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はりぼて自家発電所
2025-06-07 00:14:16
11149文字
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カイオエ短編
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友達がいないと思ってた恋人に友達がいた
ファタリタのその後、オエの死に友達(?)が生きてたら嬉しい。カイオエです。イベストとオーエンカドストのネタバレを含みます。
1
2
おまけ
「ところで、オーエン。賢者様の気持ちを弄ぶようなことしてないだろうな?」
「なに、疑ってるの?」
オーエンは意地悪そうに笑った。罰が悪くなりながらも、カインは続けた。
「ハイネに聞いたんだ。月の心臓を賢者様と分け合おうとしてたって」
「ああ、あれ。折角お膳立てしてやって、譲ってやるって言ってるのにあんまり遅いからからかってやっただけ」
「ご丁寧にヴェールまで被せて?」
「あいつの嫌そうな顔、最高だったな」
「俺がいたのに」
カインがぽつりと呟くと、オーエンはきょとんと目を丸くした。
「
……
なに、拗ねてるの?」
それは図星かもしれなかった。
いや、実際そうなのだろう。だからオーエンは言い当てた。けど、腑に落ちない顔だ。しっくりこないのだろう。状況証拠は揃っていても、オーエンはまだ、カインの気持ちを信じていない。口付けまでしているのに。
「べつに。でも、北の魔法使いは、親しいやつのことは隠したがるだろ。友人とはいえ、魔法使いのハイネの前で
……
」
オーエンが訳の分からない顔のまま、こちらを見つめてくるので、カインは段々自分がなにが言いたいのかも分からなくなってくる。
オーエンは人を信用させて、期待させて、裏切る。本人もそれが好きだという。
カインはそんなことないと言ってやりたかった。けど、言えなかった。カインよりもハイネの方が、オーエンを理解している。北の魔法使いとして、悪い魔法使いとして、友人として。でなければオーエンがあっさりと彼等の結婚に協力することなんてなかったはずだ。
悔しかった。
「
……
北の魔法使いとしてのハイネはもう死んでいる。驚異でもなんでもない。賢者様なんて、いつか自分の世界に帰る。そして僕たちは晶を忘れるんだ」
カインは大事にされている、とハイネは言った。
けど、賢者は守るべき大切な人で、友人や恋人よりも優先するべき存在だ。時には、自分の命よりも。
晶はいつか居なくなる。そして忘れていく。
だからこそ、大事にしてやるべきなんじゃないのかとカインは思う。オーエンは違うようだけど。
「それでも、晶は俺たちと友達になろうとしてくれてる。今いる間だけでも。おまえとだって
……
」
「あいつ、僕が死んだら、花火を上げてくれるらしいよ。人間だから、出来もしないことを簡単に言ってくれる」
「
……
どういうことだ?」
「僕が死んだら、喜ぶ奴はたくさんいるだろうけど、悼む奴はこの世界には存在しない」
オーエンには、まるでカインのことが見えてないみたいだった。見えないようにしているし、させられている。それが、もどかしくて、苦しくなった。
「だけど、賢者様がその空席の役をやってくれるんだって。いつか元の世界に帰るくせに。そうじゃなくても、僕を置いていく、人間のくせに」
羨ましかった。素直に言葉に出来る晶が。
情けなかった。俺だってと言えない自分が。
「嘘になるって分かり切ったことは簡単に言うのに、悪口は嘘でも言えないんだって。その方が、元気になるって言ってるのに」
「それは、分かるな」
「でも、おまえは僕のことが嫌いでしょう」
「たしかに、嫌いなとこも沢山あるけど
……
」
カインは続く言葉を飲み込んだ。好きだと、愛してると、言えなかった。
本当だからこそ、北の魔法使いにとっては、それが呪いになる。悪意を好む、特殊な魔法使いであるオーエンには、祝福が毒になったりもする。
それを拒絶する力が、今のカインにはない。
「賢者様が、僕を大事だと言うのだって、大いなる厄災を倒すための方便さ。僕が晶を守ってやることがあるのも、賢者が死んだら何が起こるか分からないから。それは僕だけじゃない。まともなやつは、賢者を殺すリスクを分かってる」
例外はあるけど、とオーエンは続けた。たしかに、言う通りなのかもしれない。けれど、淡々と語るオーエンは、どこか演技がかっていて、事務的だった。
「弄ばれてるのは、こっちの方だよ」
ぽつり、と言葉を落としたオーエンの頭を引き寄せる。たまらなかった。北の魔法使いは、誰かと心を繋ぐのが、本当に下手だ。心を揺らして、その強大な魔力が暴走すれば世界など簡単に壊れてしまうのだから、そうでなければならないのかもしれない。
なんて、悲しい生き物なのだろう。
北の魔法使いは、そんな風にしか、話ができないのだ。
そんなオーエンの態度に、どれだけ腹を立てたか知れない。だが、そんな自分が幼稚に思えてくる。カインは見知らぬ誰かと仲良くなるのが得意だが、それは北の魔法使いにとって命懸けの行為だ。それなのに、簡単に心を繋ごうとすれび、不快に思われるのも当然だ。
もしかしたら、
オーエンの心臓がないのは、
なんども死んでしまえるのは、
そして、過去を覚えていないのは。
「くだらないことを考えてるな。僕と心を通わせると壊れる、目を合わせるな、言葉に耳を傾けるな。賢者様にそう釘を刺しておいて、おまえが呑まれてどうするの? 賢者様の方がまだ強いんじゃない。魔法使いに生まれてたらね」
「
……
どうして、おまえは俺に忠告をしてくれるんだ?」
「目玉を取り返すってやつ、やってもらわないとね。それを叩き潰したいんだ。おまえはいつまで経っても僕に勝てないって思い知らせてやりたい」
本当か? なんて思うけれど、口には出さない。
「それは嫌だな。おまえに勝って、目玉を取り返すことが出来たら、伝えたいことが山ほどある」
「へえ」
オーエンは楽しげに目を細めた。北の魔法使いは争いを好む。敵に塩だって送る。弱いものには見向きもしない。
だけど、それを引いても嬉しそうに見えるのは気のせいなのだろうか。
「疑って悪かったよ」
「なんの話?」
「こっちの話」
オーエンは自分を悪い魔法使いだと言う。
実際性格が悪いし、悪い噂しか聞かない。
信頼させて、期待させて、散々弄んで、裏切る。
だから皆離れてく。
「ムルの友人に、毒を持った植物を愛して、研究してたやつがいたんだよ。そいつは言ってた。毒は身を守る盾だったのに、解毒剤を作ってしまったのは間違いだったのかも知れないって」
「なんの話?」
「おまえもそうなのかなって」
オーエンの瞼が瞬く。全くわけが分からなそうな表情筋をしている。
「おまえのその毒舌は、身を守る盾?」
「違う。おまえたちの心を暴く刃だよ」
「心を暴いて、どうする?」
「面白いからやってるだけ」
「でも、魔法舎ではあんまり思い通りにいってないだろ」
「気に入らない奴らと同じ空間にいればね」
「いや、それだけじゃない。俺はおまえのことだけは、よく見えるんだ」
ここにいる魔法使い達は、オーエンの言葉に動じなくなってきているし、他の魔法使いの仲裁だってはいる。いつか喧嘩した時、オーエンは自分で言ったのだ。なにも思い通りにいかない。自由じゃない。好き放題やっていると思っていた相手が、他人の姿を借りてだったけど、子供みたいに駄々を捏ねていた。
謝ったら、謝らなくていいと言い、かと思えば、上手くいかなかったように見えるのに、機嫌が悪くならないことだってあった。上手くいかなかった時の、悔しそうな顔を見てみたいと思っていたから、驚いたものだ。
突然襲われて、会う度に嘲笑してきて、厄介を振りまいてくる因縁の相手。なのに、子供のオーエンは騎士であるカインに懐いて、かと思えば、殺されかけて、かと思えば
……
。
「あんたのことが知りたいよ、オーエン」
愛の告白みたいだと思った。
事実そうであると言っても良かった。
でも、オーエンには、はっきり言わなくても伝わったのかもしれない。ただ、確信してもらうには弱かった。戸惑ったように、視線をきょときょと彷徨わせている姿は、彼が極悪非道の北の魔法使いだなんて思えない。こんな姿は誰にも見せたくないと、思ってしまう。
「僕は
……
、いや、僕も、自分のことが分からない」
傷の状態じゃなくても、迷子みたいな顔をする。
最初は見間違いか冗談だと思っていた。なにせ、その時は大事な主君を敵地に連れてくるなんてことをしでかした。事なきを得たからいいものの、到底許せる事じゃない。
だけど、責めきれなかった。彼は自分がどうしてそういうことをするのか、分かっていない。天邪鬼な態度は、わざとだったりわざとじゃなかったりする。
たとえば、ハイネに対する態度がわざとで、賢者に対する態度はわざとじゃない。その本質は、誰かを本気で裏切ろうとしてる訳じゃないと、信じたい。
オーエンだって、自分の毒で、自分自身をも蝕むことがある。誰かを傷つけようとして、自分が傷ついていることもある。
それでも、オーエンは悪意を振りまく。
そうすることしか知らない。そうすることでしか、自分を知ることが出来ない。
自分を知ることは、傷つくことだ。
カインが、誠実でいたいのに、嫉妬をしてしまったり、怒りや失言で相手を傷つけてしまうことがあるように。そうすることしか出来ない時に、自分のことが嫌いになりそうになるように。
「賢者様は楽だよ。いつか居なくなると分かってる。ごっこ遊びが本気になっても、必ず目が覚める。分かっていれば、心が揺らぐことは無い。フィガロあたりも、分かっててやってるだろうね。弱い南の国の魔法使いのふりなんてしてるけど、あいつはそういう奴だ」
酷いやつだと思った。カインには分からない考えだ。理解したらいけない気がした。自分まで、賢者のことをそう思うようになりそうで。
「心が変に動くのは嫌なんだ。自分のことを知ろうとして、自分が自分じゃなくなるみたい。覗きたいような、拒絶したいような気持ちになる。だから僕は、おまえが怖い。おまえだって、直ぐに死ぬ。心が揺らいだって、いなくなるなら、賢者様と変わらないはずなのに、なのに僕は、おまえを殺さずにいて、祈ったりなんかした。怖くなって、離れようとした。なのにおまえは、人の気も知らないで、近寄って話しかけてくる。どうして僕は
……
」
離れられないどころか、失うことを恐れている。
これが賢者なら、いつか来る別れは回避できない。安心していられる。けど、カインはどうだ。この世界の魔法使い。拒絶しても、追いかけてくる。あたりまえだ、己が彼の左目を奪ったのだ。なのにカインはこうやって、オーエンに優しく触れる。彼の優しさが、ことさらに恐ろしい。裏切られる可能性を見て、警戒していたいのに。
怖い。
オーエンのその弱々しい姿は、本当に、他の誰にも見せてはいけないものだ。オーエンだって見られたく無いはずなのに、カインの前で形を無くしてしまっている。
その姿を隠すように、オーエンを抱きすくめる。
身長は同じでも、カインとは違う薄い体は、すっぽりと収まった。白いマントをはためかせているときは、酷く大きく見えるのに。実際、彼が負けるような相手は数少ない。なのに、怖いと弱音を吐くオーエンは、力を込めたらぽっきりと折れそうで、不安になる。
必要ないと分かっているのに、守らなければと思う。
だって、オーエンがこうなってしまうのは、カインのせいにほかならないのだから。
「
……
弱ってる相手に伝えるのは、卑怯だよなあ」
「おい、話聞いてるの?」
「聞いてるけど、聞かなかったことにしなくて良いのか?」
「
……
忘れて」
そう言いながら、オーエンはカインの胸に顔を埋めた。
「もうやだ。こんなことになるなら、おまえなんて放っておけば良かった。おまえは本当に酷くて嫌な奴」
騎士団を襲って、左目を奪ったことを言っているのだとしたら、理不尽極まりない台詞だった。あの件で散々な目にあったカインからすれば冗談じゃない。
なのに、それすら愛おしく感じる。怖いものなんてないと、北の魔法使いにそんなものあるはずがないと言ってた頃が懐かしかった。後悔したところでもう遅い。後悔させてやったと解釈するならば、もはや目玉を取り返したと言っても過言じゃない気がしてくる。
「俺はそうは思わないけど、あんたをこの腕に閉じ込めてると気分がいいな」
「最悪
……
」
「でも、逃げないんだな」
「うるさいな」
悪態を吐きながら、オーエンは離れるどころか甘えるみたいに擦り寄ってきた。やけくそみたいに抱き返してくる。
「死なないで」
聞こえるか聞こえないかの、消え入るような小さな声は、耳元で囁かれたせいでばっちり拾えた。
お返しに愛を囁きたくなる。けどしない。愛する人を壊したくないから。
「あんたより強くなるよ。目玉を取り返さなきゃいけないしな」
「
……
無理だろ」
容赦なくて辛辣な返事に苦笑する。
事実だから始末に負えない。
「だったら、また修行に付き合ってくれ。オーエンは教えるのが上手いしな」
「自分の倒し方を教えろって言うの? 馬鹿なの?」
「違う、オーエンを守る魔法を教えて欲しい」
「
……
馬鹿なの?」
目玉を取り返すと言った、舌の根も乾かぬうちに?
オーエンが困惑してるのが分かって、カインは笑った。言葉がなくても、何が言いたいのかも察しがついた。
同時に、不安が和らいだのか、細い肢体からは力が抜けていく。
気が済んだのか、オーエンの体が離れていくのを、カインは名残惜しく思ったのだった。
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