kanaco
2025-07-19 00:00:47
8459文字
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【十二信】よーい、ドン/ゴール、イン

《十二信》
前編よーい、ドン:十二くんに恋する信一くんのキスチャレンジ。信一と十二が九龍城砦で爆走をしている理由。
後編ゴール、イン:勝利した十二くんも加えて十二信のキスチャレンジ。信一と十二が恋人同士になった日。


★後編: ゴール、イン★

「あいつマジ容赦ねぇ
「誰だよ四仔をゴールテープにしようだなんて言いだしたヤツ。アホだろ」
「お前だよ、お前。ロクなことしか考えつかねぇな」

ヒマを持て余して九龍城砦で“かけっこ”をした結果、異常な気迫と形相で自分に向かって走ってくる信一と十二少への恐怖、これはろくでもないことに巻き込まれているという正しき勘、何より掃除の邪魔をされたという苛立ちなど、ゴールテープ四仔はあらゆる理由にて2人がドクターの体へ手を伸ばすよりも先に速攻ブチぎれた。

そうして信一と十二が逆に四仔に追い回され、十二、信一の順でプロレス技で床に沈められ、そのままま掃除を手伝わされて早2時間。やっと解放された頃には2人ともドッと疲れてヘロヘロの状態であった。

元気よく走り回ったせいで汗がドロドロ、続いて怒りの四仔によって床にコロコロ転がされ、そのまま掃除をしたことで体中がパサパサと埃っぽい。

「これはさすがに共用浴場にいこうぜ」という十二の提案で、連れ立ってシャワーを浴びてやっとひと段落。自分の部屋に戻ってきた信一は疲れたと言わんばかりの緩慢な動作でドアを開く。中に戻り、十二が後ろから続く。

「まぁヒマはつぶれたな」
「そうだな」
信一に十二が同意した。そして十二がドアを閉めてそのままノブをロックする。
(カチッ?)
音に反応して信一が振り向く。


「この勝負俺の勝ちだよな?信一」


ドアを背にして立つ十二が、逸らすことを許さない真剣な眼差しを信一に向けて言った。落ち着いたトーンの声が部屋に響いて、場の空気を一変させたような気がして信一は少しだけ焦る。

「だから抱いていいんだよな?」

強い視線のままに十二が一歩前に出たので、信一はヒクリと喉を鳴らして一歩後ろに下がった。自分がけしかけた“かけっこ”の目的を忘れていたわけではない。だがしかし

「いやいやいや、あんなのご破算だろ。お前四仔にタッチしてないじゃん!キレて追いかけて来た四仔に、先に取っつかまったってだけじゃねーか。プライドはねぇのかよ」
「ルール無用。とにかく四仔に先に触った方が正義って言ったのはお前だよなぁ?じゃぁ先に四仔に触ったんだから、俺の勝ちだろ」

十二の言い分はもっともだった。それに信一は正直なところ、勝負の結果についても、約束についても覆すつもりも反抗するつもりもなかった。それでも引け腰になっているのは十二の様子が想像とは違ったからだった。十二が自分に向かって真顔で喋るのが、信一からするとどうにも居心地が悪い。

こんな態度をとられたことは今までなかった。イラついていたり、怒っているのとは違う。感情が冷めている様子はないが、妙に圧迫感がある。

普通、好きな奴を抱く権利をGETしたのならば喜ぶとか興奮するとか、もっと温度の高い感情が溢れるものではないのか。どうして俺はこんなロートーンで責められているんだ。そう混乱しながら十二の機微を読み取ろうとしてじっくりと観察する。

「なんかお前開き直った?」
「違う、反省をした」
「反省?」

十二が信一の方に歩み寄る。信一は今度は後ろに下がらなかった。目線を逸らせば負けであるような気がして、まるで睨み合うように顔を合わせる。傍から見たらケンカをしているように見えるかもしれない。

顔がすぐそばまで近づく。そこで信一はやっと「近すぎる」と制そうとして両手を上げ、相手を抑えようとした。その上がった両手をパシッという子気味の良い音を立てて十二が掴む。驚く信一を無視して十二がまっすぐに信一を見た。

「好きだ」
たった三文字の短い言葉が、信一の耳に深く響いた。聞いた瞬間に顔を真っ赤にして小さく「ぁ」と声を漏らす。十二はそれに被せるように言葉を連ねた。

抱きたい。
セックスしようって言ったのはお前だよな。
相思相愛だってお前は言った。
ずっと好きだった。それを知ってたんだよな。
それでこんな勝負しかけてくるってことは。

「お前も俺のことが好きってことだよな」
「ちょ、待てっ」
「待たない。抱く権利もらった」
「そうだけど、待った!」

悲鳴のような高い声を上げて信一はストップをかけた。発火しそうなほど自分の顔が熱かった。真顔だった十二の顔つきが変わっていくのも間近で見る。ジリジリと上がっていた熱視線が、一気に過激化して瞳に炎の渦を巻く。その渦は信一の視線を捕えて絡み離さない。同じように逃がさぬよう掴まれた手首が締められて痛みすら感じる。十二の手のひらも熱がこもっていた。しっとりしているのが分かる程に汗をかいている。

「あんなにウダウダモダモダしてた可愛いお前はどこ行ったの」
「じっくりいこうと思ってたのに、無邪気に全部ぶっ壊したのはお前だろ」
無邪気にやったわけじゃない。この現状が好きじゃなかった」
「分かってる。反省した。何か一歩を踏み込むとき、号令をかけるのはいつもお前だ。盤面を動かして俺を引っ張る。そういうところに俺は惚れてる」
信一は目を丸くした。
「だからもう遠慮しないことにした」
十二がキッパリと言い切る。こうなったら十二は揺るがなくなる。その性質を愛している信一はよくよく知っていた。

「お前やっぱり俺のこと大好きだな?」
感心したように信一が言うと十二が嫌そうな顔をした。
「やっぱりって何だよ、知ってたんだろ」
「俺を抱けるって言うのに最初は真顔だったからどういう感情なのかと思った」
「バカかよ」
そう、年下の幼馴染は呆れたような顔をして、掴んだままの年上の幼馴染の右手を引っ張った。そのまま信一の手のひらを自分の胸へと押しつける。振動が伝わるほどの大きくバクバクとした心臓の鼓動が信一の手のひらを打った。
「こっちだってテンパってだ。言わせんな」
十二はちょっとだけ拗ねたようにそう言う。そして信一の手首を元の位置に戻す。

体勢が元に戻った瞬間、仕切り直すかのように飢えた虎の熱い視線が信一を貫いた。信一の体が反射的にまた一歩引こうとした。それを許さないと掴まれたままの手首がグイッと手前に引っ張られる。気がつけば腕の中に抱きこまれていた。手首が解放された代わりに腰が捕らわれる。十二に少し体重をかけるような状態のまま顔を見合わせれば、ゆっくりと十二の唇が近づいてきた。

口と口が触れ合った、フニッとした柔らかい感触。これは知らない感覚ではない。触れ合うだけであれば、初めてではないのだ。しかしいつもは密やかに行われてすぐに逃げいてく唇であるが今日は違う。

十二の口が信一の下唇を優しく食んだ。十二が信一の様子をみながら丁寧に段階を進めていく。舌が中へと滑りこんでも穏やかな空気は変わらなかった。じっくりと触れ合う舌の体温が高くて気持ちがいい。包まれているような気持ちにすらなる。ちゅくちゅくという小さな水音が耳に届いて、信一の口の端から甘い吐息が零れる。

「ンっ……

さっきまであんなに苛烈な瞳をしていた十二の目が今ではとても優しい。あまりにも大切にされているような感覚に脳がだんだんと痺れていくようだった。その優しさに応えようと信一も積極的に舌を絡ませる。ずいぶんと長く穏やかに唇を合わせている気がした。今、自分はどんな表情をしているんだろうと信一がぼんやりと考えているうちに、ついに唇が離れていく。

2人してほぅ、と静かに息をついた。

「十二」
ぼんやりとさえする意識の中で(とりあえずこれだけは言っておかないと)という言葉を思い出し、信一は相手の名前を呼んだ。十二が何故か僅かに緊張したような顔で信一を見る。信一は十二の頬を両手で包んでからほんの少しだけ首をのばすと、十二の左眉の下にポツンとあるホクロへ“ちゅぅ”とキスを贈った。

「俺もお前が好き」
あんな勝負をけしかけるくらいには、な。

「こういうことはちゃんと言葉にもしておかねぇと」と言って、快闊にパッと笑った信一に今度は十二が目を丸くした。それから顔をボッと赤くしながらも悔しそうに顔を歪める。
「お前ってヤツは本当に
腰に回った腕に力がまた篭る。信一が「は?」と声を上げたと同時に十二が口をパカリと開く。

「俺を煽るのがすげぇうまい」

十二が口が信一の無防備な喉元へと真っすぐに向かい、その晒された場所へと噛みつくように食らいついた。突然のことに反応ができず、信一が獣に急所を嚙まれたかのように喉を逸らせて、気道を狭め息を詰める。
「つぁっぁぁあ!」
信一が苦しそうな声を上げ、辛そうに顔を歪めた。痛みまではないが、それでも喉にクッキリと歯型を感じる。十二の口の中へと囚われた信一の喉仏が舌で丹念に嬲られ、ゾワリと体が震えた。じんわりと目に涙が浮かぶ。

動物としての急所を奪われて、このまま言葉の通り“食われる”のではないかと身を案じた時、喉元がパッと解放された。信一が「けほっ」と小さく咳をして息を吸おうと空気を求める。その少し弱った信一を十二は大事そうに抱きしめたが、信一としては文句の1つでも言わずにはいられない。

「お前なぁ
「かわいい」
「おい」
「かわいすぎる。足りねぇ。なぁ、もっと食わせて」
「やっぱり食ってるのかよ」
「好き。抱く。食う」

なんじゃその語彙力の無さは、ケダモノか!?と咎めようとして、その言葉は十二の口の中へと吸い込まれた。いつの間にか欲の炎の渦を宿した飢える虎の瞳が戻ってきて、2回目のキスが口を覆ったのだ。しかし今度は1度めの優しくて揺蕩うようなキスとは勝手が違った。まるで貪るように唇が合わさり、思わず薄く開いた口の間から十二の舌が素早く滑り込む。

十二の舌が信一の口内を奔放に味わうように蠢く。信一がそれに必死についていこうとすると、その健気さに喜んだように絡みつき、そのままきつく舌を吸い上げ、柔らかな舌を楽し気にムニムニと噛んだ。甘噛みされればじゅわりと唾液が溢れ、加えて十二が唾液を流し込むので口の中が洪水となる。信一の喉がコクコクと音を立てても間に合わずに口の端から零れていく。さらにその口の端からは、信一の濡れた喘ぎ声もひっきりなしに零れている事を信一自身も最初は自覚できなかった。

(ちょ、がっつきすぎ)

そう非難したくともその隙をもらえない。十二と目を合わせれば、翻弄される信一をひたすらに愛し気に見ている男がいた。おかしい。自分も男であるのにたっぷりと“可愛がられている”と信一は思った。(これが人が寝ているところに可愛いキスだけ残して逃げていた幼馴染と同一人物なのか)という疑問は痺れる脳ではなかなか深く考えられない。

苦しいのに気持ちがよい。男としてのプライドが萎れていくのに、激しく求められているということが嬉しい。信一の体の中で不思議な感覚も起こっていた。腹のずっと奥かずっと下。そこに“じんじん”とするような妙な疼きが生じているのだ。それは知らない感覚であった。

その疼きが大きくなるについれて体から力が抜けていくのも自覚する。膝がグラリと揺れるのを堪えようと思わず十二にしがみつく。しかし掴んだ腕も力は入らず、そのままズルズルと崩れそうになる。その体を十二の太い腕が支えた。悔しさ混じりに息を乱したままに十二を睨みつけると、十二はとてもご機嫌な様子で笑っていた。

「大丈夫かよ?腰抜けた?」
……お前、かわいくねぇな」
「ふはっ、お前はかわいいよ」

十二はそのまま信一の体を「よっと」という掛け声と共に持ち上げた。足が浮いたことに驚いて十二の肩にもう一度しがみつくと、そのままベッドに転がされる。

仰向けに横たわった信一は、ベッドに腰かけた十二の顔がまた喉元へ寄ってきたことに身を固くした。まだ喉を噛まれるのかと警戒したのだ。しかし予想に反して十二は信一の首へと鼻を寄せてクンクンと鳴らした。息がかかるのがくすぐったくて、口元を手で押さえながら首を横へと背ける。

「いい匂いがする」
たまんねぇな、と十二が笑った。
「さっきシャワー浴びたばっかなんだから匂いなんてねぇだろ」
「するさ。俺は鼻が良いからお前の匂いは判別できる」
「俺、臭いってこと?」
「いい匂いって言ってるだろ」
ちゃんと聞いてんのかよ、と言いながら優しく髪を撫でてそのまま頬まで手を滑らせる。親指で唇を触ってプニプニとその感触を楽しみながら、十二がカラリと笑って信一が泡を食うようなことを聞いてくる。

「お前、処女だよな?」
「はぁ!?」
「俺ちゃんと見張ってたもん。お前が俺を出し抜こうとしてなけりゃ、そう」
「お前……俺が知ってる以上にガッツリ俺に干渉してたか?」
十二が物騒にすら思える意味ありげな目をして、ヘラリと笑った。目も口も弧を描くようにニンマリとしながら嬉しそうに信一の額にキスを1つする。

「本当に、ちゃんと優しくする」
そう言う十二に、信一がジト目を返す。
「しょっぱなからアナタ嚙んでますけど
「優しく噛むからだから安心しろ」
マーキングをたくさんの残さねぇとな。他のヤツらを寄せつけねぇようにさ。

十二が信一の上に乗り上がった。下へ組み敷いた信一を見て、十二が自分の唇を舌でペロリと舐める。信一はどう考えても虎が腹を空かせて舌なめずりをしているようにしか見えず、小さく狼狽した。しかしその仕草にぞくっと自分の芯が震えたのも否定はできなかった。十二がまた手首を掴んでベッドに押しつける。動かそうとしてもびくともしない強さに、こいつ力強くなったなぁと親心みたいに心中でぼやいた。十二の表情が見たこともない程に雄っぽさを纏う。欲がグルリと渦巻くその瞳が興奮を帯びてずっと光っていた。しかしその欲情に、自分の欲情が呼応するのも確かだった。

(いやマジで寝てた虎を起こし過ぎたかも)
うーん、煽り過ぎたかと思わないでもないが。

信一が黙っているので、十二があまりにも期待に溢れるような楽し気な顔をしたままに「ん?」と聞く。

信一はそれを無視し(まぁ、俺もコイツもハッピーなら万事丸くおさまってんだろ)と納得すると、もう一煽りしてやろうと十二の襟首を掴んで手前にひっぱり、自分からキスをしかけた。