呪里
2025-02-20 22:40:10
2863文字
Public Code_Abyss 本編
 

episode:2 第一幕 〈四つの柱〉


 衝撃の再会から数分後、兎々はゼロの部屋にいた。

 「さっ、遠慮せずに食べて。兎々ととちのために買ってきたんだ」

 自分用の椅子に座っているゼロは、少しばかり顔が強ばっている兎々に話しかけた。

 ふかふかのソファーに座る兎々の前には美味しそうなガトーショコラが置いてある。

 しかし、それ以上に気になる存在がいて食べる気が起きなかったのだ。

 そっと前に目を向けると、兎々の正反対のソファーには先程ゼロをボスとよんだ四人がいた。

 何も言わずただただじっとこちらを見られていて、言い表せない圧を肌で感じている。

 









 「……………ボス」

 一人が声を出した。

 ゼロに話しかけたのは四人の中で一番背の小さい男だった。

 左目を隠した水色の髪に頭の上には触覚のようなものがみえる。

 黒のロングコートを纏い、姿勢よく座る男の紫の瞳は、真っ直ぐゼロを見つめていた。


 「なに?おぼろ

 朧とよばれた男性は一呼吸置いた後、他の三人と目配せを交わし答えた。

 「そろそろよろしいでしょうか。彼女も、この状況がまだ飲み込めていないと思うので」

 朧は兎々に目をやった。

 兎々はビクリとなり、先程まで下がっていた耳がピンと立つ。

 「はっはひっ!?」

 裏返った大きな声が部屋に響く。

 あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして下を向いてしまう兎々。

 シンと静まり返った次の瞬間、一人がフッと息を零した。

 「ふふっ。そんなに緊張しなくて大丈夫よ。誰も貴女のこと、とって食いやしないから」

 そう言ったのは赤と紺のチャイナ服を着た女性?だった。

 ゼロより明るい紫色の髪をしており、長い髪を二つ縛りしつつ、両サイドにそれぞれ二つリングのようになる結び方をしていた。

 兎々は整った美しい顔をみとれたが、先程聞こえた女性とは言い難い低い声は少し気にかかった。

 青と紫、オッドアイの瞳は優しく兎々を見つめた。

  「はじめまして、子うさぎちゃん。私達四人はAbyssの幹部なの」

 「私は呉 柩くれ ひつぎ。貴女達構成員を教育する舎弟頭しゃていがしらを務めているの。よろしくね?」

 薄ら笑みを浮かべた柩を見ると兎々は思わず頬が赤くなってしまった。

 「はっはい。よろしくお願いします。呉さん」

 「やだわぁそんなに固くならないで?気軽に柩ちゃんって呼んでくれてもいいのよ?」

 

 「そりゃ無理やろ柩。話してる相手が自分の上司になるんやから。」

 次に口を開いたのは、唯一ソファーに座らずに一歩後ろに立っている男だった。

 毛先のハネが少し目立つ青色の髪に、膝下まで長い軍服を着ている。

 兎々と同じような獣人だろう。頭の上には狼の耳のようなものが時々ぴょこぴょこと動いている。

 「あらいばらったら。いいじゃないのよ、私は構成員みんなと仲良くしたいの」

 柩は後ろを向いて、荊にブーブーと言い返していた。

 「仲良くするのはええけどな、一応上下関係あるのはしっかり叩き込んどいてや。最近の子っていうんは生意気な輩ばっかりなんやから」

 そう言うと、兎々の方に顔を向けた。糸目だからか、表情があまり読めない。

 「俺は皇 荊すめらぎ いばらっていうんや。お金の事とか、外交関係の事を担当しとる。給料の話やったら、俺に聞いてや」

 荊は口角を上げてひらりと右手を振った。

 「それで、ここにいる水色チビは楠 朧くすのき おぼろっちゅうんや。こんなんやけど一応Abyssのナンバー2なんやで」

 「おい、こんなんってなんだ。こんなんって」

 荊につむじをつんつんされながら朧は不機嫌そうに言った。

 「俺は朧。人事・採用担当を任されている。君のような子を採用するか否かを決めるのは俺だからな」

 鋭い目つきで兎々に言い放った。

 兎々は背筋が凍るような感覚になり眉間にしわを寄せていた。

 「ちょっとやめなさいよそんな言い方。この子はボスが連れてきた子よ?ボスの事信用出来ないっていうの?」

 「馬鹿言え。この世の何よりもボスを一番に信じてるに決まってるだろう。お前こそ何言ってんだ」

 「二人とも落ち着きや。喧嘩するために集まったわけやないやろー?」

 ……目の前で大の大人がぎゃあぎゃあと言い争っている。

 こんな状況におちいった事がない兎々はただただ為す術なくオロオロするしかなかった。



















 「………類」

 ゼロが誰にも聞こえない程の声量でそう呟くと、柩と朧の声はピタッと止まった。

 正確には、止められた。

 兎々が瞬きをした一瞬の間に二人の口にはバツ印にテープが貼られていたのだ。

 「……………

 ゴソゴソとポケットにテープをしまっていたのは、柩と朧の間に座っていた人だった。

 先程全員が立っていた時に一番身長が高かったのをよく覚えている。

 右に一つ縛りしたラムネ色の髪に、膝までの長さのメイド服を着ている。

 ピンクと紫が混ざったような色の瞳の人はやれやれとあきらた表情を見せた後、兎々を見て
ぺこりと謝るような仕草をした。

 「この子は東雲 類しののめ るいっていうんだ。生まれつき声が出せない子だから把握しといて」

 類はゼロからの紹介が終わると、右手で小さくピースをした。

 「はぁ………

 あまりに色々な事が起こりすぎて、兎々は混乱していた。

こんな個性的すぎる人達の下でやっていけるのだろうかと不安でいっぱいだった。