【#深淵覗きの断章】深淵覗きと荒れ地の勇者

リサイズドリンクで爆死した際に思い付いた、リトル・ガーベラと捨てられた地の大精霊のお話です。

⚠原作の諸要素に対する独自解釈・捏造・オリジナル設定あり⚠

Fanmade by チーバオ(QiBao)
#sky創作 #sky二次創作


 星の子の8人肩車よりも遥かに大きく、逞しい大精霊は、その巨躯に相応しい大槍を傍らに置き、胡座をかいていた。
 そして、巨木の如き腕を組み、小さな小さなガーベラの話をじっと聞いていた。
「ふむ。背丈変えリサイズの件は他の子からよく聞いているが……お前、また賭け事じみたアレにハマっているのだな?」
 頭上から降ってくる重く低い声には、少々の笑いと揶揄いが滲んでいる。
 ガーベラはただ、「はい……」と小さく返事をした。

 暴風域の中心部原罪にて『務め』を果たした星の子には、原罪から解放された嵐の子ら(別名『石っ子』)から『星のキャンドル』という特別な贈り物が与えられる。
 星のキャンドルは、星の子同士や精霊との絆を深め合う為に必要なものでもあるが、用途はそれだけではない。方舟の魔法店においては、ランタン、タキビ、虹出しレインボー等の高級な魔法を精錬してもらう為の対価となるのだ。その中で、ガーベラのみならず多くの星の子が狙うのは、恒久的且つ無作為に身長を変えられる『背丈変えの魔法薬リサイズドリンク』だった。
「他の友達は一番高い身長を当ててるし……ネモフィラも当てたことがあったから、私も試したんです。でも……
 そう。かの子は星のキャンドルを散財した挙げ句、『白イタチのガーベラ』の姿に相応しい最高身長を引き当てられなかったのである。
 すでに『務め』を終えた後だった為、星のキャンドルを得るには、再び『務め』を果たせる時期を待つ必要があった。

「ははは、そりゃあ運が悪かったな、ガーベラよ。 お前も他の子らと同様、最も大柄な私に願掛けに来たというわけか!」
 捨てられた地の大精霊は、恥ずかしげに笑うガーベラを見下ろし、びりびりと笑い声を響かせる。
 だが、そのあとの一言で、ガーベラは心の底から震え上がった。

「しかしまぁ、その性質は違えど、星の子らは我らと同様、欲深いところもあるのだな……
 光の巨大魚の顔を模した仮面の奥で、白銀の双眸がギラリと輝く。
 大精霊様は星の子たる己の奥底、いや、向こう側にあるものまで見透かしているのではないかとガーベラは感じていた。
 空の王国の『王』と星の子に纏わる仮説に思い至ったからである。

 遥か昔、星の大精霊と精霊達は『王国』を築き上げた。
 書庫の記録媒体にも、『王冠を被った何者か』を描いた壁画が遺されている。



 それ以外の『王』らしき者の痕跡は、この国のどこにも、滅びの根源とされる暴風域にも存在していなかった。



 だが、預言者の石窟とその不思議な壁画が見出されて以降、状況は一変した。



 確証はないものの、王国史の謎を追う星の子たちの間で、こんな仮説が囁かれるようになった。
「星の子達は『王』と何らかの縁があり、王国の勃興と滅亡に関わっているのではないか?」

 中でもガーベラは《『王』が星の子の始祖的存在であり、その欠片或いは後継的存在が現在の星の子達ではないか》という仮説を掲げている。
 最も、星の子と大精霊・精霊の友好関係に障るであろうこの事柄について、直接大精霊達に問い質したことはないのだが。

「不満や欲は、生きていればいくらでも湧き出るものだ。だが、それらを制御出来ねば争いの元、災厄の元になる。お前も含めた聡い子らは気づいているだろうが……
 そう語りながら、大精霊は右手で大槍を掴み、のそりと立ち上がる。
……私や兵士たちは、善良で純粋な存在とは言い難くてなぁ」

 石窟の『火の試練』にまつわる壁画は、捨てられた地の大精霊と精霊達に『勇気の知恵』がもたらされた事を仄めかしている。この大精霊が、その知恵を以て闇から国を守る『英雄』となり、戦と死と破壊と共にあり続けた事を、博識なガーベラは容易に想像できた。
 長い永い時の中、幾度の戦場を超え、数多の命を奪い、滅びゆく国と数多の死を見つめて。この薄暗い、城塞の門前を模した異空間にて、星の子達が現れるまで幾年も微睡み続けていたのだろう。
 そんな“旧き勇者”は、もしかしたら『王』の正体や末路も知っているのでは、とガーベラは考えていた。

「戦いと謀略しか取り柄が無く、国の堕落と滅びを止められなかった私を……それでも、“新しき勇者”である星の子らは助けてくれた」
 その直後。咄嗟に後方へ退いたガーベラの、マッシュヘアの前髪に、当たるか当たらないかの距離。
 高身長な星の子よりも大きく重い槍の穂先が、リトルマスクの眉間辺りに向けられている。
 刺激に飢えた怖いもの好きで知られる『深淵覗き』でも、流石にこの瞬間は、百の暗黒竜に襲われる方がまだマシだと感じた。

「そんな星の子らが、かつての我らと同じ轍を踏まぬか……我らはそのことを常に気に掛けている。ああ、実に興味深い」
 その行動と威圧感に反して、大精霊の言葉は驚くほど甘やかで楽し気だった。それ故一層、己の灯火が凍りつくような心地がして、ガーベラは言葉も鳴き声も出せない。
「己の欲望を満たす為に、他者に害成し恐怖を振り撒く星の子がいれば、我らはそやつに罰を下す。過ちを……繰り返さぬ為に……
 捨てられた地の大精霊は、ガーベラに突き出していた大槍を右手で数度回し、石突でドシンと地面を突いた。
「ひゃあッ?!」
 悲鳴を上げて腰を抜かすガーベラを見て、再び大精霊は笑う。
「安心せよ。お前とネモフィラはそのような悪しき者には該当せん。今のところはな。それに、この槍は星の子を殺す為には使わぬ。だが、罰された後は……今までと同じ生を歩めぬと思え」