夏。それは四季の中で最も暑く、最も海水浴に適した時期。暇を見つけ普段より少し離れた海へ出たのは、仲睦まじい二人の男女。男の名をアユム、女の名をフィルアーと言った。
ホテルのチェックインを済ませ、雑談も程々にして海へ辿り着く。アユムは先に水着へと着替え、パラソルを持って落ち着ける場所を探していた。現地で売られていた白いパーカーも着て、日差しから肌を守っている。
暫くすれば、海と良い距離かつ周囲に他の客がいない場所を見つけられた。傘を広げ立ててから、影の落ちた地面にシートを敷いていく。
「……?」
そうしていれば、背後からざわめきが聞こえた。不審に思いアユムが振り返れば、一人の女性が鞄片手に歩み寄ってくるのが見える。
シンプルなフリルで飾られたオフショルダービキニ、高い位置でくくられた白と赤の髪、紅色に煌めく瞳、そしてアユムに向ける愛おしげな表情。多くの熱い視線を受けながら彼女は、フィルアーは優しく微笑む。
「おまたせ。
これ、似合ってるか?」
少し不安げに揺れる目に見上げられ、アユムはふむと顎に手を当てた。普段の白衣とは違い、彼女もまた海水浴に適した服装に身を包んでいる。
オフショルダービキニの色は黒、装飾はほとんど無い質素なデザインだ。それはフィルアーの整った肉体と白い肌を、更に美しく可憐に演出している。彼女が動く度にポニーテールが揺れ、眩い日光を反射して輝く。すらりと伸びた足、後ろで組まれた手。何より期待を滲ませたその表情。
「ああ、可愛い」
彼が素直に感想を口にすれば、フィルアーは僅かに驚いた様子で肩を跳ねさせる。すぐに視線を下に彷徨わせ口元を緩め、赤く染めた頬を掻いた。なんとも可愛らしい仕草にアユムも表情を柔らかくするが、すぐに眉間にシワを寄せる。フィルアーの後ろ姿を、観光客の男たちが無遠慮に見ていたからだ。
自分だけの女を他の、それも知らない男に眺められるなど耐えられない。着ていたパーカーを素早く脱ぎ、アユムはフィルアーの肩に掛けた。不思議そうに首を傾げ、彼女は小さく問いかける。
「……やっぱり見苦しいか?」
「違う」
意気消沈した言葉を切り捨てるように断言した。彼女の顎を指で持ち上げ、自分の目と合わせる。艷やかな紅色が反射して、自身の黒色を宿した。彼女の視界には自分しか入っていない。それを証明している光景に気分が良くなり、本心を耳元で囁く。
「独り占めしたくなっただけだ」
フィルアーの顔が、爆発したように赤くなった。
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