匣舟
2025-05-27 22:04:48
10661文字
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いっぱい食べるあなたがすき!

食べる時に幸せそうにする勘をみるのが好きな乱の話 友情出演:庄左ヱ門


 

いっぱい食べるあなたがすき!②


 ついに、ついに待ちに待ったこの日が来た。と尾浜勘右衛門は待ち望んでいた休みの日になったことを喜んでいた。今日は乱太郎と約束していた通り、南蛮菓子の屋台が出ると噂で聞いていたので先週にそれに行こうと約束を取り付けていたのだ。
 この屋台の南蛮菓子を勘右衛門は何回か食べたことがあり、屋台が出る度に行っているほどの大ファンで今日という日を心待ちにしていたのだが、今回は南蛮菓子が食べられるからという理由で心待ちにしている訳では無い。
 勘右衛門が何度も通うほど行く南蛮菓子より、楽しみなのは今週の初めに乱太郎と同じ一年は組で勘右衛門と同じく学級委員長委員会に所属している庄左ヱ門に大きな爆弾を落とされたのが始まりだった。
 週の初め、いつも通り何もすることがないから鉢屋と委員会で使っている部屋でお茶を飲みながら寛いでいた時のことである。いつも早くに来る庄左ヱ門が来ておらず、どうしたんだろう?とふたりで話していると、部屋の襖が開いたかと思えば庄左ヱ門にこう言われたのである。
「尾浜先輩、乱太郎の事ちゃんと大切にしてあげてくださいね。」
 何かあったら、僕タダじゃおきませんから。場合によっては一年は組も敵に回すことをお忘れなく。とにこっと笑った庄左ヱ門に、勘右衛門は乱太郎になにかしてしまったのでは無いかとオロオロしていた。
 隣では鉢屋は何かやったんじゃないのか?庄ちゃんキレてんじゃん。と返していて、全く心当たりがなくオロオロしている勘右衛門にちょっと耳を貸してもらっても?と庄左ヱ門から言われたので、勘右衛門は耳を貸すことにしたのである。
 これが大きな爆弾であることも知らずに
「尾浜先輩ってよく乱太郎と食べ物を食べに出かけているでしょう?」
そうだけど、それがどうかしたの?」
「ああ、それが。」
─さっき、掃除の時間に乱太郎がにこにこしてたからどうしたの?って言ったんです。そしたらね、来週に尾浜先輩と南蛮菓子の屋台に行くって言ってて。
 別にそこまでは何も気にしなかったんですけど、この前も団子屋に行ってたとか、うどん屋に行ったことを尾浜先輩から聞いてたので、乱太郎が尾浜先輩の好きなところにばっかりついて行ってるな。って思って、それで我慢してるんじゃないか?って聞いたんですよ。
 そこで勘右衛門が考え込むと、庄左ヱ門は一度話をやめる。確かに、思い返せばいつもどこかに出かける時は必ず勘右衛門があれを食べに行こうとか予定を決めていたことを今、思い出した。
 そうか、乱太郎に我慢させているのか。次からはちゃんと乱太郎の好きなところに行かせてあげるようにしないとなあ。と反省していると、庄左ヱ門がにこっと笑ってこそこそと話を続けた。
「でもね、乱太郎はね、我慢してないよ。と言ったんです。」
 だけど、乱太郎って気を遣うのが得意でしょう?だから先輩に上手く言えないんじゃないかって思って、言えないんだったら僕が尾浜先輩に同じ委員会のよしみとして言ってあげるよ。と言ったんです。そしたらね、乱太郎がね、こう言ったんですよ。
「あのね、私ね、尾浜先輩が食べ物を食べて幸せそうに笑ってる瞬間を見るのが一番好きなんだあ。」
 って。あと、尾浜先輩ね、口を大きく開けて一口で大抵のものは食べちゃうんだけど、その口に含んだ瞬間に分かりやすく笑顔になる尾浜先輩を見るのが好きで、ついつい先輩の行きたいところに着いてっちゃうんだ。とも言ってました。
「ね、僕が乱太郎を大切にしてあげてください。って言った理由分かったでしょう?」
 と庄左ヱ門がにこやかに笑っていたが、勘右衛門はそれどころでは無かった。乱太郎が可愛すぎて心臓がどうにかなりそうになっているので。ここでワーッ!と大声を出さなかった自分を褒めて欲しいぐらいだと思う。
 庄左ヱ門から語られた乱太郎は叫びたいくらいに可愛い乱太郎だった。多分、それを聞き耳を立てていたら尊すぎて成仏していたかもしれない。
 乱太郎に内緒だって言われたんで先輩も内緒にしてくださいね。と言った庄左ヱ門に親指をグッと立てて、庄左ヱ門にはなにか南蛮菓子を買っていかなきゃならないなあ。と手で顔を覆いながら乱太郎が可愛すぎる……。と呟いたのである。
 週の初めにあんなかわいいかわいい大きな爆弾を落とされたので勘右衛門はずっと上機嫌だった。休みの日が近づく度に早く乱太郎と一緒に南蛮菓子を食べに行きたいなあ。と思うほどだった。
 お陰で結局庄左ヱ門と勘右衛門からこそこそ話の内容を聞かせて貰えなかった鉢屋にはずっと悪態をつかれていたし、久々知たちには機嫌がいいなあ。とバレバレだった。
 でも仕方がない。あんな大きな爆弾を週の初めに落とされてみろ。こうなるしかほか無いと勘右衛門は思った。
 というか週の初めにこんなかわいい大きな爆弾を爆破させられて、乱太郎のことを攫わなかった自分を褒めてすら欲しいと思う。
 普段気にしない前髪を気にしながら校門前で待っていると、後ろから勘右衛門せんぱぁ〜い!という愛しい子の声が聞こえる。
後ろを振り向くとやはり自分の方に駆けてきているのは恋人である乱太郎で、手を振りながらこっちに来ていた。
「せんぱい、ごめんなさい!待たせちゃいましたか?」
「ううん、俺が楽しみで早く着きすぎただけだから大丈夫。」
 えへへ、良かったぁ。なら行きましょう!と勘右衛門の手をグイグイと引っ張る乱太郎に勘右衛門の口角は上がりっぱなしである。校門で出門表にふたりともサインをしてから、ふたりは手を繋いで南蛮菓子の屋台が出る町へと歩き出した。
でね!しんベヱったら南蛮菓子の話をしたらずっと涎を垂らしてたんです!」
「あはは、想像できるなあ、それ。」
 南蛮菓子の屋台が出る町までは四半刻歩いたら行ける距離なので、それまではふたりでひたすら他愛のない話をばかりしていた。
 毎回こうして話をする時は乱太郎が喋る側で、勘右衛門が聞く側だ。乱太郎は良くも悪くもトラブルメーカーであるから、面白い話や笑ってしまう話をたくさんしてくれるし、乱太郎の表情がコロコロと話をする度に変わっていくのがかわいいので、話を聞くのも勘右衛門の密かな楽しみになっている。
 色んな話をして歩いていると、段々町が近づいてきて、密かに甘い香りが辺りに漂った。
あ、この匂いはカステラですか!」
 目を輝かせながら答える乱太郎にせいかーい!と言って頭をくしゃくしゃと撫でてやるとキャーッ!という可愛い声が聞こえる。そう。今回の目的はこのカステラを食べることである。
「わあ、やっぱり人が多いですねぇ。」
「そうだなぁ。あそこのは美味しいからなあ。乱太郎はぐれないようにしっかり俺の手握っててくれるか?」
「はーいっ!」
 南蛮菓子の屋台が出る町に着くと、勘右衛門は乱太郎とより一層強く手を繋いで人の波に流されないようにしながら目的の店まで歩いていく。カステラを焼く匂いはどんどん強くなっていて、その香りに釣られてか人も増えていた。
 やっと着いた!という乱太郎の声に前を見るとそこにはたくさんの人が並んでおり、最後尾らしきところにふたりで並んだ。
いい匂いですねえ……。」
「早く食べたいよなあ。」
 並んでいる間にもカステラのいい香りがして、乱太郎はもう我慢ならないと言った様子でそわそわしている。そんな乱太郎が可愛くて、勘右衛門は思わず笑ってしまった。
「も〜、笑わないでくださいよ!」
「あはは、ごめん。乱太郎が可愛くてつい。」
 カステラ買ってあげるから許してくれる?と自分の顔を乱太郎の顔に近づけると、乱太郎は顔を真っ赤にさせながら食べ物で釣れるのはしんベヱか勘右衛門さんぐらいですよ!と言われてしまった。
 でもそんな怒っている姿も可愛いと思うのだからもうどうしょうもない。ふたりで列に並んでいると意外とスムーズに列が進み、勘右衛門達の番になった。焼きたてのカステラが並んでいるのを見て、乱太郎は目をキラキラさせている。
 そんな乱太郎の姿を見てまた可愛いなあ。と思いつつ、カステラをください。と店主に言い、お金を渡す。はいどうぞ。落とさないように気をつけてね。とカステラの入った紙袋を受け取り、こうしてふたりは無事にお目当てのカステラを買うことができたのだった。