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4852文字
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ミホペロ
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ドランク・タンク・ピンク
両片思いみたいなミホペロ。糖度高め
1
2
文字通り、浮かれて空へ昇る者とはゴースト娘のことだ。いつもは見下ろす娘の姿を視界の上で捉えて、そう思った。
――
酒場からの帰り道である。
ゴースト娘はおれと共に遠出をする際に度々酒を呑む。そして日中の買い出しで弾んだ気持ちのまま楽しそうに酔っ払う。
毎度見事なほど調子良く酒気に染められ、わかり易く出来あがる。故に酒場から切り上げるタイミングを間違える事は無いのでありがたい。
今の時刻も月がまだ高い位置に居る。人混みから外れた帰り道は、我ら二人だけで広く静かだ。斜め上の空を飛ぶ娘のふらふらした様子はつぶさに監視できる。
顔はニヤケ顔。お気に入りのハットは茹だる頭には重いのだろう、無造作に手で持っている。赤いブーツを履く足は地面からすっかり離れて、時おり腕を雛鳥のように辿々しく羽ばたかせている。
……
何処へと飛んで墜落するのはそう難しい予想ではない。だから監視せざるを得ないのだ。
いつぞや、我らの島に流れ着いたワインを呑んだ時もそうだった。娘のみならず、お供のホロウたちも揃いの赤ら顔になって浮かれ飛んでいた。そして一頻りご機嫌になると昇天するように消え、主人である娘は広間の床で伸びていた。寝椅子に移動させブランケットを掛けたのは、紛れもなくこのおれだ。
ふと、目の前を半透明な物体が横切った。惚けた顔のホロウがやはり赤く染まって漂っている。薄いミルク色の奴らに赤が加わると、子どもが好む飴細工のような色合いだ。甘ったるそうなホロウたちを手で振り払えば、ホロホロ。クスクス。
飴細工たちの姫であるゴースト娘が一緒になって笑っている。小さく肩を揺らす娘の背後に見える星たちは金平糖だろうか。あぁ、何とも他愛ない連想だ。
子どもっぽいのとは裏腹に、全ては酒でそうなっているからタチが悪い。ゴースト娘は単なる小娘ではないのだ。酒に酔える程には、大人の筈だが。
然れどこちらを見つめる真ん丸な瞳は、ただ純粋に酒の魔力によって渦巻いている。何が可笑しいのか口元はずっと締まりなく、ふらふらした身体は言わずもがな。
毎度付き合わされるおれの気苦労を考えたことはあるのだろうか。娘が眠そうにゆっくり瞬きをして、視線が外された。弱い星の光で桃色の髪が溶けそうにふわふわしている。
ゴースト娘はほんの緩く吹いた夜風にさえ揺らされて浮かぶ。ゴーストと云うより、まるで糸の無い風船だ。そら、見る間に彼方へと飛んでいく。
躊躇する暇も無い。遠くへ行く前に、空に
靡
なび
く娘の手をおれの手で捕まえた。
温かく小さな手は見た目以上に華奢で繊細で、いっそ透けて見える。単純に握っただけではすり抜けていきそうだ。こういうところだけゴースト染みている。
おれの手に収まっているそれをするりと動かして、指と指がしっかり絡み合うように握り直した。
ゴースト娘がぽかんとした顔をする。どうやら上の空で風船の気分がまだ抜けていないようだ。今一度地上に戻すために、握った手を引いてやる。娘は引かれるまま容易くおれに近づいた。自然に足はその場で止まった。ゴースト娘はおれの真正面で少し浮いて止まる。お互いの視線が合った。
こうも近いと月夜の光すら邪魔はできないらしい。ゴースト娘の瞳は真っ黒で渦巻きは止み、パチリと瞬きをする音が聞こえた。
「
……
ふふ。誰かに
…
見られてたらどうする?誤解、されるかもしれねェぞ」
ゴースト娘が小悪魔のように囁く。悪戯ならばと同調する筈のホロウたちが、いつの間にか消え失せている。
視界にはおれを見つめる黒一色の瞳しか居ない。それが濡れたように光っていた。単なる酒気だと片付けるには、見過ごせない女の気配がある。子どもの、女の、悪戯というのは、斯くも綺麗なものだろうか。
「
……
酔っ払いが。何を見られようとも、その千鳥足がぶち壊しだ。誤解する空気すら生まれん」
大嘘だ。生まれた空気は壊れた。つまらぬ返事でおれが壊した。そのタイミングで娘の潤む瞳から視線を外した。こちらは至って素面だと証明するかのように、立ち止まっていた足を踏み締めて再開させた。
敢えてもう一度言おう。今は単なる酒場の帰り道である。
ゴースト娘は歩み進むおれに連られて飛んでいる。少し不服そうなフン、という鼻を鳴らす音が聞こえた。すると次第に娘は鼻歌を歌い出した。消えていたホロウたちが静かに現れて一緒に歌い出す。
その曲調はいつもの浮かれ者のように思われた。隣で飛ぶ娘を横目で盗み見る。横顔は変わりなく赤くて楽しそうな微笑になっていた。上機嫌で、鼻歌が途切れ気味になると、少し照れたみたいに頬の赤さが光った。
おれは歩調を
僅
わず
かに緩めた。ゴースト娘がホロホロ
…
、と小さな鳴き声に似たくすぐったい笑い声を出すと、腕を嬉しそうにブンと元気よく振った。その振動が、ずっと繋ぎっ放しだった手から伝わる。
酔っ払いの悪戯は壊して
躱
かわ
したその末で、この手だけは離せないでいた。
我ら二人だけの夜空には、細い指で引っかいた痕のような三日月が光る。
幽
かそけ
ないその光は先程のゴースト娘の潤んだ瞳に似ていた。おれの頭にチカ、チカと浮かんで消えていく。
その輝きの意味を無意識に考え出すと、益々繋いでいる手を離す気にはなれなかった。
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