ねぶくろ
2025-05-25 17:48:10
3481文字
Public 一次創作
 

ジャンクフード/ノンホール・ピアス

『ジャンクフード』
10月29日にTwitter(現X)に投稿したSSです。

『ノンホール・ピアス』
12月23日にTwitter(現X)に投稿したSSです。

ジャンクフード


 まぁ別にいいのだけれど、連絡を放置されている。

 ファストフード店のひとり掛け用カウンター席でスマートフォンを眺めながら、コーラのストローを噛んだ。紙製に切り替わってから噛み心地が悪化したそれをへこませつつ、もう五日間も返信のないメッセージを眺める。
『いつにする?』と、画面上に踊る文字を見つめても、そこに返答が生えてくるわけではない。既読がつかないアプリを使っているせいで、相手がメッセージを開いたかさえも把握できないでいた。ガジガジとストローを噛んで、思い出したように甘みのふやけたコーラを吸い上げる。
 検索バーに『友達 返信 いつまで待つ』と、文字を打ち込めば、結果には三日だの一週間だのと好き勝手な言葉が並んだ。明確な回答が見つからず、目を瞬いてポテトを摘まむ。しなしなに萎れたそれを噛んで、指先についた塩分を舐めとってから、中指で画面をスクロールする。画面下までたどり着けば、関連項目のサジェスチョンには『返信が遅い うざい』、『返信がない友達 切る』などとネガティブな言葉が並んでいた。目を瞬いて、ポテトを口に放り込む。
 温度をなくしつつあるそれを噛み砕いて、嚥下して、「まぁ別にいいのだけれど、」と内心で独り言ちた。
 たかが友達ひとり、いなくなったって支障はないし。
 ポテトを食べきり、ストローをくわえた。すっかり味の輪郭がぼやけた炭酸を飲み干して、席を立つ。スマートフォンの画面を消してポケットに仕舞いこむと、トレーを持った。ごみを分別してから店を出る。
 その日も結局、彼女からの返信は来なかった。

     *     *     *

 どうして言ってくれなかったの、と彼女は目の前で怒ってみせた。
 今日は二人掛けの席で、テーブルをはさんで座っている。期間限定のシェークだけを購入した私とは対照的に、彼女のトレーの上には限定発売のパイやらハンバーガーやらが賑やかに並んでいる。
 まだ温もりを保っているであろうそれを食べ始めるでもなく、彼女は私を見つめた。怒りというべきか、悲しみというべきか、下がった眉は不満を表明しており、その表情を見つめながら私は内心で首を傾げる。
 彼女はテーブルの上に身を乗り出して、芝居がかっていると表現するのが適切だと思えるような、どこか白々しい声音で私を責めた。
「言ってくれたらすぐに返信したのに!」
「そう。でも、別に催促するほどのことじゃないかなと思って。忙しかったんでしょ?」
 適当に理由を見繕えば、彼女は唇の先を尖らせた。「言ってくれたらすぐに返したよ」と、あくまで私の落ち度を糾弾する彼女の言葉に、かすかに頷いてみせた。
 まぁ別にいいのだけれど、彼女は時折とても煩わしいことを言う。
 彼女に労力を払うのは馬鹿馬鹿しい、とシェークにストローを刺して中身を吸い上げた。冷たい感覚に目を眇める。炭酸とは違い、弾ける刺激がないのが物足りない。期間限定の味だからと買ってみたが、次からはコーラにしよう。
 そんなことを考えている間にも、彼女は「ねぇ、聞いてるの?」と声をあげて、話を続けていた。彼女がいかに悲しんでいるか、私の至らなさがどれだけ重大な過ちであるかを雄弁に語る彼女をぼんやりと眺めて、ストローを噛む。
「あのさ」
 彼女の言葉に重ねて口を開いた。私は、シェークの入ったカップを片手に席を立つ。
「ハンバーガー、冷めちゃうよ」
 分別するゴミがないので、そのまま出口へ向かった。店を出て、ポケットの中のスマートフォンを取り出すと、いつものアプリを表示する。『いつにする?』と文字の並んだチャット画面を開いて、ユーザーをブロックした。
 その後、彼女が何かメッセージを送ったのかを、私は知らない。