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保科
2025-06-06 23:11:08
3240文字
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スタレ
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ホタルと星
フィーリングでしかゲームしてないからフィーリングすぎる
「星」
浮かれた声で彼女の名前を口にして、ああ、夢だなあ、と思った。珍しい。眠れたんだ、あたし。
壁に背を預けながら端末を叩く彼女が、呼びかけにこちらへ目を向けた。
「
――
ホタル」
夢と、分かっていたとしても。あたしを捉えた瞬間、ほころんだ口元が名前を紡ぐのに、嬉しさで胸がいっぱいになるのを抑えられない。駆け寄ったあたしの手を、星が握る。いつものフィンガーグローブ。布越しの、ほんの少し高めの温度。自然、口が言葉を紡ぐ。
「あはは
……
待たせちゃったかな。ごめんね」
「ん、気にしないで。今日はどこに行く?ピノコニーのめぼしい所、全部回り終えちゃったよね」
「そう、だね
――
」
ほら、やっぱり。辻褄がもう合わない。
あたし達も星穹列車も、とうの昔にピノコニーを離れてしまった。めぼしい所、なんて、そもそもあたし達が並んで歩いた時間は、ピノコニーの夢境を網羅できるほど長くない。大通りを連れ立って歩いて、ドリームリーフを先導した程度。回り終えちゃった、なんて事は、星神が全て滅びようともありえないのだ。
振り向けば、そこはいつの間にか黄金の夢の街角になっていた。夢の中で夢を見ている。変な話だと思う。
「ホタル?どうかしたの?」
「
……
ううん、何でもない」
でも。夢だというのなら、それでもいい。君と一緒に何度も連れたって、賑やかな街角を歩けるなんて、
――
そんな贅沢、許されるのなら。
「ねえ、カフェ
……
行こうよ。生クリーム沢山のフラッペ、飲みたかったんだ」
「美味しそう。勿論いいよ」
些細な心残りを口にする。都合よく笑う君がまやかしであったって。そんな事も些細と言えてしまう。
曲がり角の喫茶店、一番見晴らしのいいテラス席に腰掛けた。星はメニュー表と何度もにらめっこをしながら、結局パフェとフラッペとケーキを頼んでいた。食いしん坊だ。
あたしはイチゴと生クリームの乗ったフラッペひとつ。たっぷり大容量で、こんなもの、とても、現実では飲みきれないけれど。ここでなら話は別だ。
「あ、おいしい
……
」
口にして思わずつぶやいた。まやかしに美味しさを感じるなんて矛盾だけれど、脳を満たす幸福具合は、まるで本物のピノコニーのよう。
つい、無心で舌鼓を打っていると。
「
――
うん、やっぱり甘いものは最高だね。脳にキマるよ」
その言葉に、速度を落とさず三角食べをするフードファイターが正面にいるのを思い出す。ぱくぱく、星が頬をふくらませる度、お皿に盛られたどれもこれもがみるみる減っていく。
「よくそんなに食べられるね
……
、あたし、見てるだけでお腹より先に胸がいっぱいになっちゃいそうかも」
「んむぐ。え、甘いものは別腹でしょ?それに、私の別腹は100個くらいあるから。これくらい余裕だよ」
「ええ、嘘すぎる
……
」
別腹とかいうオカルトは聞いたことあるけれど、腹がいくつあってもこんな細い体に100個も入るはずない。でも、このままのペースで食べ続けられるなら、本当に別腹がたくさんあるって信じてしまえるかもしれない。そんな事を考えていれば、ふと、星が動きを止める。
「
……
」
「どうかした?」
「もしかして、ホタルも食べたかった?」
「
……
えっ」
強張った声が出た。あたしの動揺を気にもとめず、彼女はそっかそっか、と一人合点をして、ケーキをすくったフォークを差し出てくる。断面でチョコレートとクリームが層になっていて、間にナッツも挟まっていた。美味しそうだった。美味しそうだけど。
「はい、どうぞ」
「
……………
ええ、っと
……
」
身動きが取れない。だって、これはあまりにも都合が良すぎではないか。夢はその人の望みが現れると聞いたことはあるけれど、こんなことが、自分の願望なんだろうか
――
「
……
あれ?違った?」
ただただ戸惑っていれば、眉を顰める星がそっとフォークを戻そうとする、
「ち、ちがくない!」
――
咄嗟に出た声は、自分のものと思えないくらい大きかった。向かい、目を見開く彼女の表情に、顔が赤くなる。
「違わ、ない、です
……
ハイ」
「
……
そっか?」
そんなあたしの挙動に不思議そうに首を傾げつつも、再度差し出された彼女のフォーク。やっぱり少しだけ逡巡して、それからぱくりと飛び付いた。
夢。これは夢。
「う、うう
……
」
だからだろう、ケーキはどうにもこうにも味がしなくて、小さく震えるあたしのことを、星がぼんやり眺めている。勘弁してほしい。たまらず、頬を抑えながら背中を丸めた。
「
……
星、こういうの慣れてるの
……
?」
「?ううん、『分かんない』。そういう話って、ホタルのほうが知ってるんじゃないの?」
「そんな訳ないよ
……
。こんなことしてくれる貴女なんて、見たことないもん
……
」
「ふうん。薄情だったんだね、私」
記憶喪失らしい他人事な物言いに、少し複雑な気持ちを抱けば
――
ふと、世界の色が薄くなる。視界が靄がかるような、ノイズを隔てるような感覚が強くなる。
「
――
あ、もう起きるんだ。本当にに眠り、短いんだね」
から、と、空っぽのグラスの中でストローを回しながら、星が不意に口にする。メタな言及だけど、その言葉がしっくり来た。
「うん。そうみたい
……
、だね。
でも、君がいてくれたおかげで退屈しなかったな
……
。ありがとう」
例え夢でも、意味がなくても、伝えたい思ったから。本心から口にしたそんな言葉に、気にしないで、と星がゆるく手を振る。
「もう5回目だし」
「
……
?」
何の、話だろう。首を傾げれば、
「
――
やっぱり今回も覚えてなかったんだね。ホタルの薄情者」
口を尖らせた星がはぁ、と息を吐く。
「
……
次、もうちょっと思い出に残ることとかしたほうがいいのかな?」
「え、あ、あの」
「オンパロスのことも共有したいけど
……
、そういうのは、ちゃんと対面のほうがいいかなって思うから、また今度ね。他の話題、考えておくから」
おかしい。回数?対面?レイヤーがズレているような違和感。あたしの知る
――
あたしが思い描ける星からは、どうにも逸脱している。何か、おかしいような。
「
……
星。あの、さ。ここって、あたしの、夢
……
だよね?」
「勿論、そうだよ。ここはホタルの夢で
――
でも」
星は言葉を区切ると、人差し指をあたしに向けながら、何でもないように口にする。
「私はいつも私だよ、ホタル」
に、と。いたずらめいたその笑みの意味を、確認し切る前に。その姿も薄く、遠く
――
―――
。
「
………
」
ぱちり、目が覚めた。ベッド脇の床で三角座りをしていたから、体が少しこわばっている。伸びをしながら立ち上がる。
辺境の星の、寂れたコテージの一室。カフカが用意してくれた部屋だ。何処であろうと寝室で寝れた試しなんて殆ど無かったけれど
……
、珍しく眠れたらしい。
時計を見れば、凡そ0.5システム時間ほどが経過している。普段のホタルが取れる睡眠時間からすれば、十分すぎると言っていい長さだった。
ちか、と外が淡く瞬く。窓の向こうに目を向ける。夜明けだ。どの星にも、どの土地にも、いつか訪れる美しい時間。
「
………
ん」
その薄紫の奥に、何か、大切にしたいものが滲んだような気がして
――
「
………
」
目を擦る。涙ごと擦れた視界では、もう何も捉えられなかった。
「
――
星!おはよう。よく眠れたかしら?」
「
……
。まあ、ホタルが喜んでくれるなら正直どこでもいいんだよね
……
」
「ええと
……
星?何ブツブツ言ってるの?」
「何でもない。おはよう、ミュリオン。
そうだ、ちょっと聞きたいんだけど、ミュリオンは、デートするならどこがいいとかってある?」
「みゅ、みゅっ!?何で急に!?まさか星、あたしのこと
……
そんな、そんなのダメ!で、でもでも星がどーしてもって言うなら
……
」
「いやミュリオンはペットだから別にデートとかじゃなくない?」
「ひっぱたくわよ!?」
「痛い痛い!」
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