usagipai
2025-06-02 16:56:02
4744文字
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フィナ、セナ



親バカ?

神殿最上階――
ジュピターの居室。そこは天界のどこよりも静かで、どこよりも不機嫌なオーラが渦巻いていた。
……で?」
ひのでは、くつろいでいたティータイムを急襲された被害者として、
湯気の立つマグカップを片手に問うた。
「“で?”ってなんだよ」
ジュピターはソファにどかりと腰を下ろし、顎を片手で支える。
「天使たちが――よりによって人間界で“デート”?スフィーが報告書にまで書いてきたんだが?」
「報告書に……書かせるんじゃねえよそんなこと」
「うるせぇ!」
ぶつぶつ言いながら、ジュピターは指を鳴らす、薄い空間の膜が割れ、そこに小さな映像が浮かび上がる。
そこに映るのは、
セナとフィナ。
誰かを待っているようだった。
……これ、監視してんのかよ」
「神だぞ、俺。天使の行動管理くらい、当然だろ」
「親の過干渉みてーだな」
ジュピターはむっとしながらも、映像から目を離さなかった。
しばらく沈黙が流れたあと、ジュピターがぽつりと呟く。
……あいつら、恋するように“作ってない”のにな」
「だから、だろ?」
ひのではマグカップを持ったまま、ぼんやり窓の外を見ながら言った。
「そうやって“しないように”って決められたやつがさ、
それでも誰かに出会って、心が動くって――俺は、いいことだと思う」
……でも天使だぞ。人間と恋なんて――
「ジュピター。お前、何気にしてんだよ?」
その言葉に、ジュピターの目がわずかに揺れた。
「天使が恋を知ったなら消すつもりだった」
「!」
ジュピターは再び指を鳴らして、映像を閉じた。
ひのではしばらく言葉を失った。
さっきまでの軽口の余韻がすっと消えて、マグカップを置く音だけが静かに響いた。
……消すって
ぽつりと漏らしたひのでの声は、いつもより低く、どこか乾いていた。

ジュピターは応えない。ただ、手を組んだまま俯き、額を指先で支える。
「そうだろ……駒でしかねぇんだぞ、アイツらは。
神と神子の補佐が、あいつらの“役割”だ。
そんな気持ち、必要なわけねぇだろ」
静かで、よく通る声だった。
まるで、自分に言い聞かせているかのような冷たさがあった。
ひのではじっとジュピターの横顔を見つめた。
熱のこもらないその目を、思わず睨みつけそうになる。
「ふぅーん……でも、俺に相談してるあたり、悩んでんだな?」
マグカップを置くと、ひのでは立ち上がり、ジュピターの前に歩み寄る。
ソファの前で足を止めて、少しだけ屈んだ。
「消すんなら、報告書読んだ時点でやってただろ。
映像で確認して、それでも……こうして俺に“どうするべきか”聞いてる時点でさ。
お前、もう――答え出てんじゃねぇの?」
ジュピターは顔を上げなかった。
ただ、口元がわずかに歪む。

……“恋を知った天使は異常個体”だ。放っておけば力が不安定になる。
それに、人間に心を寄せた時点で――天使としての役割は終わりなんだよ」
「でも、“役割”だけが生きてる意味じゃねぇだろ」
……
ひのでは、まっすぐにジュピターを見下ろした。
「それに、あいつらが“本当に壊れた”ってときは、ちゃんと誰かが支えるだろ。
俺でもいいし、お前でもいい。……たぶん、スフィーだって黙ってねぇよ」
ジュピターの指先が、ソファの肘掛けに強く食い込んでいた。
けれどその拳は震えていた。迷っている証拠だった。
「ジュピター。お前さ」
ひのでの声が少しだけ和らぐ。
「ほんとは、“臆病”になってんじゃね?」
その瞬間、ジュピターの視線がぱっと跳ねるように動いた。
図星だった。誰よりも鋭く、誰よりも優しい人間の少年に――核心を突かれていた。

沈黙が落ちる。

しばらくして、ジュピターは小さく息を吐いた。
……ったく、誰だよお前……神でもねぇくせに、そんなこと言う資格ねぇだろ」
「俺は人間だから言えんだよ。お前らの“正しさ”だけじゃ、世の中まわんねぇってな」
言って、ひのではにやりと笑った。
「ま、俺としては、あいつらの恋、応援するけどな。
だって面白そうじゃん?“初恋”で世界のルール揺らす天使たちなんてさ」
……ほんとお前って、やっぱロクでもねぇ人間だな」
ジュピターは、ついに顔を上げた。
どこか呆れたように、それでも――どこか救われたように、笑っていた。

「とりあえず、もう少しだけ黙認してやるよ。……
「はは、お前結構親バカだよな」
「うるせぇ
そう言いながら、ジュピターは空間に浮かぶ映像をもう一度呼び出した。
セナとフィナを見ながら
ジュピターはふっと目を細めて、ため息をついた。
……まったく、どういうことなんだろうな
そのつぶやきは、誰に向けたものでもなかった。
でも、ひのではそれを聞き逃さなかった。
部屋の中に、静かな風が流れた。
そして――
ジュピターはそっと、もう一度映像を閉じた。
それは、神が見守ることを選んだ瞬間だった。