不破
2025-07-13 20:23:37
4298文字
Public 空戦
 

#24




 戦闘を継続しつつも、ウィンズレット軍が一時的に撤退した合間に、到着したアルタイル隊の隊長であるヴィルヘルム・ドーが、アムステルダムの軍拠点に設けられた仮設の駐屯所を訪れた。

「失礼」

 開いたままになっていたドアをノックしたヴィルヘルムの姿を目にし、ニオは腰掛けていたソファーから立ち上がって敬礼した。それに従い、休憩中だったアンタレスとセシアも立ち上がって敬礼したが、少し離れた位置のソファーに腰掛けてテーブルに両足を投げ出したまま踏ん反り返っているフュゼだけは動かなかった。

「お疲れ様です。ドー少佐」

 言いながら、フュゼがウィスキーのグラスを口へ運ぶのを横目で睨めつけたが、ヴィルヘルムは気にしない様子で会話を続ける。

「お疲れ様。第1航空師団第12制圧中隊アルタイル、現着したよ。これよりアムステルダム防衛を引き継ぐ」

 柔和な口調で言うヴィルヘルムに敬礼を返され、ニオは手近なソファーを進めてから端末を立ち上げた。
 ヴィルヘルム・ドー。軍学校で1期上の先輩だった人物だ。平民の出身であるが故だったのかも知れないが、軍内の伯爵至上主義を気にしない数少ない1人である。

「現在、アムステルダム領空に駐屯しているのは、ウィンズレット軍第10艦隊カール。マイケル・スミス伯爵が率いる隊です」

「スミス伯爵か。物量で押し潰すような制圧戦を得意とするウィンズレット軍の少将相手にカノープスとシャウラだけで耐久戦をやってのけるなんて、流石だね。ニオちゃん」

 言いながら微笑むヴィルヘルムの言葉に笑みを浮かべるが、困ったような調子で苦言を呈する。

「先輩。その呼び方は……

「あはは、ごめんごめん」

 照れ隠しのように笑いながら頭の後ろへ右手を持っていくヴィルヘルムにジト目を向けるも、咳払いをして仕切り直すと、ニオは続けた。

「敵飛空艇”ブーゲンビリア”はアムステルダム領空ギリギリに停泊していると、巡回中のシャウラ2より報告があったところです。最後の戦闘は4時間前、物量勝負の強襲制圧を得意とする隊ですから、兵の休息は徹底するでしょう」

「了解。シャウラ2を戻してやって。代わりに第3中隊を巡回に出すよ」

「わかりました。アムステルダムの防衛機能は15パーセント程がダメージを負っていますが、継戦には支障ないと思われます。3日間での戦闘は5回、内3回は夜間に攻め込んで来ています」

 端末が映し出す光学映像に補足して伝え、ヴィルヘルムへ戦場の引き継ぎを行う。敵の隊は大隊規模、しかし兵士1人1人の練度はそこまで高いものではない。、ヴィルヘルムが「了解」と告げ、続ける。

「軍団長からの命令だ。カノープスはこのままパリへ、シャウラにはケーニヒスベルクへの帰投命令が出ている」

「パリ?」

 パリという都市の名を耳にし、ニオはあの光景を思い出した。薄汚れた路地の奥で、殺意で満たした水槽のような、色のない目を。あの貧民街スラムについては、グリーディア皇帝の施策によってすでに解体が始まっているはずだが、なにかトラブルでもあったのだろうか?

「詳しい情報は追って知らされる。すぐに高速艇で向かってくれ」

 ヴィルヘルムの言葉に多くを理解出来ぬまま、ニオは「了解しました」と敬礼した。