mishiadd
2025-07-23 00:55:31
6714文字
Public
 

おこめらばー氏新作柳伊小説『月下の桜』(一部抜粋)

【FGO軸】(※毎度恒例秘書殿イベントヘルプ現物支給御礼の品)『Retry.』収録『サムライ同人レムナントの感情』おまけ。おこめらばーさんがどったんばったん吐血悶絶しながら書いたオメガバースマフィアパロ柳伊小説(18禁)とその感想をしたためるYUIさん【剣伊/柳伊】
【新刊】『Retry.』(新書版 74p):https://ecs.toranoana.jp/joshi/ec/item/040031254614/
【無配再録】『おこめらばー新刊セット・全年齢版』:https://www.pixiv.net/artworks/132655807
【無配再録】『おこめらばー新刊セット・無修正版』:https://www.pixiv.net/artworks/132656399


第十六章


鍵を閉め、中から重量のある金庫で押さえて厳重なバリケードを形成してまで閉め切った扉の向こうで、ドンドンと激しく叩く音がする。革張りのソファの上で猫のように丸くなりながら、伊織が重い二重瞼をうっすらと開けて音の方を見遣る。体の内側から、じくじくと切ない疼きと熱が全身へと広がっていく。もぞ、と体を動かした拍子に擦れた肌が甘く痺れた。――どうしてこんなことに、と思う。

常ならば抑制剤を飲み忘れることなど決してなかった。今朝に限ってうっかりしてしまったのは、もしかしたらその直前に来たメールのせいなのかもしれなかった。
「この街に久しぶりに帰ってくるから会おう」という内容だった。男はカタギの世界で会社を経営している男で、伊織とはバーで知り合った。いまだに伊織の家業を知らないし、伊織がΩであることも知らない。

ネクタイを僅かに弛め、うなじに指先で触れる。かつん、と硬い音がした。せめて付け忘れることのなかったチョーカー型のプロテクターの存在に安堵しつつ、ふ、と小さな溜息をつく。まるで発熱しているかのように熱く、悩ましげな吐息だった。

「おや。これは随分と珍しい客人がお越しであるな。――伊織殿」

急に耳元近くで響いた声に驚いた伊織が身を起こす。生理的に滲む涙にぼやけた視界に瞬くと、穏やかな微笑みを浮かべた男の姿がクリアに見えた。「あ、」と伊織が掠れた声で言った。

「宗、矩殿。……なぜ」
「ここに、と? ――ああ、その様子では追っ手から逃れるのに夢中で、逃げた先のここが一体誰の執務室か確かめ損ねたかな」

ゆったりとした口調でそう言うと、ドンドンと激しく叩かれ続けている扉の方を見て、目を細めた。

「あれらも憐れなり。そのように芳しく強烈なフェロモンに当てられたのではひとたまりもない。獣性を剥き出しにした彼らが悪いのか、彼らの獣性を剥き出しにさせた方が悪なのか
……

は、は、と重い呼吸を繰り返しながら伊織が目を伏せる。その眦がほんのりと桜色に染まり、再び生理的な涙が滲んでくる。その顎先に指先がかかり、くい、と上向かせられる。抵抗する力もなく伊織がされるがままにしていると、宗矩が興味深げに伊織の顔を覗き込んだ。

「これはまた、思わぬところでかように見事な夜桜を堪能できるとは拙者もツキのあったもの。――ああいや、美しい『月』もここにある」

伊織の目にかかった重い前髪をさらりと指先で除けて露わになった瞳を覗き込み、フフ、と宗矩が笑う。宗矩の指先が髪に触れる感覚に、はあ、と伊織が甘い吐息を漏らした。うっとりと耽溺するように、伊織が切れ長の目を細める。その快楽を貪るような顔を見て、宗矩が笑みを深めた。

「これは意外。――貴殿の精神力をもってしても、やはりΩの性には逆らえぬようだ。これはまたなかなかに佳い顔をしている」

体の芯から沸き起こる熱さに耐えきれず、羽織っていた大振りのジャケットはソファによじ登ったときに床に落としてしまっていた。まるで蛇の脱皮のようだった。
ソファの上でもぞもぞと身悶えしていた間にスーツの上着はすとんと肩から落ちて肘のあたりでわだかまっており、むしろ腕枷のようですらあった。どのみち体の自由が利かずに満足に動けない体をネクタイごと引っ張られ、指先で擽るようにして弛められる。開いた衿から覗いたチョーカーに宗矩が愉快そうに目を細め、コンコン、と爪の先で軽く叩いた。

「ああ、なんという。この通り厳重に鍵がかかっている――貴殿ともあろう御仁が抑制剤を飲み忘れたのは、もしや無意識のうちにでも貴殿の中に鍵を渡したい相手が居たのかな、伊織殿?」

ぴくり、と情欲に濡れた伊織の瞳が揺れた。熱に蕩かされていくような思考回路の中で、一瞬だけ意識がはっきりとする。「嫌……」とようやく拒絶の言葉を口にして宗矩の手を振り払おうとしたが、碌に力の入らない体では両の腕に絡みついた上着の袖すら振りほどくこともままならなかった。
フフ、と宗矩の口許が弧を描く。するりと伊織のネクタイを引き抜き、シャツのボタンを丁寧にひとつずつ外していく。露出した白い胸元に、ちゅ、と音を立てて唇を落とす。柔らかな粘膜の触れる感覚に伊織の肌が粟立ち、びくん、とその細い体が大きく震えてしなる。

「い、嫌……嫌だ……貴殿とは、嫌……
「なに、そう難しく捉えることはない。――これはただ、貴殿を鎮めるために行うこと。かように苦しげな発情期の雌猫を生殺しにするはあまりに無情」

するすると伊織のしっとりと汗ばんだ肌を撫でながら、伊織の腕から上着ごとシャツを引き抜く。戒めを失っても伊織の両腕はまったく持ち主の言うことを聞かず、ただ痺れたようにだらりと力なく放られていた。その手を取って、宗矩が伊織の手の甲に唇を落とす。その感覚に、伊織が小さく声を漏らす。

「ンッ……

鼻から抜けるような甘い声に、宗矩が片眉を跳ね上げる。「フフ」と苦笑して、伊織の顎の下をわざと猫にするように擽ってから、指の股にぴちゃぴちゃと舌を這わせる。

「んっ……い、いや……
「ッフフ、たかだか指をねぶられただけでそのように愛らしい声を上げるΩには、それなりの経験を自負している拙者も初めてお目にかかる。……果たして、貴殿が特別に感じやすい性質たちなのか、貴殿が特別手が弱いのか、それとも」

指の股から手のひらに舌を這わせ、そのまま腕の内側を尺骨に沿って舌先でなぞる。「ンッ」と思わず漏れた声を伊織がもう片方の手で覆ったが、眦にじゅわりと滲んだ涙が桃色に染まった頬を伝った。口許を覆う伊織の手首を宗矩が掴み、そっと体を開くように除けてやる。熟れたように赤く色づきしどけなく開いた口の端から、たらたらと飲み込み切れなかった唾液が顎まで垂れている。まるでマタタビを嗅がされた雌猫のような顔だった。

――それとも。……貴殿もまた、αのフェロモンに当てられている。……とりあえずたまたまそこに居た、拙者というただの行きずりのαのフェロモンに」
「っは、あ……

熱い呼吸を繰り返す伊織の、誘うように開いたままの口の中でしっとりと濡れた赤い舌がぬらぬらと光っている。宗矩がその舌を自分の舌先で絡めとるように唇を合わせると、本能に突き動かされるままに伊織がそれに応える。「ン、ン」と鼻から抜ける呼気がどんどん甘ったるさを増していき、やがて宗矩が唇を離すと、名残惜しげに伊織の赤い舌が宗矩のそれを最後まで追いかけた。ぴちゃん、と濡れた音を立てて銀色の唾液の糸が弾けて切れる。

はあ、はあ、と肩で息をする伊織の白い胸元が上下している。そのぷっくりと赤く膨れて自己主張している先端の突起に宗矩が唇を寄せると、ほとんど力の入らない様子で伊織が両手を伸ばしてくる。必死に宗矩の身体を遠くへ押しやろうとしているようだった。その、なんの抵抗にもなっていない、児戯にも満たないような仕草に、「よしよし」とあやすように宗矩が伊織の後頭部を撫でる。それから、伊織の耳元で囁くように言った。

「誰ぞに操立てかな、伊織殿。健気なことだ。――貴殿が嫌だと言うのなら、無論、無理強いはせぬ。……貴殿が真実、嫌だと言うのなら」
「い、嫌……

伊織が宗矩を見る。発情しきってすっかり頬を桃色に上気させ、生理的な涙の滲む瞳を期待に潤ませている。掠れた甘い声で囁くように言った。

「い、嫌……♡ お、俺には……すっ、好きな人が、いるから……っ♡♡」
「ほう? 左様であるか、伊織殿?」
「だから……貴殿とは……♡ 嫌……♡ 絶対……嫌っ……♡ できな……したくな…………♡♡」

甘い吐息の合間に喘ぐように囁きながら、伊織の手がねだるように宗矩に伸び