Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
eclipsis
6134文字
Public
ミホペロ
Clear cache
assorted sweets
日常の短編詰め合わせ。※微量に事後の描写有り
1
2
3
【猫の話/ミホーク】
城の広間でミホークが読書をしている。新聞は朝に届いたものをすでに読み終えたし、今日の夕刊は休みだった。ゆったりした時の流れる午後である。
何でもない本を読むのに適した曖昧な時間は、所謂おやつの時間とも云う。広間の近くにあるキッチンの方角からは良い匂いがずっとしている。
漂う匂いにミホークは食欲を刺激されるよりも、コーヒーが飲みたくなった。コーヒーブレイクにするかと、ぼんやり思った時、広間に白いゴーストたちが躍り出た。半透明の身体がミホークの目の端を通り過ぎていく。それらに目を向ける間もなく、良い匂いを濃く漂わせて現れたのはペローナだった。手にはパンケーキを盛りつけた皿がある。蜂蜜のたっぷりかかった甘そうなおやつに、娘の小さな口元が機嫌良く上がっている。丸い瞳はゴーストたちが飛び去った先、一人掛けのソファに座る男を捉えた。ミホークはペローナの方を一度見たら素っ気なく視線をそらし、手中の本に戻ってしまった。ペローナは一度瞬きをすると身体をふわりと浮き上がらせた。
飛び上がったペローナの着地先はミホークの膝の上だった。読書中のミホークのことなんかはまるきり無視して、けれど対面で座るほどの主張はせず、さも当たり前かのように収まる。そして持っているパンケーキを食べ始める始末だった。急に横抱きのような姿勢で娘に座られたミホークは、じとりとした目付きをペローナに送った。彼の手と本は娘の尻の下敷きだ。
しかしミホークの目付きによる苦言も差程主張するものではなかった。静かに下敷きになった手を引き抜くと、膝の上に収まるペローナの頭を撫でるかと思い始めた。薄ら思い浮かべたコーヒーブレイクはこのとおり台無しで、代わりに娘を猫みたいに愛でようかと考えが落ち着いたのだ。今日のペローナが懐かしいツインテールの髪型にしているのも何となくの理由だ。
大きな男の手が桃色の巻き髪をひと房すくい、その流れで頭に触れようとしたら、ミホークの唇に硬いものが触れてきた。ペローナがフォークで男の唇に蓋をして、撫でることに制止を掛けている。『そうじゃない』と咎めるように、丸い瞳はちょっぴり鋭くなっていた。もぐもぐとパンケーキを頬張るのは止めないで、至ってマイペースである。有無を言わせない娘の仕草に、ミホークの手は素直に下がった。それを受けて銀色の硬い制止も下がっていった。
唇に当たっていたフォークが離れると、微量に残っていた蜂蜜がミホークの舌先に広がった。その甘さに思わず眉を顰めると、ペローナはようやく機嫌良さ気に口角を上げる。相変わらず膝の上から退く気配はちっとも無くて、ミホークは片眉を少し上げた。
自分からすり寄ってきたくせに、気分じゃない愛で方をされたらツンと跳ねのける。ミホークが相手をする猫はどうやらかなり高飛車なようだ。実に猫らしい。そう感じれば、ツインテールを結っている大きなリボンも何だか尖って耳みたいに揺れて見えてくる。
さて、それではこの桃色のケモノが許してくれる愛で方はどれだろう。ミホークの探る手はペローナの肩を緩く抱いた後、徐々に腰を抱くかたちへ動こうとした。
するとその途端、ペローナが膝の上からひらりと軽やかに退いた。そしてそのタイミングで広間の扉が開き、現れたのはゾロだった。
ゾロはペローナのゴーストたちに纏わりつかれ、迷惑そうに手で払いながら歩く。ゴーストたちは全く意に介さず悪戯に笑っている。ゾロはフン、と不機嫌に鼻息を一つ大きく吐いたら、やっとミホークとペローナが居る方を見た。
「お、美味そうな匂い」
皺が少し寄っていたゾロの眉が軽く上がって、ペローナが持っているパンケーキを見つめた。ゴーストたちのことはもう眼中に無い。
「残念でした。私の分しかねェぞ。欲しいなら自分で作ってこい」
ペローナが目を閉じて澄ました顔をしながら言い放つ。続いて「キッチンの材料無駄使いするなよ」と忠告を残すと、周りに浮かぶゴーストたちを従えて広間から出て行ってしまった。
コツコツと、ペローナが履くヒールの音が小さくなるのを聞きながらゾロの眉にまた皺が寄った。
広間は穏やかな午後を続けているが、先程からソファで黙ったままなミホークに、ゾロはふと気づいた。頬杖をついて彼のことを見ている。表情は無いようで、少しムッとしているような感じでもある。
「
……
猫が逃げてしまった」
ミホークは独り言染みた声色でそう呟くとフゥ、とがっかりしたように溜息を吐いた。それきりで顔を少し伏せて、ゾロとは会話をする気はもう無いらしい。面食らったゾロは思わず閉口した。そして目がまん丸になってキョロキョロと忙しなく辺りを見渡す。ミホークの言う猫は、このシッケアールでは初めて耳にする動物だったのだ。
けれど猫なんて何処にもいなくて、ゾロはハ?と口をひん曲げて怪訝な声を出すしかなかった。
1
2
3
広告非表示プランのご案内