ペユの瓦礫
2025-05-29 15:07:06
3792文字
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きみがほしい

#深夜のシャリ受ワンドロワンライ お題「はかりごと」 「ジャンク屋にて」の続きです。アムロ×シャリア

 いつもどおりの朝だ。今日も親父は外で仕事、自分はメカいじり。といっても趣味でやってるわけではなくて、れっきとした仕事だ。モビルスーツは戦時中に兵器として作られたものだが、今では土木工事や警備など、軍以外の色々な場所で使われている。利用されていればメンテナンスが必要になるし、故障すれば修理も必要だ。メーカーの工場だけではそれらの需要を満たせない。結果、このコロニーには民間のモビルスーツ整備工場がごろごろしてる。俗っぽく「ジャンク屋」なんて呼ばれることもある。そんなジャンク屋のひとつがうちだ。
 モビルスーツは機械をコンピュータで制御しているから、ジャンク屋はメカニックとプログラミングどちらの知識も必要な高度な職業だと俺は思っている。仕事の予定を確認しつつ、緊急の案件はないことを確かめて、今日は自分のモビルスーツの整備をしてみることにした。俺が自分用に整備しているモビルスーツは連邦払い下げの軽キャノンだ。改造を加えて自分が使いやすいようにかなり変えてある。しかし最近は機体が思ったようには動かないという不満を持ちつつあった。自分の操縦に機体がついてこれていない。しょせんは敗戦国の量産型モデルということだろうか。自分の改造では限界が来ていて、これ以上は改良できそうにない。そんな状態でしばらく愛機を放置していた。
 そんな時に、あのクランバトル中継を見てしまった。
 ゲルググ対赤いガンダムと謎のモビルスーツ。赤いガンダムは有名な行方不明機で、なぜクランバトルに出られるのか分からない。あの機体は世界にひとつしかないはずだ。はたして本物なのかどうか。当初は外見を似せただけの偽物だと言われていた。このところクランバトルで連勝し、本物なのかもしれないなどと騒がれ始めている。ジオンが赤いガンダムを探しているのは皆知ってる。当然ジオンはこのクランバトルもチェックしているのだろう。赤いガンダムは見たことがないモビルスーツとマヴを組んでいる。ゲルググは本来なら民間に払い下げられるようなものではないが、あのクランの内情は周知の事実なのでそこには驚かなかった。驚いたのは、ゲルググの変な動きだった。常識では考えられない動きで、赤いガンダムと謎のモビルスーツを翻弄していた。
 結局赤いガンダムに討ち取られてしまったのだけど。
 ともあれ市井の整備技術では限界があるのだと思い知らされたのだ。
「こんにちは」
 ガレージで軽キャノンの制御コンピュータの動作を表示させているモニターを前に考え事をしていたら声をかけられた。
 店を開けた状態にしてはいたから、いつのまにか中に入ってきた客がいてもおかしくない。
「いらっしゃい、えーと、親父は……
「レイさんはお出かけなのですね。でも今日はアムロくんに会いにきました」
 ジオン軍のシャリア・ブル中佐だ。最近は同じサイドのイズマ・コロニーにジオン軍の強襲揚陸艦ソドンが入港して騒ぎになっていた。自分の記憶が確かならば、その艦を使っているジオンの軍人は彼――シャリア・ブル中佐である。
「ちょっとお話がしたくて。今いいですか?」
 自分に一体なんの用だろう。俺は居住まいを正した。シャリア・ブル中佐はジオンの軍人だが、うちのサイドは中立で自治を保っているから、軍服ではなくスーツを着てやってくる。うちのジャンク屋には今まで何度か来たことがあって、俺も顔見知りだ。前回に訪ねて来てくれた時は、モビルスーツ談義に花を咲かせたものだった。現役の軍人であることもあるだろうが、彼のモビルスーツ知識はかなりのもので、話すととても楽しい人なのだ。基本的にはジャンク屋の主である俺の親父に用があって訪ねてくるのだけど、俺にも興味があるようだ。こんな風に声をかけてくるのだから。
「はい。大丈夫ですよ」
 俺は学校を出てからずっと、いや学校に行っていたころからメカをいじってきた。ちょっとした特許も持っているし、それで十分食っていけている。でも普通の務め人をしたことがないので、軍人みたいなちゃんとした職業人を前にするとちょっと緊張する。一応親父も俺が子供の頃は軍属だったんだけど、技術士官だった親父と違ってシャリア・ブル中佐は折り目正しい本物の軍人だ。なんでも昔は木星船団の隊長をしていたとか。そんな経歴を鼻にかける様子はなく、中佐は俺にもフランクに話しかけてくる。
「前に聞いた、クランバトル用のモビルスーツを自分で整備しているっていう話なんですけど」
 クランバトルは非合法の興行だから、それに関わっていると知られたら警察に捕まってしまう。だがサイド6では黙認されているのが現実だ。中佐はサイド6の人間ではないが、仕事柄クランバトルに興味があるとか言っていた。それはそうだろう。彼はジオン最強のニュータイプだと噂されている、凄腕のモビルアーマー乗りだ。モビルアーマーはクランバトルへの出場がクラスによっては制限されている。だが中佐はモビルスーツにも詳しい。リック・ドムに乗っていたことがあると聞いたことがある。
「ああ、はい、これで出てたんですよ」
 傍らの軽キャノンを見上げながら答えた。中佐は少し目をすがめて、軽キャノンに視線を向けた。俺の軽キャノンは改造を繰り返しているからもうメーカーのサポートはつかないし、自分で整備するしかないのだが、本職の目で見てもそれが分かるのかもしれない。
「なるほど、興味深い」
 最近はクランバトルに出ることはなくなっていた。いつまでも非合法な行為に身を投じているわけにはいかないというのもあるが一番のネックはやはり整備のことだった。そんなことをぼんやりと考えながら軽キャノンを見上げる中佐を眺める。背筋がすっとしていて、うつくしい。彼の立ち姿にはなんとも言えない魅力を感じる。不思議な男性だと思う。
「実は、直近の君のクランバトルのビデオを見せてもらったんですよ。前回……いえ、前々回くらいからでしょうか、モビルスーツの駆動系に負担がかかりすぎているようですね」
 俺は目を見開いた。そのことは親父にすら言ってなかったのに。映像で見ただけでそれがわかったというのか。
「はい、そうなんです。結構前から、です」
 それを聞くと中佐は俺を見てにっこりと微笑んだ。
「駆動系摩擦のキャンセル技術というのをご存知ですか?」
 俺は本当に驚いた。それは一介の整備士では知りようがない最先端のモビルスーツ技術の話だった。そんなことを町の整備工場ジャンク屋の技術者にすぎない自分に話してどうしようというのか。
「もし、君さえよければ、この技術を君のモビルスーツに提供してもいいと考えています。幸いなことに技術の提唱者たるモスク・ハン博士が折良くこのコロニーに居りましてね」
「そんな都合のいい話があるものですか? あなたにどんなメリットがあるっていうんですか」
 俺の言葉に、中佐は少し首をかしげて言った。
「もちろん、私にも利のあることです。私は様々な条件下でのモビルスーツの戦闘データを収集していましてね。私は君のモビルスーツの戦闘データが欲しい。お分かりいただけますか?」
 なるほど、彼の言うことはもっともだ。しかし
「中佐のふねにだってモビルスーツはあるんでしょう?」
「ええ」
「だったらいくらでもデータなんて取れるでしょう」
 話が旨過ぎれば、誰でも疑い深くなるというものだ。
「でも――
 いつのまにか俺のすぐ横に立っていた中佐が、俺の耳に唇を寄せていた。そのことに気がついて、俺は飛び上がりそうなくらい驚いたが、なんとかそれを抑える。どきどきして、口から心臓が飛び出そうだ。
 そんな俺の様子を知ってか知らずか、中佐は俺に小さく囁いた。
「私はが欲しいんです」


「本当にそんな話を持って行ったんですか」
 呆れた顔でラシットが言う。
「ええ、互いに利がある、なんて言うんでしたっけ――『ウィン−ウィン』の関係というやつです」
 ソドンに帰投したときからシャリアは楽しそうにしていて、艦橋ブリッジのクルーたちは物珍しそうにそんな彼を見守っていた。
「うちにだって正規のパイロットがいるのに」
 そういうコモリは少し不本意そうだ。
「そうですね。でも彼のクランバトル見ましたか? 全ての動きが完璧だ。彼こそまさに本物のニュータイプですよ」
 今は行方不明のシャア・アズナブル大佐そしてシャリア・ブル中佐が、ジオン最初のニュータイプだ。シャア大佐がいない今、ジオン最強のニュータイプはシャリア・ブル中佐だというのがジオン国内外問わずもっぱらの評価である。そんな彼が太鼓判を押しているのだから、ソドンのクルー達は大いに驚いた。しかし過去の対戦映像アーカイブを見漁るほどクランバトルに興味を持つ者はソドンにはシャリアしかいなかったから、彼のその評価が妥当かどうか判断できる者はいなかった。
「いざとなったら彼のお父さんの過去の不祥事とか、あるいは現在のジャンク屋での営業停止にたる違反行為なんかを取引の材料に使おうと思って色々と仕込んで行ったのですけど、全く必要なかったです。謀りごとというのは疲れますからね、使わずに済んでよかったです」



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