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みたむら
2025-06-10 17:04:16
5061文字
Public
8/17「夏インテ」
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「その席に、君はいなかった。」サンプル
呪術廻戦・五条×女夢主本5冊目です。
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「その席に、君はいなかった。」本文サンプル
※Web用に読みやすく若干修正しています。
※製本版は体裁サンプルにてご確認ください。
プロローグ
パチパチ。
夜空の下、五人の男女が楽しそうに花火をしている。
ある者は静かに花が咲き、散っていく様を見ているし、少しおふざけで相手に見せつけては、止めろよと制止しつつも笑っている。
――
それを、〝私〟は見ていた。
その花火をやっている男女を、少し離れた場所で私は温かく見守っていた。
(とても綺麗な花火)
だけど、彼らは私の存在に気づいていないかのように、彼らの世界だけが進んでいた。
そして、とっさに分かったのだ。
――
ああ、これが
代償
・・
なんだなと。
何故か分からないけど、脳内にそう言葉が出てきた。そして何故か、心にしっくりときた。
はっと気がついたら、じゃれ始めたのかこちらにやってくる。
「おい、悟! 花火持ったままじゃ危ないだろう?!」
「怖いのかよ、傑! ほれほれ!」
「
……
はぁ
小学生
ガキ
かよ」
「はは! でも、はしゃぎたくなるのも分かりますよ!」
「何かあったら五条さんの責任ですよ
……
はぁ」
夏油傑、五条悟、家入硝子、灰原雄、七海建人がそれぞれ口をする。そして、私は少しずつ思い出した。
そういえば高二のある日、任務で悟と傑、硝子と一緒に行ったんだった。だけど、何でだろう。
そこに〝私〟がいたはずなのに、まるで〝私〟が初めから存在していないかのように見えた。
階段に座っていた私に近づいたのは、私の親友である硝子だ。
「
――
」
硝子、と口を開いてもそれは声にならなかった。懐かしい親友に声が届かない。それを見せつけるように、硝子は止まることなく私の座っているところに座って線香花火をしている。私は体を見ようとするけれど、察した。
(そうだ。私はあの時、
私を差し出した
・・・・・・・
んだった)
〝何か〟のために、その代償として明け渡した。仕方ないって諦めたのをうっすら思い出す。
私はそっと硝子の隣の空いた席に座る。もちろん彼女には気づいていない。
彼らは呪術師であるはずなのに私の気配を感じないようで、どうやら私は透明人間か幽霊みたいなものになっていて、認識されていないようだ。
私は彼らの花火をもう一度見る。
綺麗に散っていく花火を見て、二人の同級生を見る。
二人で最強と言って仲がよかった悟と傑。傑は一般家庭の出だというが珍しい呪霊操術を使う。そして隣にいるのが、五条家次期当主になる悟。この二人が余りにも強い術式を持っているがために、呪術界では入学時から注目されていた。そういえば、硝子も珍しい反転術式による治癒能力を持つために、私たちの世代は注目されていた。
私は
――
そんなたいそうな呪術を持っていない。だから、任務の多さも彼らがピカイチに多かったし、私への評価は多分下の下
……
だった気がする。
じっと彼らの花火と、顔を見上げる。彼らは私の気配を知らずに楽しんでいる。
――
ここに私がいるのに! 何で気づかないの?
――
私のこと、忘れちゃったの?
言いたいことはたくさんあるけど、硝子にも届かなかったんだからおそらく彼らにも届かないだろう。私は諦めて、彼らの花火大会を見守ることに徹した。
(もう、あの頃みたいな花火をすることも、ないんだろうな)
小さく、何かが零れたような気がしたけど、多分気のせいだろう。
「
……
――
」
そんな私を、まさか硝子が見ていたのを知らなかった。
花火が終わったらしく、五人は寮へと向かうようだ。彼らは使い終わったゴミを片付け、花火の跡をバケツの中にまとめる。
「硝子! 早く来いよー!」
悟が、私の隣に座っていた硝子に声をかける。やっぱり、私の姿は彼に見えていないようだ。
「ロマンも何もないな
――
はーい! 今行く」
よっこらしょ、と美人な硝子の口からは似合わないおじさんのような言葉に私は小さく笑ってしまう。まだ若いのにソレって
……
。
硝子は終わった線香花火を持って悟が持っているバケツに入れる。小さくシュ、と火が消えた音が聞こえた。
「んじゃ、今日はこれで終わりだな」
「任務お疲れ様でした! 花火も楽しかったです!」
「まぁ、悪くはなかったですよ。ありがとうございました」
「夏と言えば花火っしょ。
――
ったく夜蛾センもケチなんだよな。これくらい経費に落としてくれっつーの」
「「それは自業自得だから」」
傑と硝子がほぼ同時に突っ込む。それにまた私は笑いを必死に堪える。
(でもまぁ、みんなが元気で幸せなら、これでいいのかも)
私がいないのは寂しいけど、この一時のために笑顔になったのなら、私は代償を払ってよかったと思う。
彼らは今度こそ寮に戻るらしい。私は、五人の向けられた背中にそっと手を上げて、手を振った。
「ばいばい。元気でね、悟。傑。硝子」
これが私ができることだから。
どうか今世では彼らを幸せに。
私は彼らの背中が見えなくなった後、そっと高専を離れた。
「
――
?」
家入硝子は、ふと振り返った。それにつられるように五条と夏油も歩みを止めて硝子を見る。
「硝子? どうかしたかい?」
「忘れもんか?」
「違う、そんなんじゃない
……
はぁ」
硝子はため息を一つつくと、二人は首を傾げる。
「
……
本当に覚えてないのか」
「? 何か言ったか?」
今度は五条が尋ねるが、硝子は今度こそ寮へ向かう方へ顔を向いて「何でもない」と零した。
「
――
本当にこれでよかったのか?
アンタ
・・・
」
硝子はかつての親友の名をそっと呟いた。答えることも、見ることも出来ない硝子は、親友を思い出しながら、二人の話を半分聞いて、半分聞き流していく。
そして女子寮の前に着いた。五条と夏油が用心のためにと女子寮前まで送ってくれたのだ。部屋に戻ると電気を付ける。
少し眩しいと目を瞑ると、次第に視界が慣れていき、硝子は机の上に置いてある写真立てを見つめる。
その写真は入学式と書かれた高専の門前で撮影した写真。
目に映るのは、五条と夏油と硝子。しかし、そこには
――
一人分の空白が、そこにはあった。
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