーズ ライアちゃんがフェルちゃんの里親になったよ いつの間に……
「ええと、それで
……
隣の方は
……
」
ちらりと、役所の職員がアグライアを見た。その目は疑わしい、とばかりに細められていて、珍しくも彼女の美貌に惑わされないヒトだった。見た目の差、年の差
――
贔屓目込みでもアタシと彼女が血縁とは思えないだろう。そしてそれは事実でもある。
職員の態度を気にした様子もなく、アグライアは薄く笑みを浮かべながら答えた。
「セ
――
、
……
サフェルの、保護者になります」
「ああ
……
これは失礼しました。親御さんでしたか」
「
――
、そうですね。そのようなものです」
そんな、どことなくぎこちないやりとりを横目に、あたしは口から漏れ出た生あくびを噛み殺す。
こういった公的な場に限らず、こうして関係を親子としてまとめられることは多い。
……
いつもながら、もっとうまい表現はないのかと考えてしまう。
アグライアは自覚があるかはわからないけれど、意図して親、という言い回しを避けているきらいがある。そして、それはあたしも同じだった。何せ、かつても今も、あたしとアグライアが、正しく親子であったことは一度もない。
『金織』のラプティスと、そこに寄り付く野良猫が一匹。それだけ。黄金裔として生きた頃も、単なる学生である今も、変わらない関係だ。
――
けれど、現状、このオンパロスではない世界において、彼女は孤児であるあたしの『里親』というものにあたる。そうあることを彼女が望んだためだ。そんな、実態と感覚の乖離が、絶妙に説明の難度を上げているという問題があった。
「
……
なんかさぁ、うまい言い方ないもんかね〜」
高校に提出する書類を無事に受け取った後。帰路につく道中のあたしの呟きに、隣を歩くアグライアが瞬いた。
「何がでしょう?」
「あたしとあんたの関係。書面上の親子とかだとなんか違和感あるし、いい説明の仕方ってこと。皆に納得してもらえるようなの」
「ふむ
……
」
アグライアはその言葉に、悩ましげに指を顎に当てると。小さくつぶやく。
「
……
友人、はまた違いますか」
友人。トモダチ。自然、最近関わりのあるファイノンやキャストリスらの顔が浮かぶ。彼らとアグライアが同じかどうか。隣の澄ました横顔を眺めて、首をひねる。
「んー
……
まあ、それがいいかもね。ちょっと違う気はするけど」
「
……
そうですか
……
」
違和感をそのまま口にすれば、アグライアの視線がするりと下がる。
……
え、何か落ち込んでる?
「
……
私と貴女は、特段友人ではなかったのですね
……
残念です
……
」
「う、ぇ?
……
待った別に友人未満の他人とかって言ってるんじゃないっての!あくまで?その、そう!表現的な話で、」
「おや、そうでしたか」
「
―――
」
慌てて言い募ろうとすれば、しれっと上げられた顔は何時も通りのモノだ。
――
またハメられた。かつての仕返しとばかりに繰り出される、この女のカマかけにここのところかなり弱い。苦虫を噛み潰した顔で睨みつける。
「
……
だーかーらぁ、からかうのやめてって
……
!」
「ふふ。すみません、貴女があまりにも隙まみれなもので、その愛らしさについ」
「言い訳ですらない責任転嫁じゃん!」
堪らず声を上げれば、楽しそうにくすくすと笑うアグライアがいるものだから。絆されて二の句が継げなって、あたしはそっぽを向く。
……
再会してからこの方、張る必要のない意地や、必要のない嘘を取っ払うと、彼女に甘すぎやしないかと不安になってくる
……
。
ため息混じりに、やっぱり親子とかって柄じゃないなあ、と思って。だから。もし、それ以外になるとするなら
――
「あ、サフェル!奇遇だね」
「教科書ちゃんじゃん。こんな所でどうしたの〜?」
「もー、なにそのあだ名?
これこれ、新作のコスメ出たから買いに来たの!」
――
クラスメートの一人に声をかけられて、あたしはスマホに向けていた顔を上げる。役所に行った日から数日後。ショッピングモールの休憩用ベンチで、裁縫女の買い物待ちをしていた最中だった。本当何着買うんだか。
新作のコスメから始まり、学校の宿題やら今度の修学旅行について、なんて他愛のない話で適当にいなしながら数分が経った頃。近くのブランドの服屋から、店員のやけに張り切った「有難うございました!」の声が聞こえて、あたしはふと顔を上げる。
「でさー
……
サフェル?どったの?」
「んー
……
」軽く辺りを見渡して
――
いや、探すまでもない。
「
――
セファリア。お待たせしました
……
おや」
ただ歩くだけで、当然のように辺りの視線を掻っ攫う女はよくよく目立った。懇意のブランドの紙袋を下げたアグライアは、あたしの前で立ち止まると、隣を見て柔らかく微笑む。「こちらの方は、貴女の御学友ですか?」
「そ、クラスメートの子」
「ぅあ、えっと、こんにちは
……
?」
手を向けて紹介され、戸惑ったように頭を下げたクラスメートちゃんが、顔を赤らめながらあたしとアグライアを見比べる。そうして、あたしの服の裾をくいと引く。
「
……
ね、この綺麗なお姉さん、サフェルの知り合い
……
なの?」
「あー、
……
うん、まあ
――
なんというか
……
」
案の定、謎の人と思われていた。
どう説明したものか、と一瞬首をひねって
――
ああそうだ。
この前の帰り道で結論は出てたんだった。だから、つまり、
――
「大切な人」
これまでも、これからも。あたしの彼女の関係が過不足なく伝わる言い回し。
何となしに口にすると、クラスメートちゃんもアグライアも揃って同じ顔をした。
――
絶句。何で?
「
……
え、あ、ええ!?
そ、そういう感じ、なんだ。なんかごめん
……
お邪魔しちゃってたね
……
」
「
……
?うん?」
突然の狼狽の意味を理解する前に、クラスメートちゃんは挨拶もそこそこにそそくさと去っていった。訝しみつつその背を見送っていれば。
かつん、と高くヒールが床を打つ。そこに咎めるような圧を感じて、自然、視線が戻る。
「
――
説明を、頼めますか。セファリア」
「
……
何、急に凄んで。
聞いてなかった?今の子はクラスメートで」
「いいえ、違います、そうではなく
――
」
どこか切羽詰まったように続けるアグライアは、そうではなく、ともどかしそうに繰り返して。諦めたように額を抑えた。
「
……
そう。貴女のその、誤魔化しのない言葉に鈍感な所は、かつての詭術の影響かもしれませんね
……
」
「は?別に今、嘘ついてない
……
けど」
「そうでしょう。嘘や方便ではない。分かっています、そうだとすれば
……
あまりに拙いものですから」
どこか憐れむような眼差しに、負けじと睨み返す。こと、嘘については何であろうと貶されるのは聞き逃がせない。しかしアグライアは、そんなあたしの態度を気にした素振りもなく、淡々と口にする。
「良いですか、セファリア。
――
思うに、通常、『大切な人』という言い回しは、
恋人に対して使われるものですよ
」
「
…………………
、
………
は?」
このおんなは、なんのことを、いっている
――
じわじわと脳内に染み込む言葉が、理解という概念へ到達するのに3秒かかって。
途端、ぶわ、と全身の毛が逆立つ。
「なッ!」
「恐らく、去っていった彼女も同じ解釈でしょうね
――
後できちんと話しておくように」
とうに見えなくなった人影を追うように、遠くを見つめた後、アグライアは分かりやすく肩を竦めた。
「私は今、大変に困惑しています。よもや貴女から、ここまで熱烈な愛の告白を受けるなんて、青天の霹靂とて限度があるでしょう。ここが観衆の中でなければどうなっていたか分かりますか?」
「し、してないし意味分かんないし!
――
だって、別に、そんな、大した意味とかなくて、
……
っ、あのさ、
分かってる
んでしょ裁縫女!」
「ふふ」
何が面白いのか、くす、と楽しげな笑い声に、頭がぐるぐる回ってうまく言葉が紡げない。何が一番まずいって、何せ、彼女の推察通り本当に他意がないのだ。嘘なら隠せていた真意も、ごまかしならはれる予防線も、何も持たずいる今。ここからどうすれば、彼女のこの余裕を崩して逃げ出せるのか。
「ええ、勿論。分かっていますよ、貴女が言いたいことは。
私も
――
」
そんなあたしの焦りも余裕のなさも、全部お見通し、みたいな面をして。ライアは、さも当然ように、
「愛しています、セファリア。
私の良心、大切な宝物」
「
―――
」
無抵抗の子猫にとどめを刺す。すっかり聞き慣れたはずのそれは、恐ろしいほどに今のあたしを揺さぶって。
――
だって!それはさぁ!本当に!ただの愛の告白でしょうが!
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