kr0mm333
2024-11-12 10:57:22
3625文字
Public 書きかけ
 

牙のない獣

座漆の転生ネタで、記憶ありの座さんと記憶なしの漆さんの話。
あと1話くらい増える予定。


 微睡から覚めると、強い光が顔に当たっていた。晩秋とはいえ午後の光は熱くて少し体をずらして直撃から逃れる。軒の影の中に入っただけで視界は薄暗くなり、直射日光で熱くなっていた肌はひんやりとした空気のおかげで涼しくなった。
 さっき見た夢のことを考える。
 夢だから、何を言われたかを理解できても声は聞こえない。でも、あの言葉が誰のものなのかはわかっていた。
 責任ってなんだろうとか、聞こえたわけでもないのに辛そうな声してるんだよとか、わからないことばっか。でも一番よくわからないのは、どうして何度もこの夢を見るのかだった。ガキの頃から何度も何度も見てきた夢。あの人は俺に対して何の責任を感じてるんだ?
 考えてもわからない。聞いたこともないし聞こうと思ったこともない。たぶん、聞かれたくないだろうから。いや、違うな。俺が聞きたくないだけだ。口にしたら最後、あの人との決定的な何かが壊れてしまうと思うから。
 相変わらず瞼は開かないけど、少しだけ思考は覚醒した気がする。でもまだ天秤に乗っているようなもので、ほんの少し傾けば眠ってしまえる程度の覚醒。
 すると、向こうから足音が聞こえてきた。この歩調は確認するまでもない。そもそも、今ここにいるのは俺と育ての親の座村さんの二人だけだから考えるまでもなかった。育ての親って言っても一回りくらいしか離れてないけどな。
 ガキの頃に両親を亡くした俺を引き取ってくれた血縁も何もない赤の他人。でも、この人は紛れもなく俺の家族だった。
 座村さんは手前で立ち止まるとおい、と呼びかけてくる。
 起きてるよ。目は開いてないけど。ぶっちゃけまだ眠いけど。
 思っていても聞こえはしない。座村さんはそのまましゃがむと、いつもなら廊下で寝るなって起こされるのに今日は見下ろしているだけだ。尤も、数年前に視力を失ってるから見えてはいないんだけど。
「もう、間違えてくれるなよ」
 間違い? 間違いってなんだ?
「俺ァもう一度お前を斬るなんてできねェからよ」
 俺は座村さんに斬られたことなんてないのになんでそんなこと言うんだよ。座村さんは白禊流の師範代。ガキの頃からあの人のように剣を振るいたいと憧れた。だから弟子にしてほしいって頼んだけど、あの人は一度たりとも首を縦には振ってくれなかった。
 お前に剣は振るえない。
 何度もそう言われた。
 やってみなきゃわからないと言ってもダメだの一点張り。何か理由があるのかもしれないけど、話してくれることはない。
「またお前が剣を握るようなことがあれば……
 その先は聞こえなかった。流石に眠気も覚めてきたから、そろそろ起きないとな。
「ん、」
 何度か瞬きをするけど、薄く開いただけじゃ閉じているのと変わらない。
「おい、こんなとこで寝んな。邪魔だ」
 肩を揺さぶられると、あっという間に意識は浮上する。
「そんな強く揺すらなくても起きてるよ」
「そう言って何回二度寝しやがったか忘れたのか?」
「寝てたから覚えてないな」
 寝転んだまま背中を伸ばす。腹筋が小刻みに震え、ぼんやりしていた頭の中が一気に鮮明になったような気がする。
「生意気こきやがって。寝てる暇があったら掃除のひとつでもしやがれ」
「もう終わってるよ。だから昼寝してたんだし」
「口の減らねェガキだな」
「そのガキに手ェ出してるアンタは何なんだよ」
 首に腕を回して座村さんの体を引き寄せた。座村さんの匂い、それとさっきまで吸ってたらしい煙草の臭いが混じっている。
「昼間っからサカる気はねェ。夜まで待つんだな」
「待たない。なぁ、いいだろ?」
「ったく、ワガママな猫かよ」
 座村さんが俺の頬に手を這わせると、にゃあと返事をする。それを聞いて小さく笑うと、顔を近づけてきたから唇を重ねた。
 最初に誘ったのは俺、触れてきたのは座村さん。とは言っても、その時は十代だったからフザケタこと言うなって相手にもされなかった。それからは何事もなかったかのように過ごし、俺が二十歳を過ぎた頃に色々あってあの人に抱かれた。
 でも座村さんから触れてきたのはその時と、両手で足りるくらいの回数だけ。まだ三十代なんだから性欲はあるはずなのに俺が誘う方が圧倒的に多い。誘えばちゃんとノってくれるから枯れてるわけじゃないんだろうけど。かといって昔から相手がいただとか、ソウイウ店に行ってるわけでもないからどうやって性欲処理してるのか不思議でならない。
「ほら、触れよ」
 座村さんの手をシャツの中に誘導する。指先だけでなく手のひらも使って探るように肌を撫でられるのはくすぐったいけど、昔からこの手が好きだった。でも今その手は薄い腹筋を撫でるように動くだけで他のところに移動する気配はない。
「他も触れよ」
「俺ァ気分じゃねえって言ったろ。触ってほしいんなら自分でどうにかするんだな」
「く、そ……やってやるよ」
 膝立ちになってシャツを脱ぎ捨てるとひんやりとした空気が肌を撫でて鳥肌がたつ。
 座村さんの肩を軽く押して床に座らせると、膝の上に跨り今度は俺がシャツの中に手を入れた。