「こいつ、乗ってみたら金属仕掛けみたいな足音がするね。ダイヤも埋め込まれてるみたいだし、生き物じゃなくて絡繰り仕掛けかもしれないな」
星の子、深淵覗きガーベラ
――今は本来の高身長を活かした“白イタチのガーベラ”の姿をしている
――は、のんびり飛行する“訪問者”の頭上に立ち、捨てられた地の大精霊から賜った見事なモヒカン三つ編みヘアと、裾を山吹色に縁どった深紅のケープをなびかせている。
その後ろに立つ、背中まで伸びた白い長髪と空色ケープの星の子
――浅葱空のネモフィラは、夜空を彩る花火を見つめつつ尋ねた。
「ひとしきり飛び回った後はふわりと光って消えちまうから、確かに生き物にしちゃ妙だよな
……でも、絡繰りにしたってどこから現れてるんだろ。ガーベラはどう考えてんだい?」
「第一の候補は」と言いながらガーベラは振り向く。
「書庫から行ける例の“秘密の場所”だな。理解しがたい未知のものが沢山ある場所と言ったら、まずあそこだもの。第二候補はその更に向こうにある
外つ
国だろうね」
「外つ国か」
ネモフィラは、師たるガーベラやその友人達からかの地についての知識を得ている。
空の王国の外、はるか遠くにあるという未知の国。嘗てはそこから、異国の装束と生き物のお面で着飾った旅精霊の集団がやって来たことがあったそうだ。“オフィス”とも呼ばれる“秘密の場所”は、王国と外つ国の狭間にあるとも。
「なあネモ、以前私がキミに読ませたアルハの文書群、覚えてるかい?」
「おう、外つ国に棲む竜がどうのこうの言ってる友達の話だったよな?」
旧き星の子“白雪のアルハ”と“群青の波のルプス”の交流と別離が綴られた『私は真の竜を知らぬ』。
普通の星の子には知覚できない残留思念と“交信”出来るネモフィラは、この文書群を手掛かりに旧き星の子達の遺志や記憶、思念の痕跡を探し出そうとした。だが、それらはいまだに見つかってはいない。
王国の謎を探究するガーベラとネモフィラにとって、王国史の秘密に関わる情報を得る絶好の機会だったのだが
―二人もある程度覚悟していた通り
―そう容易いことではないのである。
「多分だが、この“訪問者”は真の竜種を模した、外つ国由来のものじゃないかと思うんだ」
そういわれて、ネモフィラはかの文書の内容の一部と、アルハが手掛けた挿絵を思い出す。
《外つ国竜こそ真の竜種であり、私たちの知る暗黒竜とは姿かたちが違っているのだ。
真の竜は、光と火の力に属する気高く力強い生き物である。
体は堅いうろこに覆われていて、口から火を吐くことが出来る。
二本脚と被膜付きの翼をもつもの、四つ脚と被膜付きの翼を持つもの、翼なしで滑らかに空を飛ぶもの等がいる。》
「“訪問者”は
……翼なしで飛べる類の外つ国竜に似ているな!」
ネモフィラの驚嘆に、白イタチのガーベラは頷く。
「もしかしたら、外つ国竜を探しに行ったルプスは、本当に外つ国竜や、この“訪問者”とも出会っていたのかもしれないね」
「そうだとしたらすげえかもな
……でも、失踪したアルハとは、結局会えず終いだったのかな」
「さあ、どうだろう。私は、アルハとルプスが、真の竜と共に遠くを旅していることを祈っているよ」
「なあガーベラ。真の竜も、“訪問者”のように幸せを運ぶものだと思うか?」
「ああ。今後会えるかどうかわからないけど、そのはずさ。あの二人もきっと幸せと共にあるだろうね」
蝋燭に炙られて弾ける色とりどりの花火玉と、はしゃぐ星の子達を眺めながら、
二人の探究者は、“吉兆を呼ぶ訪問者”が消えていった方角を向いて、手を合わせた。
《了》
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