匣舟
2025-05-27 22:04:48
10661文字
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いっぱい食べるあなたがすき!

食べる時に幸せそうにする勘をみるのが好きな乱の話 友情出演:庄左ヱ門


いっぱい食べるあなたがすき!③


「せんぱぁーい、早く食べましょうよお〜。」
「もうちょっとで座れるところがあるから頑張れ。それと、学園外ではなんて呼ぶんだったっけ?」
 乱太郎の目の前でにこりと微笑んだ勘右衛門がそう言うと、あ、と間違えたことに少し顔を赤らめながら、乱太郎がそっぽを向きながら名前を呼ぶ。
「勘右衛門さん。」
「よくできました〜!」
 こどもあつかいはんたーい!と手を繋いでいない片方の手でポカポカと勘右衛門の背を叩く乱太郎を勘右衛門は上手く誘導させながら、人混みを抜けて河川敷の方に行っている真っ最中であった。
 よくこのカステラを買いに来る勘右衛門はいつもその河川敷の土手でカステラを食べているのだ。
「あ、あそこ!座れそうですよ!」
 乱太郎の指差す方を見ると確かにそこには人があまり座っていない場所があり、勘右衛門は乱太郎に手を引かれながらそこに座った。カステラの入った紙袋を膝の上に乗せて、乱太郎がワクワクしながら袋を開けるとふんわりと甘いいい香りがした。
「わぁ……美味しそうですねぇ!」
「カステラは逃げないぞ〜?」
「だって美味しそうなんですもん〜!」
 早く食べたい食べたい!と急かす乱太郎に分かったって。と促しながら、ガサゴソと紙に包まれたカステラを袋から取り出し、乱太郎に分けてあげる。
 カステラを持ったふたりは顔を合わせて、いただきます。と言って小さな口でカステラを食べる。
 ふわふわなカステラを口に含むと、口の中には甘い砂糖の味が広がる。カステラの程よい甘さに思わず顔がほころぶ。
「んん〜っ!おいしいぃ〜!」
……やっぱり何度食べても美味いなあ〜。」
 カステラを食べて幸せになっていた勘右衛門だったが、ああ、いけないダメだった。本来の目的を忘れてはいけないと勘右衛門は手に取ったカステラを一口で食べるのをやめた。
 そうだ、自分の食べている姿を見る乱太郎を見たいからこの一週間ずっと楽しみにしていたのだ。
?勘右衛門さん、カステラ食べないんですかぁ?」
 勘右衛門がカステラを食べるのを辞めるのを不思議に思ったのか乱太郎がそう声を掛けてきたのでいやあ、一口で食べるのが勿体なくてね。と誤魔化しつつ、小分けにしたカステラを口に含んだ。
 いつもなら口に含んでからカステラの美味しさにやられて目を細めてしまうけれど、今日は違う。乱太郎の反応を見逃さない様に勘右衛門は乱太郎に気づかれないようにじっと見つめていたその瞬間。大輪の花が花開いたようにうっとりと勘右衛門を見つめている乱太郎が目に入った。
(いつもこんな顔を乱太郎に向けられていたなんて……。)
 なんでこんな表情を向けられていることに気づかなかったんだろうという感情と、自分のことを愛おしいという気持ちが全面に出ている乱太郎の表情を見てしまって勘右衛門は一人で色んな感情が混ざりあって、しっちゃかめっちゃかになっていた。
勘右衛門さん、どうしたんですかぁ?顔赤いですよ?」
「えっ、いや!なんでもないよ!」
「そうですか……?」
 勘右衛門の様子がおかしいことに乱太郎が気づいたが、まさか乱太郎が自分がなにかを食べている姿ををこんなに愛おしそうに見ていることに気づいたから照れているなど言えるわけない。
 勘右衛門が乱太郎にバレないように深呼吸をしていると、あ、となにかを思い出したかのように乱太郎が声を上げた。そして、カステラを一口分切り分けて勘右衛門に差し出した。
「勘右衛門さん、あーん。」
 乱太郎の行動に勘右衛門は驚いて目を見開くが、すぐにいつもの表情に戻って差し出されたカステラを食べる。もぐもぐとカステラを味わっている勘右衛門を見て、乱太郎の表情はにこにこと笑みが止まらない。
 そんな乱太郎に勘右衛門は本当に今日は乱太郎にやられてばっかだなあ。と思いながらもう一口、口に入れて咀嚼して飲み込んだ後、お返しというように手に持っていたカステラを乱太郎の口元に差し出す。
「ほら、乱太郎もあーん。」
 すると、頬を少し赤らめながら乱太郎が照れくさそうにそのカステラを口に含む。その顔があまりにも可愛らしくて思わず勘右衛門は乱太郎を抱きしめてしまった。
か、勘右衛門さん?」
 いきなり抱きしめられた乱太郎は驚きで目をぱちくりさせて勘右衛門を見つめる。そして勘右衛門はそんな乱太郎に一言、もう少しこのままで居させてくれ。と伝えた後、カステラをもう一口切り分けて自分の口と、乱太郎の口に入れるのだった。
「はーあ、お腹いっぱいですねえ!」
「そうだな〜。カステラ、美味しかったか?」
「はいっ!絶品でした!」
「そっか、行ったかいがあったなあ〜。」
 カステラを食べ終わってしまった土手を後にして二人は手を繋ぎながら歩いて忍術学園への道のりを歩いている途中であった。
 勘右衛門が乱太郎にそう聞くと、乱太郎が満面の笑顔で答えたので、勘右衛門もつられて笑顔になる。
 今日はいい一日だった。乱太郎の色んな顔を見られたし、特に自分が食べている時のあの愛おしそうに勘右衛門を見る姿を思い出すだけで三郎から来る教えろよという圧も、同室の兵助による豆腐ハラスメントにも耐えられる破壊力だったと思う。
 町から忍術学園までは四半刻の距離だから、あともう少ししたら忍術学園に着く頃だ。でも、乱太郎とまだ離れたくない。そんな考えが勘右衛門の中に駆け回っている。
 この一週間、この日の為だけに兵助による豆腐ハラスメントだって耐えたし、三郎の悪態だって、八左ヱ門の委員会の脱走した毒蛇も捕まえたし、雷蔵の迷い癖だって寛容に許してきた。ああ、またいつもの日常に戻ってしまうのか。
 俺は何を楽しみに生きていけばいいんだろう。と一人で百面相をしていると、乱太郎が隣でクスクスと笑っていた。
なんで笑うんだよ。」
「ふふっ、だって、勘右衛門さん、ずっと変な顔してるんですもん。」
だって、もう学園に着くじゃないか。」
 乱太郎の事を独り占め出来なくなるのが嫌なんだ。と素直に言ってみると、ボッと音が鳴るくらいに乱太郎の顔が真っ赤に染まった。そして、勘右衛門から視線を逸らして、俯いてしまう。
「らーんたろ?」
恥ずかしいので顔見ないでくださーい!」
 乱太郎の顔を覗き込むように勘右衛門が名前を呼ぶと、顔を赤くしたままの乱太郎が少し頬を膨らませながら勘右衛門に言い返した。その様子があまりにも可愛くて思わず勘右衛門は吹き出してしまう。
「あはははっ!可愛いなあ、乱太郎は!」
「もー!笑わないでくださいよぉ!」
「いや、だって……ふふっ。」
 もう〜!!と言いながら乱太郎は勘右衛門の肩をポコポコと叩く。それでも全く痛くないのは照れ隠しをしているのがバレているからだろう。
「もう、ほら!帰りましょう!」
 そう言って乱太郎は少し早足で学園の方に向かっていく。ああ、やっぱり楽しい時間はすぐに過ぎてしまうんだなあと少し寂しく思いながら勘右衛門もそれに続くように足を進める。
 でも、最後くらいやっぱりもっと乱太郎と一緒にいたいなあ。そう思いながら勘右衛門は小走りで乱太郎の隣に追いついて、乱太郎に抱きついた。
らーんたろ。最後ぐらいゆっくり歩いてよ。」
 独り占めできるのあともうちょっとだから。ね?と耳元で囁くと、乱太郎は耳まで真っ赤にして勘右衛門をじとりと見つめて、ずるいです……。と一言呟いた後、ゆっくり歩き出したのだった。
 二人で色んなことを話しながらゆっくり歩いていると忍術学園の門が見えてきた。ああ、この門をくぐってしまえば乱太郎を独り占め出来なくなるのか。はあ、ずっと独り占めしていたいなあ。と思う勘右衛門の服の袖を乱太郎がちょん、ちょん。と引っ張った。
ん?どうした?」
 そう言って勘右衛門が乱太郎と目線を合わせるように屈むと、頬に柔らかい感触が伝う。気づけば勘右衛門は頬にキスされていた。
「勘右衛門さん、今日は楽しかったです。」
 また一緒に出かけてくださいね。勘右衛門さんだいすきです。じゃあ!私はこれで!と顔を真っ赤にさせた乱太郎が早々と忍術学園の門目掛けて走っていった。
「え、ちょ、乱太郎!」
 韋駄天と呼ばれる乱太郎の手を掴むことは出来ず、勘右衛門は乱太郎が走っていった方向を呆然と見つめながら、自分の頬に手を当てる。そして、乱太郎の唇が当たったところを優しく撫でた。
……ああもう全く!俺の心を掻き乱すだけ掻き乱して!)
 また、二人で出かけよう。今度はどこに行こうかな。次は乱太郎の好きなところに連れてってやろうかな。と考えながら勘右衛門は門の中に入って行ったのだった。
 次の日らーんたろ?昨日のはなあに〜?と上機嫌で乱太郎を追いかける勘右衛門と、顔を真っ赤にさせながら来ないで〜!と学園内を走り回る乱太郎がいたとか居なかったとか。
 学級委員長委員会で使われている部屋では、勘右衛門からお土産でもらったカステラをもぐもぐと頬張る庄左ヱ門が居たらしい。