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ぷの
2025-06-03 15:16:12
17604文字
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レイチュリ🍰
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お誕生日おめでとう
誕生日にまつわるお話3本まとめ。
P1 - 他人よりは近しい誰かの誕生日(🦚の部下)
P2 - 可愛い子たちの誕生日(🍰たち)
P3 - 涙の日(🦚)
1
2
3
【可愛い子たちの誕生日】
アベンチュリンの可愛いお菓子たちは、誕生日がはっきりしている。三匹とも同じ日に数分の差で生まれたと、宇宙ステーション「ヘルタ」の記録に残されている。どうしてそんなことになったのかといえば。
「同じ親から短時間に続けて作ったら兄弟にならないかと思って。試したら、三つ子みたいになった」
好奇心で産み出した命だと言った星に、悪びれた様子は全くない。
「君は本当に衝動に勝てないんだね、マイフレンド」
離れたところで三月がこくこくと頷いている。
「兄弟というものを見てみたかったから」
その言葉からは純粋な好奇心だけでなく、どこか憧れのようなものを感じないでもない。後にヤリーロⅥでランドゥー家の三人に、羅浮で雪衣と寒鴉に、ピノコニーでロビンとサンデーに出会ったけれど、それまでは実物の兄弟に接したことがなかったと言う。
「実際に見てみてどうだった?」
「うーん、よくわからない。これが兄弟だって型はないんだと思った」
「そういうものだろうね」
アベンチュリンは頭の片隅に亡くした姉のことを思い浮かべていたけれど、おくびにも出さなかった。
そんな話をしながら何をしているかというと、星穹列車の厨房を借りてケーキを作っている。アベンチュリンが「ヘルタ」で創造物たちの誕生日を祝うケーキに使える食材を確認していたら、うちで作ろうよ!とたまたま居合わせた星に誘われたのだ。
先頃自分の部屋を用意してもらった星は嬉しくて仕方ないらしく、列車に誘ったアベンチュリンを引っ張って真っ先にパーティー車両に案内した。二階の彼女の部屋はとても広くて設備が整っているうえに、ペットの次元プーマンと創造物までいる。カンパニーの古くて狭くて最低限の設備しかない居住艦で暮らす新人が見たら、即座に琥珀の王を捨てて開拓の運命に鞍替えしそうだ。
星は自室の床でじっとしている創造物を持ち上げて、アベンチュリンに手渡した。
「うちのチビ、クールでしょ」
ブリキのゴミ箱に似た外皮は見た目通りのひんやりとした手触りだ。重さは家の子たちと同じくらい。質感は金属そのものなのに、謎の柔軟性がある。以前星が「冷たくて叩くと音がする」と言っていたけれど、アベンチュリンに音は確かめられなかった。腕の中でじっとしている子は家の三匹のように表情豊かではないものの、可愛いことに変わりない。
星はチビの滑らかな表面をひと撫ですると、拳を軽く握ってコンコンとノックした。中に空洞があるとしか思えない音を響かせたゴミケーキは、星に達観したような静かな目を向けて、尻尾をゆらりと小さく動かした。特に嫌がりも悲しみもしない。構われて嬉しそうでもない。なるほどクールだ。創造物と里親の関係にもこれという型はない。
「私もこの子にケーキを作ってプレゼントしたい。大丈夫、蓋を開けて入れたりはしないから」
「アハハ
……
」
まさか、里親仲間から里子をネタにしたブラックジョークを聞くことになろうとは思わなかった。
以上、回想終わり。厨房に戻ろう。
ボウルに割り入れた卵をほぐし、砂糖を入れてハンドミキサーで泡立てる。
「アベンチュリン、泡が立たないんだけど」
「入れた砂糖が多かったのかな。これは諦めてやり直そうか」
星は顔の前まで持ち上げたハンドミキサーを眺めて不思議そうな顔をしている。スイッチにかかった指が悪さをする前に、サッとその手を押さえて下ろさせた。
「ボウルの外で回さないでね」
小さい子にするように言い聞かせると、星は素直にこっくりと頷いた。
「ところで、君はどうしてそこにいるんだい。一緒に作ろうよ」
離れたところで観戦モードの三月に声をかけたけれど、手で大きなバツ印を作り首を横に振って断られた。
「今日のウチは見てるだけ!」
その顔には、たまには子守りから解放されたいと書いてあるように見える。どうも先行きがきな臭い。アベンチュリンはもう一度卵と砂糖を用意しながら、お尻に殻の付いた新人が配属されてきたときのように、気を引き締めた。
なんやかや頑張って、ケーキは完成した。ロールケーキのスポンジがうまく焼けていたときの安堵といったらなかった。
初心者と分担しながら完成まで漕ぎ着けただけで、成功したと言っていいだろう。しかもこの初心者、要所要所で無謀な冒険心を見せつけようとする。小さな子どもよりずっと手強かった。
さて、後片付けだ。この泡立たなかった卵液と泡立てすぎて分離した生クリームをどうしようか。
「じゃーん、ウチがいいもの見つけてきてあげたよ!」
途中で姿が見えなくなっていた三月が厨房に戻ってきた。彼女に腕を引かれてやってきたレイシオは、アベンチュリンに気づいて目を見開いた。いいもの呼ばわりされても気を悪くした様子がないレイシオに、アベンチュリンも目を見開いた。
アベンチュリンは今、エプロンを身につけ、結んだ髪を三角巾で包んでいる。星がふるいながら撒き散らした小麦粉をかぶって粉にまみれ、星が飛ばしてきた苺のソースを血飛沫のように浴びた、若干ホラーな姿である。星はさらにひどい有り様だ。ケーキ作りの戦場を二人三脚で駆け抜けた結果、絆ではなく溝が深まった気がしている。
「なの、ナイス!」
「でしょ!」
「惨事だな」
「悪いけど手を貸してくれないかい、レイシオ」
アベンチュリンの救援要請にひとつ頷いて、レイシオは身に付けている装飾品と手袋を外して袖を捲った。三月が恭しく差し出したエプロンは断っていた。家で料理をするときもレイシオは滅多にエプロンをしない。丁寧に手を洗い、辺りを観察して状況を把握すると、余った材料を計量して味を見た。
「甘いものばかりでは飽きるだろうから、クレープを焼こう。好きな具を巻いて食べるといい」
キャーッ!と女の子二人がはしゃいでハイタッチして、ばふっと粉が散って三月がむせた。
「君たちは汚れを落としてこい。これ以上厨房を荒らすな、車掌が嘆いていた」
「ありがとう、レイシオ! よっ、真理の料理人」
「アンタはすぐそうやって
……
。やめなって、怒って作ってくれなくなったらどうするの」
「早く行け」
「はーい」
良い子の返事をしてパタパタと去っていく星と三月を見送り、レイシオは肩をすくめた。
「巻き込んでごめんね」
「僕は君を迎えにきたんだ。家でうちの子らの誕生日を祝うんだろう、手早く済ませよう」
「そうだね!」
レイシオは手際よく種を作って、フライパンを二つ並べてクレープを焼いていく。その間にアベンチュリンはせっせと洗い物と掃除だ。掃除の前に服と髪に付いた汚れをなるべく落として多少マシな姿になった。
二人三脚の相棒がレイシオに代わった途端、作業が捗るったらない。こんなことで比べたら呆れそうだけど、アベンチュリンの戦略的パートナーがレイシオで良かったと心底思った。
掃除が終わる頃、様子を見にきたらしい車掌のふくよかな垂れ耳がドアの影から覗いていたので、しゃがんで手招きする。使った材料分に色を付けて、パム宛てに信用ポイントを振り込んだ。
「面倒をかけたうえに材料費まで、申し訳ないのう
……
」
「場所を借りたし、僕の分も作ったからね。たまにはこういうのもいい。楽しかったよ」
「ほら、パムは心配しすぎなんだよ」
「社交辞令に決まっとるじゃろ! お客様に掃除までさせてこの不届き者が
……
わっ、やめい!」
背の高い帽子の後ろからひょっこり顔を出した星が、ブルブルと頭を振って水を飛ばそうとする。パムは慌てて逃げていった。三月が星の頭をひっ掴んで、タオルを被せてゴシゴシとかき混ぜる。
「もう! 自分でちゃんと拭いてってば」
「優しくして、禿げちゃう
……
!」
アベンチュリンは立ち上がってモップの柄の先に手を当てて顎を乗せ、じゃれ合う二人を微笑ましく眺める。列車組の子どもたちは共同生活をしているからか、友達と呼ぶには距離が近い。まるで姉妹みたいだと言ったら、星はどういう顔をするだろうか。
レイシオたちと暮らしてみて、アベンチュリンは思うようになった。血の繋がりがなくても、お互いの出自を知らなくても、どんな運命を歩んでいようとも、家族にはなれる。お互いを思いやり、共同で運営していこうと手を取り合えるなら、成り立ちの違いは些末なこと。関係を維持する努力が必要なのも、いつか手を離すかもしれないのも、血の繋がりがあろうとなかろうと同じなのだ。
家族にもこれという型はない。うちはうち、よそはよそ。なんて、血縁を失くした者の負け惜しみに聞こえるかな?
ああ、うちの子たちに会いたい。お土産を持って早く帰ろう、お迎えも来たことだし。
「そうだ、シャワーのついでに作ったケーキをチビにあげてきたよ。美味しそうに食べてたから、アベンチュリンのとこの子も喜んでくれると思う」
「それは良かった。ありがとう、マイフレンド」
三月がレイシオに呼ばれた。種を全部焼き終わったらしい。大皿に積まれたクレープを見たら、アベンチュリンの腹の虫が騒ぎだした。ホクホク顔の三月が全部食堂に運んでいってしまったので、残念ながら味見はない。
いいなあ。あれで生野菜と蒸し鶏とフレッシュチーズを包んで、レイシオ特製の辛味と酸味が効いたソースを垂らすと絶品なんだよね。生地の甘さと案外合う。内心よだれを垂らしていたら、レイシオと目が合った。小さく唇が動く。「今度」だって、んっふっふ。
床に落ちた水滴をモップで拭き取ってバケツを片付けようと屈んだら、同じタイミングで星もしゃがんだ。手のひらで口元を隠す内緒話のポーズで顔を近づけてきたので、しゃがんで耳を貸した。
「あのね、アベンチュリン、三匹一緒に引き取ってくれてありがとう。大変?」
「ぜーんぜん。三倍楽しいよ。あの子たちは君みたいに手がかからないしね」
こそこそと心配そうにそんなことを聞くものだから、アベンチュリンはにんまり笑ってきっぱり否定した。里親になると決めたとき、必ず三匹一緒にと申し入れたくらいだ。あの子たちを別れ別れになんて絶対にさせない。別々の道を行きたいと、あの子たちから言いださない限りは。
灰色の髪からポタポタと水滴が落ちる。毛先をタオルで雑に拭いて、星はにへらと笑った。
「知らないの? 手がかかる子って可愛いがられるんだよ」
これが実演だと言わんばかりに、ボサボサの頭で可愛い子ぶって小首を傾げる。アベンチュリンも同じ角度で鏡のように小首を傾げてみせた。
「知ってるさ。うちじゃ僕が担当だからね」
内緒話はおしまい。さあ、風邪をひく前に髪を乾かしておいで。アベンチュリンは星の手を引いて一緒に立ち上あがり、ポンと彼女の背中を叩いて送り出した。星は去り際にレイシオに手を振ってハキハキと言った。
「用は済んだから、アベンチュリンを返すね!」
「貸した覚えはない」
いつの間にか使った道具の片付けまで済ませていたレイシオは、アベンチュリンが仕事で使うサインで撤収!と急かした。本当に急がせたいときの合図だ。
家では気が抜けて手のかかるアベンチュリンだけど、仕事となるときびきび働く。家でも仕事でも一緒のレイシオは、アベンチュリンの動かし方をよーく知っている。
「五分待って!」
「三分。ラウンジに顔を出して挨拶してくる」
「僕も行くから待ってよ」
帰り支度を整えたレイシオは、腕組みして待っている。頭の中で秒数をカウントしている顔だ。急いで掃除道具を片付けて戻ったアベンチュリンを、エプロンの紐に指をかけて引き寄せた。
「うわっ」
「まだ粉っぽいな」
「かなりかぶったから簡単には落ちないよ。ところで、お迎えの足はなんだい? うちのシャトルなら自動航行にして、道中で洗濯しながら一緒にシャワーを浴びるのはどうかな」
エプロンを脱ぎながら尋ねる。もちろんアベンチュリンも、レイシオがどうすればお願いを聞いてくれるか、よーく知っている。
「今日は家に帰ったらあの子たちが主役だからね。それまでに時間の有効活用、しよう?」
上目遣いでレイシオの首に腕を回し、ぺろりと唇を舐めて湿らせる。レイシオは粉っぽいアベンチュリンの腰をためらいなく抱き寄せた。大きな手が三角巾を外して結んだ髪をほどき、軽く汗ばんだ地肌に指を差し入れて風を通す。
人様のおうちなので少し遠慮して、触れるだけのキスを素早く交わした。小さく唇が動く。「続きは十分後」だって、りょーかい。
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