樹蜜夜皀莢│きみつやさいかち
2025-06-17 22:30:05
75033文字
Public 本編
 

天与✧星火−CELES✦ASTRA−[本編]

pixiv版天与✧星火−CELES✦ASTRA−の本編完成版。
誤字や一部表現の修正はしてある。
グロ、鬱要素注意!

もくじ
0 ✶一番星……01
1 ✧ 孤蝶の灯……02
2 ✧ 燈火……03
3 ✧ 迷蝶……04
4 ✧ CELES本部……05
5 ✧ 覚悟……06
6 ✧ 羽ばたく……07
7 ✧ 未知のⅡ地区……08
8 ✦ ASTRA突入……09
9 ✦ 交戦……10
10 ✦ 絡繰りの魂……11
11 ✦ 希望の路……12
12 ✦ 音と影の玉璧……13
13 ✦ 玉璧に響く波紋……14
14 ✦ 崩れゆく玉璧……15
15 ✦ 光の中……16
16 ✦ 攻奪の星……17
17 ✦ ロッシュ限界……18
18 ✦ 戻れない路……19
19 ✦ 黒き狂星……20
20 ✦ 壊れゆく……21
21 ✦ 崩星の夢……22
22 ✦ 瓦礫の先……23
23✦炬火の蛾……24
24 ✦ 遥か煌めくのは追憶彗星……25
25 ✦ 火の粉と炎翅の蝶……26
26 ✦ 孤灯一穂……27
27 ✦ 消燭……28
28 ✦ 天消星火……29
29 ✦ 届かない……30
30 ✧ 黒い夢と追憶……31
31 ✧ それでも……32
32 ✧ 天与星火……33


29 ✦ 届かない

 増えたレーザービームの一本が、ジオマの左腕を貫く。鏡の破片は間に合わなかった。皮膚が、その奥の肉が焼け焦げ少し臭う。
 腕を抑えながら下がると、レーザービームはもう追ってこなかった。
「ジオ、大丈夫!?」
「ああ、まあ……
 応急処置の道具を出していたエジカは彼の腕を見ながら何かに気づいたのか、ふと壁のほうを見た。レーザービームはCELESセレスメンバーの中でも特に彼と彼女を狙っているらしく、それは拒絶とも感じ取れた。今までは追い払うように動いていたものが、ついにジオマに当たり、攻撃という形になったのだから。
 もしあの壁の向こうにいるのが本当に彼の恋人なら、なぜこんなことをしてしまうのだろう。
「ジオ、何が何でもあの壁を破るわよ」
 下がった二人の分までサングレイとリロッシュがビームはじきを続けていたおかげか、先ほどよりも更に少し壁が削られていた。
 その向こうに見えたもの、天井から下がっているそれは何かの機械らしい。そこから垂れ下がる幾本もの太く黒いコード。何かを維持しているようにも、捕らえて離さない拘束具とも思えて、思わず息を飲む。
「ジオマさん!壁が!」
 何か小さなヒビが大きくなっていく音。そして壁の上のほうからパラパラと細かな破片。これは――崩れる。咄嗟の判断で全員が壁から離れた刹那、それはガラガラと大きな音を立てて崩れ去ったのだ。
 酷い砂埃が晴れると、奥に人の姿があった。グレーや黒のモノクロカラーのドレスに身を包み、天井の機械に繋がれ、眠っているような女性。背中程まである、長い、少しウェーブのかかった銀髪が美しい。
 その姿を見たジオマとエジカの表情が固まってしまった。薄々感じてはいたものの、驚きで声も出ないらしい。
「あの、ジオマさん……
「この人、って……
 ブラック・ホールと呼ばれていた者の正体。彼は彼女が自分の恋人ローゼリ・ワイトホルだということだけを答えると、また黙ってしまった。
 連れ去られ、何年もこの場所にいたであろう彼女を見て、何と言ったらいいのか。そう呆然と立ち尽くしていると、彼女の周囲に落ちていた太いコードが突然蛇のように動き始めた。
 ジオマたち目掛けて向かって来るコードを、エジカは腕力任せに薙ぎ払った。腕に赤く痕がついても気にする素振りすらない。
「エジカ、危ないから下がれ」
「危ないのは分かってるわよ。声みたいなものを感じてつい……
「声?」
 サイコメトリーを持つ彼女だからこそ、ローゼリの声を感じられたのかもしれない。サングレイとリロッシュも気になったのか、エジカの顔を見ている。
「すごく、悲しげな感情だったのよ……


――どうしてここにいるの?ここにいるのはわたしだけでいいのに。
――帰って、もう巻き込まれないで、わたしのことはもういいから。
――お願い、ジオ、エジ……
――超能力がなくなれば誰も傷つかなくなるなんて、少しでも思ったわたしが馬鹿だったのかな……

 ブラック・ホールの、いや、ローゼリの声。それのほとんどが本音でないことも感じ取れてしまい、より気持ちがこみ上げる。
「サンくん、リロちゃん、気を付けてね……あのコード、私が何とか止められたくらいだもの。捕まるか吹き飛ばされて大ケガくらいしちゃうわ」
 彼女の視線の先、鞭のようにうなるコード。床に当たるとメリメリとヒビが入った。先ほどエジカが受け止めたものより、動きが速くしなやかだ。でもそれは、こちらを殺したいというより、近づけさせたくないという感情のほうが強いことを感じさせる。
 なんとか双剣で受け止めて弾いても、次に次にとコードが襲い掛かってくる。体力を削り、撤退させるため、そんな気がした。
 彼女は目を瞑っているため分からないが、こちらを遠ざけたい、という気持ちが少なからずあるのなら。最初この部屋にあった鏡で能力が増幅されたように、思いを増幅してコードが動いている可能性も否めない。
 どうにかしてこの暴れるコードを止めなければ、全員限界がくる。これまでの戦い、疲労、休めた時間を考えるとまだ若いサングレイとリロッシュが動けているのは奇跡に近い。体力的にも、精神的にも。
――だから、ここは僕とエジカの二人が体を張るしかない。
 リロッシュに迫ったコードを、ジオマが間一髪で切り裂いた。切り裂かれたコードが床に落ちた音で、少し俯いていたローゼリが初めて顔を上げる。
 切れたコードを繋ぎ直そうとしているのだろう、別のコードを伸ばしたがそれは空中で動きを止めた。そして何かに抵抗するように小刻みに震える。ジオマのロジックマスターに止められたのだった。
「ローゼリ、もうやめよう。僕らを巻き込みたくない気持ちはよく分かっているよ。……でも、僕らは……君を助けるためにここまで来たんだ」
 静かにそう言っても、彼女はその言葉すら振り払おうとしているのかコードがもがいている。それを見て、ジオマはさらに言葉をかけた。ローゼリだけが苦しむ必要はないと、一緒に帰ろうと。
「もっと、もっと早く助けられれば良かった。あの日、すぐに君を助けていられれば良かった。本当に……ごめん」
「ロゼのこと、ずっと捜していたのよ?警察は頼りにならないから、二人でCELESセレスを立ち上げて。STARスターASTRAアストラに狙われた超能力者を保護したり超能力者狩りを無力化したりしながら、貴方の情報がないかずっと探ってた」
 再会したら一緒に作って食べられるように、とローゼリがよく作ってくれていた紅茶シフォンケーキの練習をしていた。毎日日記に、話したいことやしたいことを綴っていた。大切なローゼリのことを忘れたことなんて片時もなかった。懐かしそうに名前を呟いては絶対に助けよう、また三人で笑おう、といつも話していた。
「それなのに、突き離そうとして……。貴方は彼の気持ちを無駄にしたいの?私達の願いは一切聞いてくれないの?」

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