匣舟
2025-05-27 22:04:48
10661文字
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いっぱい食べるあなたがすき!

食べる時に幸せそうにする勘をみるのが好きな乱の話 友情出演:庄左ヱ門

いっぱい食べるあなたがすき!①

 先々週は街で有名になっていたうどん屋さんを食べに行って、先週はおまんじゅう屋さん、そして昨日は団子屋さん。来週は確か、南蛮菓子を売る屋台が出るから一緒に行こうと誘われたんだっけな。楽しみだなあ。と微笑みながら教室を掃除をしていると、乱太郎。と自分の名前を呼ばれた。
ん?なあに、庄ちゃん。」
 乱太郎の名前を呼んだのは乱太郎と同じく一年は組に在籍し、学級委員長としては組のみんなを牽引している黒木庄左ヱ門だった。
いや、ごめん、話しかけるつもりはなかったんだけど。」
 乱太郎がずっとひとりでにこにこしてるものだから気になっちゃって。と頬を搔いている庄左ヱ門に乱太郎はえ?私、にこにこしてた?と頬をぺたぺたと触る。
「うん、してたよ。何かいいことでもあったの?」
 庄左ヱ門が乱太郎に尋ねると、乱太郎はえへへ、実はね。と頬を赤らめて笑った。
来週にね、尾浜先輩と南蛮菓子の屋台が出るからそこに行くんだぁ。」
 それが楽しみで顔に出ちゃってたみたい。ごめんね、一人で笑ってて気持ち悪かったでしょ?と謝る乱太郎に気持ち悪くなんかないよ!ただ僕が気になっただけだからそんなこと思わないで。と庄左ヱ門が返した。
 乱太郎と会話に出てきた五年い組の尾浜勘右衛門は恋仲であることは、忍術学園において周知の事実だった。素直で明るくてお人好しの乱太郎は忍術学園内でも、忍術学園外においても乱太郎に対して好意を寄せる者は多かった。
 そんな乱太郎を射止めたのは、庄左ヱ門と同じ学級委員長委員会の尾浜勘右衛門だった。乱太郎と尾浜が恋仲になった直後の委員会活動は、尾浜がずっと上機嫌で逆に同じ五年の鉢屋は荒れに荒れ果てていた(鉢屋も乱太郎のことを狙っていた)ので、庄左ヱ門の記憶に残っている。
「南蛮菓子の屋台ってなんだろうね?」
「私もそこは詳しく聞いてないから分からないけど、尾浜先輩が美味しいって言ってたよ。」
「へえ、そうなんだ。」
 ごめんね、掃除中断させちゃって。早いところやって委員会に行こっか!と掃除を再開させる乱太郎に、庄左ヱ門はねえ。と問いかける。
「ん?どうしたの?」
この前も尾浜先輩と出かけた時に何か食べに行ってなかったっけ?」
 考え込む庄左ヱ門に乱太郎はあっけらかんとそうだよ。庄ちゃんよく覚えてるね!と微笑んだ。
「この前はね、お団子屋さんに行ってきたんだぁ。」
 尾浜先輩、お団子が大好きなんだって。と乱太郎が笑っている隣で庄左ヱ門は考え込みながらそうなんだ。と答えた。
 休みの日に尾浜と乱太郎が出かけているのは乱太郎と同室であるきり丸としんベヱがよく話しているし、庄左ヱ門自身学級委員長委員会で尾浜と一緒なので、鉢屋と尾浜の会話でよく耳にするのだ。
 昨日はうどん屋に行ったとか、あれを食べてきただとか。それから続く永遠の乱太郎がかわいいという惚気に毎回鉢屋が段々とやさぐれていくのもお決まりみたいなものだ。
 尾浜と乱太郎両者の話を聞いている限り、庄左ヱ門はこう思ったのである。毎回二人で出かけているのにも関わらず、乱太郎は尾浜先輩の好きなことだけに付き合って時間を使っているということを。
「乱太郎は、尾浜先輩と出かけるの楽しい?」
 庄左ヱ門の唐突な質問に乱太郎は少しだけ驚いたが、色んなところに連れていってくれるからきり丸やしんベヱ達と出掛ける時に食べ物に困らないから良いんだ。と微笑んだ。
 そうか、乱太郎ならそう考えるんだなあ。と少し苦笑いをしながら、庄左ヱ門は質問の核心を突く。でも、それって尾浜先輩の行きたいところばかりじゃない?と。
 乱太郎が食べることが好きならばそれはそれでいいが、食べることが好きなのは乱太郎がいつも一緒にいるしんベヱだし、乱太郎は食べることより走ることだったり、絵を描くことの方が好きだと思うのだ。
 現に絵を描くことが好きな乱太郎はたまにきり丸や、きり丸がアルバイトで居なかったらは組の誰かを連れて絵を描く時に必要な筆を買いに行ったりしてるし。実際に庄左ヱ門も何度か一緒に行ったことがある。
 乱太郎は自分が下級生だから、上級生に対してわがまま的なことを言うのは烏滸がましいと思っているから、こうして尾浜の好きなことに毎回付き合っているのではないかと庄左ヱ門は思った。
 恋仲ならばそんなこと関係ないのに。と庄左ヱ門は思っているが、乱太郎は人を気遣うのが得意だから踏み出せないんだろうとも考えた。
「でもさあ、尾浜先輩の行きたいところばかりじゃない?乱太郎の行きたいところとかに行かないの?」
「尾浜先輩の行きたいところが私の行きたいところだからいいんだよ。」
先輩に我慢してるとかじゃなくて?」
 乱太郎が我慢してるのなら同じ委員会のよしみとして言ってあげるよ?とにこにこと圧をかける庄左ヱ門に、乱太郎は我慢なんかしてないよ!と答えた。
「絵を描くときの筆を買いに行くとか先輩としなくていいの?」
「うーん、私の用事に付き合ってもらうのはちょっと忍びないから。」
 申し訳なさそうにする乱太郎に、それが我慢してるんじゃないかなあ。と言うと、でもね、本当に我慢なんかしてないの!と乱太郎が強く言ってから、あのね、庄ちゃん。と弱々しく名前を呼んだ。
どうしたの?」
「あのね、呆れないで聞いてくれる?」
「呆れるわけないじゃないか。ほら、話してごらん?」
 庄左ヱ門が乱太郎の目線に合わせて話しやすい体勢をとってくれたことに安心した乱太郎はあのね。とまた口を開いた。
「あのね、私ね、尾浜先輩が食べ物を食べて幸せそうに笑ってる瞬間を見るのが一番好きなんだあ。」
 尾浜先輩ね、口を大きく開けて一口で大抵のものは食べちゃうんだけど、その口に含んだ瞬間に分かりやすく笑顔になる尾浜先輩を見るのが好きでついついいつも先輩の好きなところに着いてっちゃうの。と乱太郎は頬を赤らめて笑った。
 庄左ヱ門はそんな乱太郎の話を聞いて、なんだ。我慢してるわけじゃないんだな。と思ったし、改めて乱太郎は尾浜先輩のことが本当に好きなんだなあ。と思った。
「あ、もうこんな時間!庄ちゃん!ごめんね!私の話聞いてもらって!」
 早く片付けて委員会行かないとね!と箒を持って掃除を再開する乱太郎にそうだね。こっちこそ手止めちゃってごめんね。と庄左ヱ門は返した。
 乱太郎とじゃあねー!と手を振って別れた庄左ヱ門は学級委員長委員会が開かれる部屋の襖を開けて、尾浜がいることを確認した途端、尾浜に対してこう言い放った。
「尾浜先輩、乱太郎の事ちゃんと大切にしてあげてくださいね。」
 何かあったら、僕タダじゃおきませんから。場合によっては一年は組も敵に回すことをお忘れなく。とにこっと笑った庄左ヱ門に、え!?俺なにかした!?と慌てる尾浜に、鉢屋は何かやったんじゃないのか?庄ちゃんキレてんじゃん。と返す始末。
 初っ端から後輩に圧をかけられてオロオロと慌て出す尾浜に、庄左ヱ門はちょっと耳を貸してもらっても?と先程の乱太郎とのやり取りを告げ口した。
 乱太郎には誰にも言っちゃダメだよ!内緒だからね!と念押しされていた庄左ヱ門だったが、これは言ってあげた方が尾浜先輩のためになるな。という庄左ヱ門の考えにより、約束は破られてしまった。そんなことを知らない乱太郎は、現在医務室で本日の当番である三年は組の三反田数馬と一緒に包帯を巻いている最中である。
 こそこそ、こそこそ。と目の前で繰り広げられるやりとりに俺には聞かせてくれないんだ。としょげていた鉢屋の隣で、庄左ヱ門とのこそこそ話が終わった尾浜は手で顔を覆いながら、うわあ、うわぁ……。としか発していなかった。
庄ちゃん、勘右衛門に何言ったの?」
 鉢屋がソワソワしながらこちらに視線を寄越してきたが、庄左ヱ門は言うつもりなどなかった。ここで言ったら目の前の彼が暴走するかもしれないからだ。というか乱太郎との約束を破ったのは尾浜だけに言うためだけであって、他の人に言うつもりはないのだ。
「鉢屋先輩には話せませんね〜。」
 ごめんなさい。とにこやかに圧をかけた庄左ヱ門に、鉢屋はでしょうね。という顔をしてこう言った。
「庄ちゃんったら、辛辣ね。」
 そんなふたりの会話が繰り広げられる中、鉢屋の隣で尾浜は乱太郎が可愛すぎる……どうしよう。と惚気けまくっていたのだった。