?話 遺械




数日後。

ヒストリアは自室で、ビデオカメラのデータを確認していた。パソコンに接続し、録画を再生する。

「うん、よく撮れてる……

そう呟いたとき、ふと奇妙なことに気づいた。

……データが、残ってる?」

それは310年前の録画データ。他の映像はすべてカセットテープに変換・保管されているはずなのに、これだけが“元データとして”残されていた。

気になって再生してみる。

画面に映るのは初代──リエル・バートリー。

何度も目にした、病室で撮影されたあの動画。

……のはずだった。

……え?」

……続いている……?」

動画の終わりは「『あ、』」という声と共に切れていた。充電切れか、録画ミスか──誰もがそう思っていた。

しかし、その後が──あった。

『どうか、あなた達にも平和が訪れますように』

『あっ』

『そうだ。もう一つ、大切なことを言い忘れていた』

『──ナーデルは……彼女だけは、起こしてはいけない』

「っ……!」

『彼女の狙いは分からない。だが……彼女には、和解の余地がない気がする。
彼女が存在する限り、歴史は繰り返される。”人類の平和が壊されることなく”真の自由を手にする未来は、訪れないかもしれない』

……少なくとも、彼女に“平和を取り戻すための過程”は知られてはならない。
だから僕は、手記の最後のページを破り捨てた。あれを知られれば、彼女はきっと──それを阻止するために動くだろう』

『──それじゃあ、あとは任せたよ』

録画は、そこで終わっていた。

「ど、どうして……?」

ヒストリアの手が震える。

(平和を取り戻す過程……? それって、ルフレが政府に倒されて……仕方なく初代に協力していたんじゃ……?)

脳裏を嫌な予感がよぎる。

……まさか、ナーデルに警戒していた初代とルフレが口裏を合わせ、“歴史を変えようとしていた”のだとしたら……?)

ルフレが最後まで人類の敵だった──それは、ナーデルから目を逸らさせるための演出だったのでは?

「カラクリは……私たちの知らない記憶を持っている……?」

彼らは時に、想定外の行動をする。
それを私は、ただの機械学習の結果だと思っていた。

だが、もしそれ以上の“思考”があるとしたら──

……私にはもう、判断できない……

けれど、誰がこの映像の「大事な部分」をカットし、保存形式を変更したのか?

ふいに、記録の片隅を思い出す。

ナーデルの存在を初めて書き残した人物──

……2代目……?)

初代には、二人の息子がいた。
兄である2代目は、初代との関係に複雑な感情を抱き、研究にも距離を置いていたという。

もしかすると──私たちは長い歴史の中で、誰かの得体の知れない「黒い意志」に操られているのではないか?

私たちは、“人ではない彼ら”を……
所詮は人の作り物だと、侮っていたのかもしれない。

真相を確かめるため、ヒストリアは八械の元へと駆け出した。