その夜の天空殿は、穏やかな静寂に包まれていた。インドラの私室では、彼が丁寧に淹れた茶の香りが、甘く立ち上っている。ヴィシュヌは最後の一口をゆっくりと味わうと、カップを置き、悪戯っぽく微笑んだ。その瞳にはどこか恥じらいの色が浮かんでいる。
「インドラ……」
彼女は、少しだけ上目遣いに、向かいに座る恋人を見つめた。
「今宵は……その……わたくしが、貴方を癒してあげたいのだけれど……よいですか?」
「と、おっしゃいますと?」
女神からの、あまりにも可愛らしい、そして大胆な申し出に、インドラは一瞬、何を言われたのか理解できないという顔をした。普段、閨では彼が常に導く側だったからだ。ヴィシュヌはそんな彼の手を取り、そっと立ち上がらせる。
「ふふ。今夜は、わたくしが貴方を悦ばせてみたいのです。ですから、インドラ……身を委ねてくれますか?」
彼女の好奇心に満ちたきらきらとした瞳に見つめられては、拒むことはできなかった。インドラはゆっくりと頷き、その手に導かれるまま寝室へと向かった。
月明かりが銀色の絹のように差し込む寝台にインドラを座らせると、ヴィシュヌはまず、彼の頭部を覆うターバンを、慈しむようにゆっくりと解いた。封じられていた艶やかな黒髪が、彼の肩に広がる。
「あなたのこの黒髪、とても綺麗……。いつも隠しているのがもったいないわ」
ヴィシュヌはうっとりと囁きながら、その髪を指で梳く。そして、そのまま彼の耳元に唇を寄せた。
「ねえ、インドラ。あなたの、気持ちの良い場所……わたくしに教えてくださる?」
その甘い声は、拒絶を許さない響きを持っていた。ヴィシュヌは、まるで未知の聖典を読み解く学者のように、真剣な、それでいて楽しそうな眼差しで、彼の身体を探り始めた。
まずは、先ほどインドラが僅かに反応した耳朶を、そっと唇で食む。
「……っ」
インドラの身体が、甘い疼きにびくりと震えた。その反応に、ヴィシュヌは確信を得たように笑みを深める。
「やはり、ここが好きなのですね」
彼女は、インドラの弱点である首筋から脇腹へと、まるで宝物を探すかのように、指先と唇でゆっくりと旅を続けた。戦士として鍛え上げられた胸板。その中央にある硬い先端を、彼女は舌先でつ、と舐め上げた。
「……っ!」
インドラの身体が、再び跳ねる。
普段、感情を見せない男の、あまりにも素直な反応。それが、ヴィシュヌの探究心をさらに掻き立てた。
受け身でいるという状況が、これほどまでに理性を揺さぶるものだとは、彼自身、知らなかった。愛する女性に、自分の全てを委ね、支配される悦び。その背徳的な甘さに、彼の理性の壁は少しずつ溶かされていく。
ヴィシュヌの探求は、さらに大胆になる。彼女の手は、インドラの熱く昂った中心に触れた。彼が息を呑むのを感じながら、ヴィシュヌはその硬さを確かめるように、ゆっくりと握りしめる。
「まあ……こんなにも熱いのですね。……こう……ですか?」
その無垢な感嘆の声と、ぎこちない手つきが、逆にインドラの欲望を極限まで煽った。彼女が、自分を悦ばせることに夢中になっている。その事実が、たまらなく愛おしい。
「ヴィシュヌ様……」
インドラの声は、掠れ、熱を帯びていた。
「そろそろ……」
ヴィシュヌは、悪戯っぽく微笑みながら、彼の胸をそっと押し返した。
「まだ、ですよ」
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