眞昼
Public 短編
 

The night's just getting started

2024感謝祭後のガラハイとバリスタ。知ることのできないことを知る。2頁目はおまけの話。


おまけ: ハイドがガラ兄弟姉妹から聞いた話

「その昔小腹が空いた俺は、ガラがチェストの中にチョコを隠し持っていることを思い出した。ほんのちょっとのつもりが全部食べちまって、俺は誤魔化すために良さそうな木の板を拾ってきてアルミホイルで包み、その上から元の包み紙を巻いた。暫くしてそれを見せながら尋ねてきたガラに、知らないと俺はシラを切り通した。そしたら突然ブチギレたこいつは、俺のグラブを引き裂き、バットをへし折ったんだ」
「それから家はめちゃくちゃよ。兄弟姉妹全員を巻き込んだ大喧嘩に発展してさ」
「あれは特に酷かったよな」
「うちの中をハリケーンが通ったみたいだった」
「なんでか屋根の上に椅子が乗ってたしね」
「庭に穴も空いてた」
「仕事から帰ってきたママの絶叫で皆やっと大人しくなって、全員家中の掃除と修理を命じられ、パパからは人のものを無断で食べない誓いを立てさせられた。次こんなことがあったらまとめて家から叩き出すぞってね」
「もちろん、発端の俺たちは親父からぶん殴られた。こいつはそれにも納得いかず、もう一発くらうまで食い下がったがな」
「だからハイドさん、ガラから食べ物の根みを買わないよう気をつけて」
「どう考えても悪いの俺だけじゃねえだろ……



「ある日ガラが捨て猫を拾ってきた。まだ目も開いてなくて、多分生まれてから一週間も経ってない黒い子猫だった。胸に一箇所だけ白い毛が混じってたのを覚えてる。うちで飼いたいと言うガラに、両親がなんて言うか私と兄はわかってた。私たちも試みては失敗してきたことだから。ひとまず、私たちはこっそり世話することにした。昼は地下室に隠し、夜は自分たちの部屋に運び込んで、交代でミルクをあげた。子猫が元気に育ってきた時、ガラはとうとう両親に頼んだ。思った通り、二人の答えはノー。どんな説得も懇願も無駄だった。理由はわかるでしょ? それがガラを想ってのことでも、まだ幼くて変身期がどういうものか本当にはわかっていなかったあの子には、ただの無情な決定だった。ガラはひどく落ち込んだけど、やがてそれを受け入れたみたいだった。子猫は無事貰い手が見つかった。別れの日、ガラは自分で渡しに行くと言った。ガラによく懐いた子猫がいつものように靴紐にじゃれついても、あの子は笑うこともなく、ひと撫でしただけだった。首に巻いていた水色のリボンを外し、バスケットに入れた。涙も見せなかった。それからママと出掛けて戻ってきたガラは、これでいいんだと、空になったバスケットを抱きしめて言ったの」



「人狼の子供を躾けるにあたって、よく使われてたのが吸血鬼の話だ」
「言うこと聞かない悪い子は寝ている間に攫われて餌にされるってやつね」
「ガキの頃は皆それを本気で信じてた」
「ある日兄弟揃って夜中まで寝ないで騒いでいたら、ママが言った。『あんたたち、早く寝ないと吸血鬼が来るよ。寝ている間にあんたたちの首に噛みついて、血を吸われてそのまま仲間にされてしまうからね。そうなったらもう二度とママにもきょうだいたちにも会えないんだから』って」
「俺は信じてなかった。姉貴ももう信じる歳じゃなかった。だけどガラはまだ信じてた」
「そしたらあいつは寝ないで、夜中じゅう子供部屋のドアの前に座って番をしてたんだ。吸血鬼なんか追い払ってやるって」
「でも結局、眠たくなって寝ちゃったのよ。それでパパがベッドに運んだんだけど……
「朝起きたら大騒動。ベッドで寝てるはずがないのにって。それも、一人で廊下で寝てたから吸血鬼がやってきて、血を吸ったことがバレないように運んだんだってね。真相を言い聞かせてもまるでダメ。自分がちゃんと写ってるか、家中の鏡を見てまわってた」
「吸血鬼の仲間になりたくないって大泣きしてたな」
「それが今や……、ねえ」



「ガラが戦地に行ってから初めての感謝祭の休暇に、家に戻ってきた。両親はいたく喜んで、母は夕飯のメニューを全部兄貴の好物にした。俺はミートローフなんか好きじゃないって言ったのにおかまいなしさ。空港で出迎えた兄貴は痩せてはいたが見事な身体つきになっていた。けど、日に焼けた顔は疲れがみえ、目元には深い隈があった。それでも皆、いつも通りだと思った。家に着くなり、兄貴は眠ると言ってベッドに行ったけどすぐに起きてきた。ずっとぼんやりと沈んでるみたいだった。ディナーの時間になっても口数は少なく、ジョークを言いもせず、あまり笑わなかった。俺たちは、兄貴に少し腹を立て始めていた。折角家に戻ってきたのに、少しも嬉しそうじゃなかったからだ。それから、俺たちは兄貴を質問責めにした。戦場ってどんな感じ?とか、その他もう口にするのも憚られるような、無神経で残酷な質問の数々を……。翌日、まだ休暇は残っていたのに兄貴は帰ると言った。驚きだろ。帰る家はここなのに、たしかに帰ると言ったんだ。戦況は良くない、チームの皆が心配だからと言っていた。そう、兄貴はやさしい人のままだった。だから当時の家族全員、誰一人理解していなかった。それでもたしかに、確実に、間違いなく、取り返しのつかない何かが、致命的に変わっちまったってことを。……この話を、あんたが決してガラにしないでいてくれるよう、願ってる」