九条空
2025-06-20 00:00:00
4883文字
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変身ヴィラン・面影③


さて、ラットロードと澪の感動の再会はこのくらいにしておこう。
さもなければ仁がブチ切れて暴れ始めてしまう。
俺は俺の顔をしているなにかを指さして、仁に紹介してやった。

「仁、こいつ面影」
「殺すか」
「もうすでに何回も殺してるから勘弁してもろて」
「ウウッ……!」

俺の顔でしくしく泣くな。美少女なんだから変な気持ちになるだろうが。性癖変になっちゃう。
ベランダで洗濯ものを干していたすだまが戻ってくる。

「なんじゃ、また忘れ物……いや、だめんずか……

俺が家にヴィランを連れ込むことに、早速すだまも慣れてきたようだ。
帰ってきたら俺が2人いて、仁がブチ切れそうな顔をしているのに、ため息ひとつで済ませた。これが年の功。

「いやあ、ちょっと今回はまだ拾うかどうかわかんねえわ」
「こうも頻度が高いと、神の采配を感じるのう。祈、おぬしはそういう星の元生まれついたのやもしれぬ。だめだめな男を拾って更生させるべし、という命を受けておるのかもしれんのう」
「いやだよ」

なんでそんなことしなきゃいけねえんだよ。そんなボランティアやりてえわけがない。
すだまは拘束されている方の俺をまじまじと見た。

「しかし誰かと思えば、こないだの若造か。初めて仁と出会うたとき、喧嘩しとった相手の」
「あ? 顔は俺なのによくわかるな?」

そんで仁は面影とバトル済みだったらしい。
こいつは誰にでも喧嘩を売る。短気だ。
売られた喧嘩はなんでも買うと言っていたが、相手は喧嘩を売っている認識ではないだろう。つまり、短気だ。

「変化に関してわしより詳しいものはそれほどおらんぞ? どう化けているか、でわかるものじゃ」

そういうもんなんだ、変身ってのは奥が深いな。
面影は俺の顔で、顔をキラキラ輝かせた。こうして見るとやっぱり美少女だ。この体を貸してやりたいくらいである。

「じゃ……じゃあオレが誰かわかります!?」
「はて、あの時名乗っていたかのう? あいにく聞きそびれておったわ」

すだまの返事を聞いて、面影はしょんぼりした。ふむ。

「いろんなものに変身しすぎて、もともと何だったか忘れちまったんだな」
……!? な、なぜそれを!?」

ただの推測に過ぎないことを、確信を持った風に呟けば、案の定反応が返ってきた。
俺、メンタリストになれるかもしれねえ。
こうして心理戦に激弱なヴィランが多いのなら、今後も助かる。

「なんで俺を狙ったんだ? デルタからの指示か」
「はい……
「報酬は?」
「オレがかつて何者だったか教えてくれるって」

そんな甘言に惑わされたのか。
すだまが腰に手を当て、完全に呆れた口調で言う。

「なんじゃあ、ほんに未熟者じゃのう。己がなんだったか忘れてしもうたとは! 懐かしいのう、千年も前に子らへ変化を教えていた頃を思い出す」

すだまはなにやらノスタルジックに浸りながら、過去を回想していた。
狐族ってそんないっぱいいんの? すだま以外にみたことねえな。

「オレ、自分が誰だったのかわからなくなっちまってですね。でもデルタは昔のオレを知ってるってんで、協力したら教えてくれるって約束だったんスよ。だからって子供の命狙うのは気が引けたんスけど、オレも困ってたし……

面影は肩身が狭そうにした。
俺は未成年なので、すだまでなくとも充分子供の範囲だろう。
すだまは呆れたように鼻を鳴らした。

「なんじゃ、本当の姿を知りたいのか? そんなん簡単じゃ」
「え!? 知ってるんスか?」
「良ければ教えてやろうかのう?」
「ぜひ! ぜひに!」

すだまは即座に、面影の首元に手刀を叩き込んだ。

も、問答無用すぎる。
俺の姿だった面影は白目をむいて、見事に気絶した。
アイアンクラッドに拘束されたまま、がくりと首から脱力する。
そしてじわじわと、面影が化けていた俺の形が崩れていった。

「変化というのは気絶したら解ける」

そういうもんなんだ。
意識を失ったことを確認し、仁が面影を放す。

面影は20歳くらいの青年だった。どこにでもいそうな若者だ。
化け続けて自分が誰かわからなくなったというくらいだから、もっと歳を食っているのかと思った。
あれか、自分探しの旅とかそういうやつか。

「仁どうする? 家汚れるから殺すのやめとく?」
「チッ」

やめとくらしい。舌うちでわかるようになってきた。
そろそろアイアンクラッドマスターを名乗れるかもしれねえな。

「ラットロードは何の用事で俺ん家来たんだ? 体調悪くなった?」
「あ、ああ……あっしが殺されかけたときに使われた凶器が見当たらなかったもんで、お嬢ならご存じかと」

急に話しかけられたラットロードは気を抜いていたのか、やんす口調を忘れていた。
最近なってねえぞ、ちゃんとキャラを作ってくれ。

「それなら回収したな。どこやったっけ」
「ここじゃの」

すだまはキッチンの棚を開け、包丁ホルダーからナイフを取り出した。
こうして見ると果物ナイフにしか見えない。

「洗ってあんじゃねえか」
「汚れとったから綺麗にしてやったんじゃろうが」
「ごめんラットロード、証拠能力なさそう」
「いえいえ、構わねえです。頂いても?」
「どうぞどうぞ。それですだまが飯つくりそうだから持ってってくれ」

すだまの料理の腕は一流だから、調理道具が殺人事件の凶器だろうがうまく扱うだろう。
でもそんな飯食いたくねえよ。知り合いの胸に突き刺さってたナイフだし。

すだまの当身で気絶していた面影がうめいた。そろそろ起きそうだ。

意識を取り戻した面影は、鏡を見て「これが、オレ……!?」とか散々やった後、俺に土下座した。

「このご恩は忘れません! そんで殺してすいませんでした!」
「謝罪の仕方がなってねえな、ついでみてえに言うんじゃねえよ。許すけど」
「いいんスか!?」
「全然マシな殺され方だったしな」
「それについてはものすごく異議があるわよ」

ライデンが俺を殺すところを見せつけられた澪が文句を言った。
そりゃあ、惚れている相手が友人を殺す胸糞シーンを再現されたら不機嫌にもなるだろう。

……まあ、俺の感覚もおかしくなっていたな。
普通、突然刺殺されたら文句の一つでも言うものだ。
死んでたら言えねえか、やっぱ感覚狂ってんな。

でも刺し傷ってすぐ治せるし全然なんか、マシだなと思ってしまうようになっている。
これもこの日本の治安が異常に悪く、なぜだかデルタが俺を狙っているからである。
マジで理由何なの?
ヴィランたちはデルタと気軽に会えるらしいし、そろそろ俺にも話しかけてくれたって良くねえか?

「つか、もとの姿はわかったが、名前とかは思い出したのか?」
「いやそっちについては全然。たはは」

自分が誰かわからない、などという深刻な問題を抱えているにしては軽薄な笑いだった。
記憶喪失か。何も覚えていないというのはどんな気分だろう。

「そいじゃ、あっしが預かりやしょうかね。データ照合したらどこぞの坊ちゃんかわかるやもしれやせんよ」
「マジすか! おなしゃす!!」

公安モードのラットロードが面影を引き受けてくれるようだ。
助かる。もう我が家は定員オーバーだ。

「しかし元のオレって全然特徴ねえっすね。いいなあ、ネズミの耳としっぽ」

面影がそう言うと、ラットロードが2人になった。
変身のスピードはかなりはやい。よそ見していたらどっちが本物なのかわからなくなるところだ。

「憧れるにしてももっとあるだろ」
「お嬢、あっしに失礼でやんす」

瞬間、すだまが面影をパァンと平手打ちした。

面影は突然のことに事態を理解できず、目をまん丸にし、打たれた頬を押さえて呆然としている。
昼ドラのワンシーンみたい。

本物のラットロードの方も頬を押えた。
自分の顔したやつが、のじゃロリにビンタされてるところを見るのはどんな気分なのだろう。
性癖変になっちゃう。

阿呆あほう! そんなことを繰り返すから己を見失うのじゃ!」
「で、でも人が羨ましいじゃないっスかぁ……
「他人を羨む時間で自分を磨く努力をせい!」

正論パンチだ。これは痛い。
ラットロードから元の姿に戻った面影も泣きそうだ。

「まあまあ、その辺にしとけよ。誰かに成れる能力を持ってる、ってのもこいつの個性だろ?」
「そんなことを言ってはならん。そうやってあやかしが欲しい言葉をかけてやるから次から次に持って帰ってくるんじゃ!」

おっと、このままでは説教の矛先が俺に向いてしまう。
俺は面影くらいの年代の少年少女、青年には甘いのだ。大人が守ってやらなきゃならん世代だ。
人生一番楽しい時期なんだからもっと気楽に、こう、なあ?

「お嬢、色んなとこであんなことやっとるんですなあ」
「なんか破廉恥に聞こえるからやめてくれるか? そんなナンパみてえなことはしてねえだろ。なあ?」

誰からも援護が飛んでこなかった。嘘だろ。
と思ったら澪がフォローをいれてくれた。

「アタシとは順当に仲を深めたわよね? マッチングアプリで出会ってから、直接居酒屋でおはなしする程度には段階踏んだと思うわ」
「例えがお前、アレすぎんだろ! お前のスワイプは暗殺か!?」

フォローに見せかけた襲撃だった。
なんちゅう例えをしてくれてんだ。
マッチングアプリでイイネかダメかを左右にスワイプする感覚で、人を暗殺するかどうか決めてんのかこいつは。

すだまはマチアプ……? と首を傾げているが、知っていたら「くらっ!」と言っていたに違いない。
そしてすだまは勤勉なので、この後マチアプについて調べて「くらっ!」と言うだろう。

「ったく、いいか? ルッキズムに支配されるな、くだらねえ。世の中にはお前の思うカッコイイをダサいと思い、お前の思うダサいを美しいと思うやつがいる。他人を羨んでも終わりがねえんだよ」

すだまの説教は耳に痛すぎるので、俺が代わりにやってやる。
面影はしょんぼりしながらも、俺の話に耳を傾けた。

「お前も充分個性的だろ。普通をコンプレックスに思い、そこからの脱却を目指してるってのだけで特徴なんだよ。なにも人を羨む気持ちを無くせってんじゃねえ、やり方を考えろ。お前には人をコピーする力があるが、やりすぎるとどうなるかわかっただろ」

変身のし過ぎで己が誰かもわからなくなるほどだったのに、再び人を羨んでコピーするまでのスパンが短すぎる。
この調子では、面影はまた自分の顔を忘れるだろう。

人を羨ましいと思うな、などと言っても、そんなのは不可能だ。
大なり小なり誰でも持っている感情である。

「でも、オレにはこれしかないんスよ……
「なんも覚えてねえからそう思うだけだ。お前は自分を普通だと言ったが、見た目の話なら自分で変えられるだろ。異能の話じゃねえぜ。髪が普通だってんなら髪型変えて染めろ、顔が普通だってんならサングラスでもかけろ、服が普通だってんなら変な服着ろ。お前切れ長の糸目だし、中華服とか似合うんじゃねえの」

変身はミュータントにだけ許された技術ではない。
コーディネートやメイクアップで人は変われる。

「すごい……人生に希望が見えてきたっス……!」

先程まで泣きそうだったのが嘘のように、面影は顔を輝かせた。単純すぎて心配になる。
こんなおっさんの言うことを本気にしてんじゃねえよ、話半分に聞けや。

「お前感化されやすいなあ、そんなんだからデルタに付け入られるんだ。もっと自分をしっかり持て、俺の言葉くらい聞き流せるようになれ」
「肝に銘じます、師匠!」
「だァれが師匠だ、勝手に弟子入りすんな」

俺の説教はこれで終わりだ。
すだまは耳としっぽを下げた。

「とほほ、祈はいつもこんなじゃ。このままでは百鬼夜行をつくってしまうぞ」

とほほってホントに言うやついるんだ。


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