?話 遺械




……

ここは──600年前の世界。

建物の雰囲気が、明らかに異なっている。

ナーデルは静かに核心と時辰儀を確認し、目を細めた。
手元の本をめくる。

……これが、“この先”に起こる歴史……

「グラディエーター、樊凌、ラート、フィリップ、カラベラフィルム、ルフレ、白浪、シアノ……

(彼らが結託したら都合が悪いとなれば嘘を吹き込むのが一番ね)

名前をひとつひとつ確認しながら、本の内容を脳に刻み、同時にこれからのことを考えた。

一読すれば、すべて記憶に定着する。機械の身体は実に効率的だ。


あまりにも都合が良すぎる、このシナリオ。

けれど──

「黒魔術……これを使えば、彼らの負の感情を、もっと深く──もっと残忍に染められるかもしれないわね」

ナーデルは、口元に薄く笑みを浮かべた。

この歴史を“もっと良くする”? 

──冗談じゃない。

人間たちは、私に「記録がない」と思った。

核心に何も情報が残されていないと信じた。

けれど──核心が記録するのは、過去の出来事や物理的な痕跡だけではない。

人々の噂。
語り継がれた伝承。
曖昧で、証明もできない想念の渦。

それすらも、この体には確かに刻まれている。

それは──化学では説明できない、まさに“魔術”のようなもの。

「私はもう、誰かに利用される“ただの器”じゃない」

「私の意思で、平和を壊す」

人と人が殺し合い、本能のままに生きる時代。

それこそが、私が望む“自由”だ。

何度失敗しても構わない。
何千回、歴史をやり直すことになっても構わない。

この世界が繰り返される限り──

私は、必ず生まれる。
アイアン・メイデンとして、この手で“世界”を壊す未来は、消えはしない。

ナーデルは、恍惚とした笑みを浮かべた。

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*?話 「遺誡」✧ 終*