mishiadd
2025-07-23 00:55:31
6714文字
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おこめらばー氏新作柳伊小説『月下の桜』(一部抜粋)

【FGO軸】(※毎度恒例秘書殿イベントヘルプ現物支給御礼の品)『Retry.』収録『サムライ同人レムナントの感情』おまけ。おこめらばーさんがどったんばったん吐血悶絶しながら書いたオメガバースマフィアパロ柳伊小説(18禁)とその感想をしたためるYUIさん【剣伊/柳伊】
【新刊】『Retry.』(新書版 74p):https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031254614/
【無配再録】『おこめらばー新刊セット・全年齢版』:https://www.pixiv.net/artworks/132655807
【無配再録】『おこめらばー新刊セット・無修正版』:https://www.pixiv.net/artworks/132656399



………………

いっそ死んだような憔悴しきった顔でPC画面を見つめ続けているタケルに、書棚を漁っていた伊織が「喉が渇いたのならば緑茶があるが」と声を掛ける。――が、返事がないため軽く肩を竦め、再び書棚へと目線を戻す。

「宗矩に伸び」の末尾で点滅し続けているカーソルを、タケルがただ茫然と見つめている。ぶつぶつと口の中で呟き続けている言葉は伊織には聞き咎められなかった。

「無理無理無理無理もうこれ本当に無理だ………

――そもそもどうしてこんなものを書こうと思うに至ったか。それは勿論、いつも通りの動機だった。「そういう伊織を表現してみたい」。タケルの創作活動の源はいつだってひとえにそれに尽きる。



きっかけはなんだったか。もう何十作目なのかもとっくにわからなくなっていたモブ伊小説を書き終えたあと、ふと思ったのだった。たまには、ほんのたまには、味変くらいの気持ちで、自分――を自己投影したモブ男――以外を相手にしている伊織を見てみたい。
マンネリ、ということは決してなかった。正直、何十パターンの出逢いを繰り返し、何百パターンの告白を経て、何千パターンの伊織とのデートを自らの手で紡ぐ作品の中で過ごそうと、タケルが飽きる日など永遠にこない。カルデアここに来る以前から寝ても覚めても彼のことばかり考えていた。それを出力するか否かの違いである。

ただ、たまには自分――を自己投影したモブ男――以外と恋愛している伊織、というのも乙なのではないかと思いついた。味変を挟んで別の角度から自分の中の伊織像を見つめ直すことで、それをまたライフワークであるモブ伊の執筆に還元することができる。……最近の作品では、少し伊織を自分の都合のいいように動かし過ぎではないか、という自己疑念を抱いていた。もし実際にそうなってしまっているのならば、モブ伊ばかりを書き続けることにより自分が陥ってしまっている悪循環を断ち切るきっかけにもなるだろう。

そうと決まればとことん自分を追い詰めてみようと思った。相手は、盈月の儀の日々において唯一そういう意味で危機感を抱いた――本人が一体どういうつもりだったのか今となっては知るすべがないが、とにかくあの男が伊織の名を呼ぶ声はやたらと艶めかしくて警戒せざるを得なかった――柳生宗矩に敢えてしてみようと思った。ここで日和って鄭成功や助之進などにしたら、自分の中で旧知に対する甘えが出て、碌に伊織との恋愛にも発展せぬまま友情話が関の山で物語を終わらせてしまいそうだった。

タケルはさらに自分に試練を課した。まさか宗矩と伊織のふたりで水茶屋に出掛けてお茶をして帰ってきた――なんてほのぼの話で終わらせないように、絶対に恋愛話に――あるいは濡れ場に――発展するように、そういう設定を用意した。慶安軸を放棄して現パロとした。さらに、タケル自身詳細はよくわかっていないがひとたび使えば絶対に濡れ場に持ち込めるという諸刃の剣――オメガバース設定を拝借することとした。あと、ついでに♡喘ぎというのも試してみようと思った。なんのことはない、単にタケルがタイピングを覚えた頃――神話の時代とまでは言わずとも古の時代である――は、まだ日本語フォントに「♡」が含まれていなかったため「♡」を文章に使う習慣がつかなかったのが、以来取り入れるきっかけもなくずるずるとここまで来てしまったのであった。伊織の語尾に「♡」が付いたら愛いな、とは常々思ってはいた。――現実の伊織の語尾には、そんなものはこの星が終わるその日まで永遠に付いてくれないので。

そういうわけで、慣れない要素をてんこ盛りにし――自分を追い詰め、絶対に逃げられない状況を敢えて創り出し――オメガバースマフィアパロ柳伊小説(18禁)という、胡乱にも程があるお題でタケルは執筆を開始した。



――のはよかったのだが。



「無理無理無理無理無理無理本当に無理」

もしかしたら、ほんの少しの欲目と自我を出してしまったのが運の尽きだったのかもしれない。柳伊小説――とは言いながら、伊織が自分――を投影したモブ男――以外の『運命』と番になることなどあり得ないため――だから、匂わせてしまった。

この作品は確かに柳伊ではあるのだが、伊織の運命は別にいる。その上で、ヒートを迎えたΩである伊織はαである宗矩のフェロモンに逆らえず、不可抗力的に体を許してしまう。
それは、仕方のないことだ。ヒートは生理現象であり、伊織の本心は宗矩ではない別の誰かにあったのだとしても、本能には逆らえない。伊織は悪くない。――悪いのはタケルの見通しであった。

本命じぶんの目と手の届かぬところで、口では嫌と言いながら体は正直になってしまった伊織が、すっかり快楽堕ちして宗矩とどろどろの肉体関係を持ってしまう。



それってつまりNTRである。



はからずも、そんなつもりはまったくなく――そんな性癖すらまったく持たぬまま――タケルはなぜか、全力で自らの脳を破壊しにいってしまったのであった。



ふるふると震える両手をなんとかキーボードの上に載せる。ひとつタイプする毎に脳細胞がプチュンと音を立てて焼けるようだった。――それでも、自分で始めてしまった物語は、最後まで紡がなければならない。それが、タケルの字書きとしてのちっぽけな意地だった。

「うううううう~~~ッ」

嗚咽のような獣の断末魔のような唸り声を上げながら、タケルがカタカタとキーボードを叩く。――それを横目に見ながら、「差し入れに団子でも拵えてやるか」と、伊織が手にしていた書をぱたんと閉じた。






おこめらばー氏新作柳伊小説『月下の桜』(一部抜粋)・了