2025-06-19 20:40:17
5355文字
Public 小説(pixiv公開済)
 

半月の夜/十六夜の鏡

Re:vale記念日2022「Period color」&2024「Binary Vampire」のクロスオーバーで遊んでみました。
2022&2024記念日ワンドロワンライ企画への参加作品を若干加筆修正しています。

1. 『半月の夜 ~ Yuki & John Doe』 お題「運命の出会い」「共闘・サポート」
ゲーム中、見慣れぬフィールドに迷い込んだ社長が、相棒のコンビニくんにそっくりの彼と出逢うお話。

2. 『十六夜の鏡 ~ Momo & Vampire』 お題「喪わせない」「画面越しの繋がり」
こちらはコンビニくん視点。画面越しならぬ鏡面越しに繋がった世界で、人外の存在と出逢うお話。

ピリカラのふたりは付き合っていません。自覚もまだのユキモモ(シャチョコン)未満です。
BVのふたりも付き合ってはいませんが、一緒に生きていけたら、と願っています。

1. 半月の夜 ~ Yuki & John Doe


……あれ?」
 ふと、あたりの景色を見まわして、千斗は――正確には、千斗の操るゲームアバターであるYukiは、首を傾げた。
 今日は珍しく早い時間にログインし、Momoが来るのを待ちながら、練習用のDPS測定フィールドでひとり黙々と銃を撃っていた。既定の回数を撃ったところでスコアが表示され、その後、いつもならば自動的にロビーに転送されるはずなのだが。

 ――気がつけば、見知らぬ場所だった。

 鬱蒼と茂った森の樹々。頭上には夜の空が広がり、心細げに瞬く幽かな星々と、綺麗に割ったような半月がしんと光っている。
「なんだろう、これ。バグ? 困ったな」
 メニュー画面を開く。否、開こうとしたが、ボタンが反応しない。あれ、と思いつつ手もとのコントローラに目を落とそうとしたとき、がさり、と背後から音がした。反射的に武器をリロードし、振り返る。
……っ! あ、え、……
「あれ、なんだ、Momoくん。いつオンしたの。ログイン通知、気づかなかったな」
 そこに居たのは、メッシュの入ったふわふわの癖っ毛、夜闇に鮮やかな緋色の瞳。見慣れたMomoのアバターだった。
 いや、正確には、見慣れた姿ではない。いつもの近未来風のレイヤリングコスチュームではなく、中世の狩人のような衣装を身に着けていた。ハンドガンのかわりに古ぼけた斧を両手で握りしめ、大きな目をいっぱいに見開いて、柔らかな月の光を浴びながら千斗をじっと見つめている。
 ふ、と表情が和らいで、幽かに微笑んだ。
「びっくりしました……どうして貴方が城の外に? もしかして、僕、来るのが遅すぎましたか? ごめんなさい、村での用事がなかなか終わらなくて……
「城? 村? ……『僕』?」
 武器を下ろしながら、千斗は再び首を傾げた。コスチュームチェンジとともに、すっかりファンタジーの世界観に浸っているのだろうか。声は細く、一人称もいつもの『オレ』から『僕』に変えて、随分と念の入ったことだ。
「そういう遊び方もあるって、前に教えて貰ったけれど。Momoくんがなりきりロールプレイをするなら、僕も一緒にやってみたかったな」
……モモくん? って、誰のことですか?」
 今度は目の前の相手が首を傾げる。徹底しているなあ、と感心したところに、森の何処か、すぐ近くで獣の吠え猛る声が上がった。はっと緊張し、再び武器――この地形には明らかに不向きな長物のライフルだが――を構える。どうやらここは、PvPではなくPvE。エネミーのいるフィールドのようだ。
 Momo、ではない、狩人の青年もまた、はっと息を呑んで斧を握り直す。それから、不思議と悲しげな口ぶりで、小さく呟いた。
「ごめんなさい。僕が遅くなってしまったから、また獣たちが騒ぎだしてしまったんですね……早く城に入って、儀式を済ませましょう」
「儀式って、なに……いや、その設定も後でゆっくり聞かせて。この場を切り抜けてからね」
「はい。僕が引き付けて、道を開きます。貴方は城へ向かってください」
 そう言い置いて、止める間もなく、青年は森の中の道なき道、獣道を駆け出した。待ち構えていたかのように暗い繁みから飛び出し、襲い掛かってくる獣の群れを、右へ左へ斧で切り伏せる。こんな文字通りの肉弾戦も行けるなんて、さすがはMomoくんだ、と思ったところで、ふと疑問が湧く。
 このゲームの武器カテゴリに、斧なんてあったっけ、と。
 だが今は考えている暇はない。ライフルを構え直し、レーザーサイトの照準を合わせる。縦横無尽に動く青年の頬を掠めんばかりに赤い光の射線を通し、コンマ秒で獣の額を撃ち抜いた。
 青年の構えた斧が、一瞬だけ震える。背を向けたままの後ろ姿から、驚きが伝わってきて、少しだけ得意な気持ちになった。練習した甲斐があった。上達を伝えられただろうか。褒めてくれるだろうか。
 千斗の的確な援護射撃と、青年の斧の重い斬撃とで、獣たちの骸がひとつ、またひとつと積まれていく。何頭めかを屠ったところで、残った獣たちがふと後退り、尻尾を丸める。そのままくるりと背を向けたかと思うと、一目散に森の奥へ逃げていった。
 ライフルを下ろし、青年のもとへと歩み寄る。彼は斧についた獣の黒い血を草の葉で拭っているところだった。近づいてくる千斗の姿を見て、こわごわとした笑みを浮かべる。
「ありがとうございました。……あの、すごいですね、その武器。魔術ですか?」
 まだ続くのかと思いつつ、千斗は肩をすくめ、適当に話を合わせて答えた。
「魔術ではなく、技術かな。技術の時代の武器。あと、たくさん練習をしたから、僕自身の技術も少しは貢献したかも。助けになれたのなら、良かった」
 そう言うと、青年はなんとなく要領を得ない感じに頷きながらも、ふわりと花がほころぶように笑った。
「助けてくれて、ありがとう。獣たちには悪いことをしてしまったけれど、城で儀式をすればきっと、森も、村も、平和に……
 また城だ、村だ、儀式だ。いいかげん焦れてきて、千斗は言った。
「ねえ、まずどういう物語なのか教えて。そうしたら僕も」
 コスチュームとか武器とか、雰囲気を合わせるから。そう続けようとした言葉が、森に満ちてゆく夜霧に溶ける。
「どういう物語なのか……ですか。物語、なんですね。僕も、貴方も」
 青年の声が、遠く耳に響く。悲しげなのに優しくて、儚げなのに明るくて。何処か、すべて諦めたような声だった。
「きっと、出逢えたことが、物語で、運命で――


――Yukiさん、Yukiさーん。ユキさん?』
……あれ」
 手が、氷のように冷えている。コントローラを握った指は冷たく固まっていた。ヘッドセットからは、青年の――違う、Momoの声が、繰り返し呼んでいる。
『Yukiさん、大丈夫ですか? ロビーに立ったまま、ずっと動かないから、寝落ちしちゃったのかなって。疲れてます?』
「ああ、大丈夫。ちょっとぼうっとしていたみたい」
 プロジェクタースクリーンには、いつもの衣装、いつもの武器を装備したMomoのアバターが映っている。頭の上に『?』マークを出し、ひらひらとてのひらを振るエモートをしながら。コミカルで、なんともかわいい仕草だった。声に出さずに、ふふっと笑う。気配が伝わったのか、Momoがほっとしたように言った。
『そっか、なら良かった。時間、大丈夫ですか? まだ遊べるようなら、昨日の続きで、デュオマッチを一戦やりたいなって』
 Momoの声が、近く耳に響く。楽しげで優しくて、元気で明るくて、未来へと向かう声だ。
 コントローラを持ち直して、アバターを動かし、深く頷かせる。
「うん、いいよ。始めよう」
 やった! と小さく叫ぶMomoの声には、素直な喜びがいっぱいに溢れていて、千斗は思わず微笑んだ。

  §   §   §

 出逢いとは、物語で、運命で。

 運命は、まだ始まっていない。
 物語は、ここから始まる。