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sidori
2025-07-12 00:00:00
8818文字
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人妻定食7月号『逆3Z』
モブ視点で高銀の坂田に失恋するNTRマガジン七月号です。
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しどりの『保険医こだわりのとろける坂田の濃厚キス定食~同級生の恋心炭火焼き仕立て~』
最近、気になっている事がある。
同じクラスの坂田の事だ。坂田銀時。二年三組、出席番号十一番。
見た目が珍しいから、彼はちょっとした有名人だ。どこか外国の血が入っているのかわからないけど、染めたり脱色したり、カラコンでもいれたりしない限りはこの国の人間は基本的に髪も眼も暗色になる遺伝子を持っているから、ほとんど白の銀髪に赤目の姿はそれだけですごく目立つ。学年が違っていてもあの白い髪の
…
といえば、ああ、と伝わるくらいには。
でも俺が気になってるのはそういう意味でじゃない。見た目なんて、どんなに珍しくても二年も視界に居ればいい加減見慣れる。俺は一年の時も坂田と同じクラスだった。仲はまあ、いい方だと思う。というかそもそも坂田は、その容姿に勝手にビビって自分から敢えて距離を取ろうとする奴以外となら誰とでもすぐに仲良くなれるタイプではあるんだけど。だから、俺は二年続けて同じクラスだし、一年の時も二年の時も、出席番号が前後だったから。
そう、その坂田が最近ちょっと変だ。
具体的に言うと、六月に保健室の担当教諭が交替してから。俺達が入学した時からいた女性の養護教諭が産休に入り、その代わりに若い男がやってきた。
変と言えば、先ずその男の養護教諭が変だった。
いや、単純な見た目というか、造形自体は凄く良い方だと思う。容姿だけなら、イケメン、美男子──美丈夫って言った方がいいのか。顔の造作はとにかく整っている。身長は物凄く高い訳じゃないけど、服の上からでも鍛えられている事がなんとなく分かるすらりと引き締まった体をしてて、実は芸能人だと言われても俺は驚かないし、テレビか何かの企画で学校の先生役の撮影をものすごくリアルにする為に生徒たちにその正体は明かされていないとかいう説明を急にされても多分素直に信じてしまうだろう。
ただ、なんていうか、人相が悪い。原因は誰に対してもにこりともしないその鉄面皮と、常に前髪で隠れた左目、そして見えている右目の鋭すぎる眼光の所為だ。正直言って、二、三人人を殺して手配中だとか言われても、それも俺は信じると思う。
とにかく纏う雰囲気が、同じ世界の人間だとは信じられないくらいに、余りにも俗世じみていない。顔が良いのでそういうのが好きな女子はしばらく騒いでいたが、赴任して来た当初に無謀か勇者か、数人の女子生徒がお近づきになろうと試み、ロクな世間話すら交わさぬ内からけんもほろろに部屋を追い出されたという噂話が広まってからは、もう保健室自体が禁断の地というか、よっぽどの理由が無ければ誰も近づかない校舎の一角となっている。前は用がなくても入り浸っていたような生徒達も今は。
だけど逆に坂田だけ、その教諭が来てからやたらと保健室に行くようになった。ほら、変だと思うだろ。
坂田は所謂健康優良児だ。少なくとも入学式で出会って以降風邪で学校を休んだ事はないし、運動神経も抜群なので、体育の授業で転んだりぶつかったり、そういう事で怪我をした事もない。なんだかんだ真面目なので、どこかに隠れて授業をサボるなんて事もなかった。
それが急に、腹を壊しただの頭痛が酷いだの、廊下で転んで膝を擦りむいただの、色んな理由をつけて保健室に行く。指のささくれが痛いから、とか言ってた日もあったっけ。そんな調子で、最近は休み時間の殆ど全ての時間を保健室で過ごしてると言っても過言ではないと思う。何日か前にはとうとう授業が始まっても教室に戻ってこなくて、聞いたら、具合が悪かったから少しベッドで休んでいただなんて言う。
絶対に変だ。おかしい。
しかも俺が心配なのは、坂田が以前に、痴漢被害に遭った事を知っているからだった。相談されたという訳じゃない。坂田本人はそこまで深刻にとらえている様子ではなかったのだが、うんざりした様子で。
「なんかさあ、俺そういうヘンなのに目ェ付けられやすいみたいなんだよね~。無駄に目立つからだと思うんだけど。やっぱ髪フツーの色に染めた方がいいのかな~」
と、少し疲れた顔で登校して来たかと思ったら、そんな風にぼやいていた事がある。どうやらそれがはじめてという訳でもないらしかった。不思議に思って訊ねてみれば、もっと小さい頃はあわや攫われかけた事もあるのだとそれもまたなんでもないことのように坂田は言った。
まあ──、わからないでもない、というのはちょっと語弊があるかもしれない。勿論痴漢なんてする奴は最悪だし、最低で卑劣な犯罪である事に疑いの余地はない。わかるというのは、ただ、坂田に惹かれる気持ちの事だ。そんな奴らと自分が同じ思考だなんて思いたくないけど、坂田は、なんていうか
……
。
口を開くと、ただの人間だなあと思う。自分と同じ、十七歳の、ただのその辺にいる男子高生だ。ちょっと馬鹿よりの。勿論俺もそうだし。
だけど一旦口を閉じて、じっとどこかを見ているような時──。坂田は急に、不思議な色を纏う。そんな時に改めてその色彩の綺麗さに驚くのだ。そして儚さに。実はよくみると結構可愛い顔をしている事も相俟って、正直別に男が好きって訳でもない俺でもちょっと、ドキッとしてしまう事もある。
まあ、そうだ。
……
本当に正直に、心底素直に告白するなら、俺は坂田の事が結構好きなのだと思う。坂田と出会ってそういう横顔に気が付くまでは普通に女の事付き合いたいと思っていたから、性的指向がソッチって訳じゃない筈なのに、坂田となら男ともありかなって思うくらいには。
気が付けばいつも目で姿を追ってしまう。坂田が「彼女欲し~」だなんてぼやく度に、「だよな~」と相槌を打ちながら内心では出来てくれるなと願ってしまうし、女子でも男子でも、坂田と誰かの距離が近いとちょっと気になる。絶対に他にもいると思う。坂田の事が気になる奴。
だから、そう。
そんな坂田に、もしもあの男も惹かれたんだとしたら?
教職。それも養護教諭となれば何かと個人情報も得やすいだろうし、それで何か、坂田は脅されているのだとしたら。
発想が飛躍しすぎだろうか。普通に考えればありえない。そんなドラマとかフィクションのような事。あの男がいくつだかは知らないけど、仮にも学校に勤める人間が生徒に手を出すなんてそもそも犯罪だろ、普通に。
だけどそう考えでもしないと、それ以前は休み時間は基本的に机でうたた寝していたような坂田の行動の急な変化の説明がつかない。実際坂田は見ず知らずの男に攫われかけたり痴漢された事がある訳だし、もしかしたら本当に、現実にそういう危ない人間はいるのかもしれない。
俺はとうとう決心した。
好きな相手だからっていうのは勿論ある。だけどただのクラスメイトだって、酷い目に遭っているなら心配には違いない。坂田がもしも助けを求められずにいるのなら、俺が助けてやらなくちゃ。坂田は気さくで、あんまりものおじしない。誰にでも平気で話しかけるし、基本的にいつも元気だ。だけどたまに、妙なところで気弱さを見せる事があって
……
そんな坂田を。
昼休み、前までなら真っ先に購買に向かってパンとパックのイチゴ牛乳を買い、教室の自分の席に戻るか、裏庭のお気に入りの場所で食べていた筈の坂田が、教室のある三階から一階に降りて購買とは逆方向へ廊下を歩いて行く後を大分距離を開けてから追う。あの後ろ姿を見間違う事はない。
保健室のある廊下は随分静かだった。少し遠くから、多分いつもの、さっさと昼飯を済ませた連中がサッカーか何かをやりはじめる声が聞こえて来るが、それ以外はがらんと人気はなく、どこか涼しい風が漂って来る。
俺はそろりと足音を立てないように、先に坂田が入って行ったであろう保健室の扉へ近づいた。様子を伺うと木製の引き戸の向こうには、確かに人の気配がある。
「あ
……
」
どうしようかと思っている内に、声が聞こえた。
「駄目だって
……
せんせ
……
」
ガタガタ、と床の上で何かがぶつかって揺れる音と共に、そんな事を言って誰かを静止しようとしているのは坂田の声だ。
「せんせ、駄目、ねえ
……
駄目だって、こんなとこで、あ」
相手は当然あの男以外にいない。
「せんせ、センセイ、だめだって、
……
だめ
……
」
「お前もう黙れ」
「ンっ」
低い声が坂田の声を遮り、坂田が息を詰める。口を塞がれたのか。
それが何を意味するのかなんとなく分かってしまって、俺はカッと熱が上がるのを感じた。坂田は止めているのに、無理矢理。
やっぱり駄目だ。放っておけない。
俺は感じた勢いのまま、引き戸の把手に手を掛けた。ガラリと引き開け──
「坂田!!」
と、足を踏み入れる。
しかし眼前に現れたのは、想像していたのとは違う光景だった。
リノリウムの床に広々と用具を配置された空間。片側の壁には大きな書類収納棚、もう片方の壁際にはカーテンで仕切られたベッドが三つ並び、その手前には小さな丸いテーブルがまるでカフェのように四方に椅子を従えて鎮座している。この保険医がやって来るまでは、学年を問わず色々な生徒がそこに集まっていた。今は誰も居ない。奥の、校庭に向かって開く窓には今はカーテンがかかっていて、その前。戸を開けてまっすぐ視線の先。
戸に対して横向きになっている常駐する養護教諭の為の仕事机の上に坂田が腰掛けていた。そして思った通り、男本人がその側にいた。スーツシャツではなくダークグレイのスラックスとハイネックのサマーニットの上に白衣を纏ったその男は、確かに坂田の体を押し倒すように上に圧し掛かっていた。二人の体は密着し、驚いたように俺を振り向いた坂田の、ぽかんと開いた唇は、たった今までしていた事の証のようにつるりと濡れている。
「えっ、あっ」
坂田は狼狽えたような声を上げた。髪の色と同じ、あるのかないのか分からない眉が困ったように下がって、赤い瞳がうろうろと、どこかに上手い言い訳が落ちていないか探すかのように彷徨う。その手は慌てて男の体を押し退けようと伸ばされたが、俺は見てしまった。
口づけする二人の、二人ともの唇が笑みの形を作っていたところ。坂田の脚は嬉しそうに、覆いかぶさって来る男の腰に自ら絡みつき引き寄せていた。聞こえていた言葉とは全く裏腹に、たった今するりと坂田のシャツの中から抜き取られた男お手を、一つも嫌がってなどいない顔をしていた事を。
「はあ
……
てめェな」
人相の悪い養護教諭の男が溜息をついた。
「何が鍵かけた、だ。まあ
……
テメーに任せて確認しなかった俺も悪ィな。オイ、そこの奴」
俺の体はびくりと強張った。鋭い眼光に突き刺されたようだった。
一体どういうことなのかと唖然としていた俺は、その時にやっと、その男の左目が潰れているらしい事に気が付いた。坂田とキスする為に長い前髪を耳にかけていたのか、いつもよりもぱらりと顔にかかっている前髪の隙間から、閉じたままの瞼が見えている。
「聞いてんのか」
「えッ、アッ、ハイ!」
「見られちまったモンは仕方ねェ。誰かに言いたきゃ話しても構わねェぜ。ただ、相手がコイツだって事は出来れば言わずにいてもらいてえとこだが」
「えっ」
「教師に手ェ出されてただなんて噂になったら困るだろ、コイツが」
「あの」
「ちょ、ちょっと待てよ高杉!」
「あ?」
男は俺に向かって淡々と話した。カチコチに固まった俺は狼狽える事しか出来ず、一方で、男の手はその間にも迷うことなく、はだけたシャツをそのままに俺に向かって、あーとかうーとか、意味の無い音を発しては手をばたばたとさせていた坂田に伸びて、抱き寄せる。抱き寄せられた坂田は男の胸の中でやっと「はっ」としたような顔をして意味のある言葉を発した。自分を抱き締める養護教諭の男に向かって。
それから抱き締められたまま、勢いよく俺の方に顔だけ向けた。
「だっ、誰にも言わないでくれ!!」
「えっと
……
」
俺はそもそも、この状況の意味がよく分かっていなかったので曖昧に答えた。そりゃあ勿論、坂田が無理矢理そういう事をされていたなら誰かに言おうと思っていた。他の教師か、それとも警察か。
だけどどうやら違うようだし、坂田は男を庇うし。
「俺
…
俺が頼んだんだ!!保険の先生が産休になるって聞いて
…
代わりの先生が必要だからって
…
それで
…
、あっ、コイツ本物の医者なんだけど!あのほら、あそこの病院に勤めてて。あの、ウチの高校の学校医に指定されてるとこの
…
。それで、代わりの養護教諭がさ、見つからなくって、特別な?免許?みたいな奴貰って期間限定でって話で。あの、それで俺」
「ンな事説明しても仕方ねーだろ。要するにコイツが言いてえのは、俺達は元々そういう仲だって話だ。だから犯罪とかじゃねえ、って言いたいんだろうが」
「だって!!!俺がしてって言ったんだ。あの、だって
……
最近忙しくて全然会えなかったのに、毎日会えるようになって、それで、あの。だから
……
!!頼む、誰にも言わないで。俺の所為でコイツが医者に戻れなくなったら俺、困る
……
」
「俺は別に医者なんざ止めたって困らねえよ。元々テメーの為だからな、医者なんかになったのは。まあ、最近じゃあんまり必要なかったかとも思ってたとこだ。丁度良いんじゃねえか」
「はあ?!お前!!医者だぞ!!医学部って大変なんだろ!」
「けど、止めたら一緒に居られる時間が増えるかもしれねえぜ?」
「むっ
……
それは
……
その、いや、でも」
俺なんてそっちのけで、俺には分からない話をしている二人を、俺は呆然と眺めていた。
坂田は、俺の知らない顔をしていた。いつもの、少ししまりのない笑顔を浮かべた、明るいだけの顔じゃなく、時々見せる、何か儚い雰囲気を漂わせた横顔でもなく。赤い瞳をきらきらと蕩けさせたような視線で男を見上げ、心底信頼しきっていると体現するかのように体をその胸と腕に預けながら、少し甘えたような声音で喋る。
そして男の方も、にこり、どころかぴくりともしない、と噂の鉄面皮をまるで人間のように緩めて、腕の中の坂田の事を大事そうに見つめている。
そんなの、ああ、って、分かるしかない。
「
……
俺、誰にも言わない
……
、あ、言いません」
俺はそう言った。そう言うしかないだろ。というか、一体誰に、何て言う?それを駄目だと言う奴もいるかもしれないけど、俺には出来そうになかった。好き同士の二人を引き裂くような事なんて。坂田の幸せそうな顔が、俺にちらとも向かない事はなんだかすこし、胸が痛いけど。
「そうかい、そりゃァ助かるな」
男はそう言って、坂田は「ありがとう!」と男の腕の中から俺に笑いかける。
「えーと、
……
じゃあ
……
、ごゆっくり」
カラカラ、トン、と一歩下がって扉を閉めると、なんだかどっと疲れたような気がした。今見たものが全部夢だったような、そんな不思議な気持ちになった。だけど多分全部現実で、どうやら俺は、たった今失恋したらしい。
保健室の中からは、坂田が男に怒られている声が聞こえて来ていた。多分、まだ男の腕の中に抱かれたままで。
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