nuka_boshi
2025-05-23 20:03:52
11188文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん Tips:箱選びゲーム【シリアス死ネタ】

何でも許せる人向けの猫箱。



Re:オムライス


「「オムライス?」」
 思わず問い返した私の声が、隣にいたしんべヱの声と重なってしまう。きり丸は大量の卵を大事に抱えながら、「そ、オムライス」とニカッと笑った。
「ふーん、それでそんなに卵集めてたんだ。ってことは、オムライスって、卵料理なの?」
「そーそー。なんでも利吉さんの話によると、ケチャップって名前の赤い調味料で絡めた焼き飯に卵を乗せて、そこにケチャップで絵を描くらしくってさ。てなわけで、しんべヱ。食い物の事なら一番詳しいだろ? その赤い調味料に関して、なんかそれっぽい食材知ってたら教えてくれよ!」
「えぇ〜? そんな事急に言われても思いつかないよぉ〜。それ、唐辛子とかじゃないの?」
「それがさ、全然辛くなくて、酸味があるって言うんだよ。けど、梅干しみたいにしょっぱいわけじゃないって。果物ほど甘くもないらしいけど」
「うーん、じゃあ山桃は? 熟れる前なら結構酸っぱいと思うけど」
 しんべヱの言葉にしかしきり丸は首を横に振る。
「それ、真っ先に試したんだけど全然違うんだってさ。なぁ、なんか他に思いつくの無いか?」
 きり丸の言葉に、私も一応う〜んと考えてみる。赤色というと、唐辛子以外だと思いつくのは人参かな? 確か皮ごと蒸して天日干しすれば赤くなるって善法寺伊作先輩に昔聞いた気がする。けれど、 神農本草経しんのうほんぞうけいにも載る、正倉院に納められるほどの貴重な生薬しょうやくをわざわざ料理に使うとは思えない。それにそもそも人参って酸味なんて無いらしいし。……だめだ、お手上げ。
……それ、例の夢に出てきた料理ってことなんだよね?  そもそも存在しない食べ物なんじゃないの?」
「そりゃまぁ……俺もそう思うけど……
 周囲に彼が居ないことを確認し、小声でそう確認すると、きり丸は苦笑する。――今ここにいる私たち三人は、かつて忍術学園にて山田先生から教えを受けた友達だ。そして、数ヶ月ほど前、――その山田先生の息子である利吉さんが見たという『奇妙な夢』の話を直に聞いた、数少ない面子メンツでもある。
 正直に言えば、私は『奇妙な夢』はあり得ないものだと思っている。長く目覚めない人が寝起きにおかしな事を口走る事があるというのは、忍術学園の保健委員会に所属していた頃に伊作先輩から教わった覚えがあるし、そもそもあの傍迷惑ハタメーワクな滝夜叉丸先輩が後輩を庇って死んでいたという時点で眉唾まゆつばだ。滝夜叉丸先輩は今も普通に生きているし、なんならこの件が変な伝わり方をしたのか、『滝夜叉丸は利吉さんの恨みを買ったのか、若くして非業の死を遂げてしまって……』などと同級生の綾部先輩達をはじめとする面子メンツに面白おかしくネタにされている状態だ。先日は遂に七松先輩に葬儀をあげられそうになったとか。どうしてこうなったと頭を抱えながらも『美しすぎてこのような噂が立つとは』とグダグダ自慢話をしている滝夜叉丸先輩は、どう見たって健康優良そのものだろう。
 というかそもそもこの話を真っ先に頓珍漢トンチンカンな夢だと笑って、一切信じる素振りを見せなかったのは目の前でオムライスとやらの具材を探そうとしているきり丸その人だ。そんな世界が本当だったら面白そうと笑っていたしんべヱと違って、現実的な視点で『あり得ない』と断じていた彼が何故その夢を信じる素振りをみせるのか。――と考えたところで私は気付いた。
「まさか……そのオムライスって料理を再現して、それで一儲ひともうけしようってこと?」
「あったりィ〜!」
 やっぱり、と私は肩を落とす。戦災孤児として幼少の頃からアルバイトに励んでいたきり丸の徹底したドケチ振りは、今更語るまでもない。よく考えれば、儲けになりそうな事をきり丸が逃す筈が無かった。在学中から、それで結局骨折り損して涙を流す事も少なくなかったし。
「さてはきり丸、利吉さんに無理言ってその料理の話、聞き出したんでしょ? ほどほどにしときなよ〜」
 呆れながらに私がため息を吐くと、きり丸はチッチッと指を横に振った。
「それが今回はちょおぉっと違うんだなぁこれが。実はこの話、利吉さんが持ってきたんだよ」
「え? ――そうなの?」
 これには割と本気で驚いた。私の知る山田利吉という人物は、しっかりと現実を見据えた大人という印象が強いからだ。勿論、先日の問題で、利吉さんも人並みに悩みがあって挫折したりするのだという事は理解してはいる。けれど、利吉さん本人は『みっともなく荒れて酷い事をした』などと言っているけれど、私からしたらとてもそういう風には見えなかった。というか、わざわざ過酷な任務ばかり引き受けて、そこで見つけた身寄りをなくした子を毎回助け出して土井先生に預けたり、私に子供達の怪我の手当てを頼みに来たり、どう考えても優しくて立派なプロ忍だったとしか思えなかった。……そりゃあ、怪我の後はちょっと目に見えて落ち込んだりみんなの事避けたりしてたけど、それだって気鬱きうつになってればあり得る内容だし、「私たちに心配かけたくないんだろうな」としか思わなかった。見切りをつけてもらうために醜態しゅうたいを晒してた、などと言われても「どこが??」としか言えないじゃないかと思う。一言ひとこと多いきり丸は「アレでみっともなく荒れてたっていうなら、土井先生の生活習慣の方がよっぽど荒れてる」なんて言って土井先生に叱られていたが、正直私はあの時内心きり丸に同意していたくらいだ。利吉さんの態度より、かつてのは組の長屋の方がよっぽど荒れ散らかしてたと思う。……荒れるの方向性はきっと全然違うと思うけど。
 そんな、辛い時でも真面目になりすぎるような人が、未だ夢の話を再現しようとしているというのは、ちょっと意外だ。……変に思い詰めていないといいけど、と思いかけて、私は思い直す。数ヶ月前、利吉さんは罪の告白(私から見たら的外れも良いところだけど)をして以降、少し変わった気がする。なんていうか――肩の荷を下ろしたというか、明るくなったというか。本人は息子を一時は捨てようとしたからと緊張していたものの、持ち前の人当たりの良さと優秀さを発揮した彼は、今やすっかり孤児院に馴染んで子供達の人気者だ。元々彼に救われた子が多い事もあって、女の子の中には彼に初恋を奪われていそうな子も何人か居るくらいだ。夢の中の出来事を彼がどう捉えているかはわからないけれど、多分それほど心を病むような内容じゃなくて、寧ろ勇気をもらえる大切なものとして受け止めているような気がした。……利吉さんはきっと大丈夫だ。だから、私にとって心配なのは寧ろ。
「本当はさ、実家で作るつもりだったらしいんだけど、山田先生の奥さんにバレそうになったんだとさ。んで、休日にバレないように料理する場所を貸して欲しいって頼まれちゃって。それでせっかくだから、お金もらって今俺の住んでる家の台所貸す代わりに、オムライスが上手く出来たら俺が販売できるように交渉したんだよ。上手く売り物になればもーけモンだし、ダメでも場所代取れるしどっちに転んでもお得ってワケ! 今のところ味噌で作った奴が一番美味かったかな〜」
 私は生唾を飲み込み、覚悟を決める。……多分、今から言う言葉は普通に考えたら大きな失言だ。彼は間違っても同情を求めるようなヤツじゃないし、そっとしておくのがどう考えても最良だとも思う。――けれど、数ヶ月前のあの日以降の彼を見ていると……やはり、放置しておくわけにはいかない気がするのだ。
――ねえきり丸。……なにか、無理してない?」
 きり丸の黒い瞳が僅かに揺れる。「ぇ、」と微かに声を洩らしたきり丸に、私は真剣な目で向き合った。
……利吉さんの夢の話を聞いてから、なんかちょっとだけ無理してる気がしてさ。言いにくい事とかもあると思うし、言いたくないなら言わなくても良いけど……。でも、相談したい事があるなら聞いて『あげる』けど、……どうする?」
 ドケチの彼は、あげるという言葉にめっぽう弱い。だから敢えてここは切り札を切った。
 常の彼であれば、意気揚々と「聞いて『もらう』〜!」と大喜びするであろうその言葉に、きり丸の視線が僅かに揺らぐ。それだけで、私は悟った。――私はきっと今、きり丸の心の一番柔らかい部分に踏み込んでいるのだと。
「あー……。いや、なんて言ったら良いのかな……
「大丈夫だよ、言いたくないなら聞かないで『あげる』から」
 私が穏やかにその言葉を続けると、きり丸はうーんと悩んだあと、「いや、やっぱり聞いてもらう!」と顔をあげた。
「ただ、その……つまらない話だぜ?」
「そんなの気にしなくていいよ、きり丸が話して楽になるなら。ねっ、乱太郎?」
「もちろん。だって私たち、ずっと三人揃って一人前って言われてきたじゃない。今はもう別々の人生を歩んでるけど……たまには三人揃って一人前の未熟な忍たまに戻るのも、悪くないでしょ?」
 私の言葉にきり丸は唇をキュッと引き締め、そしておずおずと頷いた。
……本当言うとさ、そんな大したことじゃないんだよ。心配かけたくないとかそう言うのじゃなくて、本当にくだらない話っていうか……。ただ、利吉さんの口からあの子の話聞いてから、ちょっとだけその…………どうしても心の整理がつかない事があってさ」
 あの子、という言葉に私は目を見開く。名前を言われずとも分かった。きっと、利吉さんの息子のことだ。幼い子達の心を守る為、彼らの親子関係は皆に伏せるよう言われている。だから、もし誰かに聞かれた時に特定されないように、具体的な名前を言わないようにしているのだろう。
――それって、やっぱりきり丸、平気なフリしてただけで本当は傷付いてたってこと?」
 私は声を抑えてそう尋ねる。考えてみれば当たり前だ。いくさで村を焼かれたきり丸にとって、いくら事情があったとはいえ親が子を捨てるなんて、地雷も良い所だ。体面だとか大人の事情だとかを汲んで何でもないフリをしていたとしても、本当は傷付いてたなんて、充分にありえるじゃないか。
 しかし私の問いに、きり丸は『違う違う』と苦笑する。
「あの時言ったことに嘘はねぇよ。別に、利吉さんに事情あったのは分かってるし、あの子の幸せを考えたからこその行動だってのも分かった。だからその辺りは当事者の問題で、俺がどうこう言う話じゃないし、興味ない。――ただ、俺……誰にも言えてなかったことがあってさ」
 きり丸の強がりではないかと思ったが、どうやら嘘はないようだった。だから私は余計に混乱する。――じゃあ、きり丸を悩ませていることは何なんだろう。
 私としんべヱの視線を受けて、きり丸は言いにくそうに口を開く。
……俺さ、本当言うと――――利吉さんの話聞いた時、あの子の事で利吉さんが本気で悩んでたって知った時、……おかしな話なんだけど、安心したんだ」
「「安心??」」
「そ、安心」
 私たちの困惑の視線に、きり丸は苦笑する。……意味がわからない。傷付くならともかく、利吉さんの話に安心する要素があっただろうか。
……ほら、土井先生が孤児院開くつもりだって決めた時、先生ったら俺たちに何にも言わないでいつの間にか決めててさ。俺、あの時本当はめちゃくちゃ焦ったんだよ。――卒業して、忍者になって、そしたら先生にちょっとずつこれまでの恩を返そうって、その為には忍術学園のための仕事をなるべく受けようって思ってたのにさ。先生、ずっと先を見てたから。そりゃ俺だって、いつまでも先生が変わらないで側にいるとは思ってなかったし、先生にだって自分の人生あるのは分かってたけどさ。じゃあ俺、これからどうやって恩返ししたら良いんだよってちょっと途方に暮れてさ。お前らに相談しようか、でもこんな事で相談するのもなーって悩み始めてた時だったんだよ。――利吉さんが、土井先生の事必要としてそうな子を保護して連れてきたの」
 私はきり丸の話に注意深く耳を傾ける。……今の彼の声は、私たちが一年生の頃、土井先生が天鬼となり二度と逢えないと思われていた頃のような寂しさをまとっていた。
……その手があったかー!って思ってさ。俺、利吉さんが居たからこそ、フリーのプロ忍としてどうやって先生に恩返ししたらいいか分かった所があるんだ。だから、利吉さんには凄く感謝しててさ。利吉さんのおかげで、俺に出来る事を見つけれたとこがあるんだよ。……けど、ずっと心のどこかで、焦りとかに近い感情が引っ掛かってたんだと思う」
 そこまで言い切ってから、きり丸は一呼吸だけ息を飲み込んだ。まるで、注意深く言葉を探すかのように。
……だって利吉さん、何でも持ってるじゃんか。家族にも恵まれてて、仕事もこなせて、何でも出来て。なのに、俺が必死で考えなきゃ思い付けなかった事を、当たり前の顔して当たり前にやれちゃうんだぜ? 俺、よっぽど頑張らないと土井先生に恩返し出来ないんじゃないかって思ってさ」
「きり丸、それは……
「あー、分かってる分かってる。利吉さんと俺とは別人、全然違う人生歩んでるんだから比べる必要なんかない。そもそも性格も全然違うわけだし、同じになんかなれっこない。そもそも利吉さんになりたいわけでもねえし。だから俺は気にしてないつもりだったし、割り切れてると思ってたんだ。でも俺、多分心のどこかでずっと焦ってた。なんとかして少しでも追いつかなきゃ、俺、土井先生に何にもできないんじゃないかって。だから、利吉さんがあの夢の話をした時、俺……安心したんだ。あー、焦ってたのは別に俺だけじゃなかったんだーって」
 きり丸は、自分を嫌悪するかのような悲しい笑みを浮かべながらそう言った。
「酷いだろ? 利吉さんに本気で感謝してるって思ってたくせにさ、利吉さんがあんだけ苦しんでたの知って、あの子の事情知って、よかった〜、焦ってたの俺だけじゃ無かったんだーって安心するなんて。自分は同情とか見下されたりとかすんのゴメンだと思ってるクセに、他人に対しては勝手に分かった気になって傷の舐め合いみたいな感情抱いてやがんの。俺、何様のつもりだっつーの!」
 きり丸は強がるようにして笑って見せたが、私は笑えなかった。多分それは、別に何もやましいことじゃないと思う。自分が宿題を忘れてて、他の友達も忘れてたと聞いて安心するようなもの。問題は解決してないけどなんとなく安堵するなんて、些細な出来事でなら、誰だって感じる経験はあると思う。……けれど、強くたくましく生きてきたきり丸にとって、土井先生への恩を少しでも返したいと純粋に願っていた彼にとって、それはどうしたって引っ掛かりを覚える感情だったのだろう。だってそうだろう? 白い布に僅かな汚れがあれば目立って見えるのと同じで、願いが純粋であればあるほどそれを裏切る感情は醜く際立って見える。きり丸の心に刺さった小さな棘は、きっと他の場所だったら気にもしない些細なものだった。ただ、あの子の事情と土井先生という、心の一番柔らかい所に刺さった棘だったからこそ、きり丸は引っかかっている。利吉さんは土井先生にとって大切な人の一人だから、尚更だ。
……な? しょーもないだろ? 悩むって程のことじゃないし、理屈じゃこんなん気にする必要ないって分かってるんだ。ただ、何でか知らないけど、もうちょっと気持ちの整理に時間かかるかもなーって感じでさ」
「きり丸……
 カラッと笑ってみせるきり丸は、いつも通りの明るいお調子者の笑みを浮かべている。けれども私にはそれが痛々しく見えて。
 ……どう伝えるべきなのだろう。気にしなくていい、誰にだってある感情だ。そんなありきたりな言葉はきっと、今のきり丸だって考えているし、分かっている筈だ。だからそうじゃなくて、もっときり丸にちゃんと届く言葉は――
「それってさぁ、大人になったからってことにしちゃダメなの?」
 必死で考えを巡らせていた私を遮って、しんべヱが突然そう言った。「大…………?」ときり丸が困惑した声で問い返す。
「そ、大人。成長って言ったらいいのかなぁ? だってボクも似たようなことあったもん」
「どういうこと? しんべヱ」
 私の言葉にしんべヱは満面の笑みで答える。
「ほら、ボク、一年生の頃、立花先輩や食満先輩にたくさんお世話になったでしょ? だから、先輩たちって凄いなー、優しいなーってずっと思ってたし、六年生になった時にあんな風に立派になれるかちょっと不安だったんだ。で、いざ六年生になった時、先輩達と同じような立場になった時、色々うまくいかない事もあったりして、昔の先輩たちを思い出してみたの。そしたら、先輩も案外ボクと変わらないなぁって思うこと結構あってさ。面倒見が良くてしっかりしてるように見えた食満先輩だって今考えると意外とトラブル起こしてたし、逆に意外とおっちょこちょいでドジなとこがあると思ってた立花先輩は、ボクが昔思ってたよりずっと優秀だったのに気付いてさ。何で昔は気付かなかったのかなーって思って喜三太と話してたことあって。で、結局色々あって、『ボクたちが大人になったから』って事で落ち着いたんだ」
 しんべヱはにこりと笑みを浮かべ、胸を張る。
「色んなものをみて、大人になって、昔の先輩たちと同じ目線でものを見れるようになったから、それで先輩たちの今まで気付けなかったいろんな事にも気付けるようになった! 要するに視野が広がったってこと! ……今のきり丸も、きっと同じじゃないかな?」
 ぽかんと口を開けるきり丸に、しんべヱは満足そうな笑みを浮かべた。
「きっときり丸、利吉さんがすっごい人だから遠くに感じてたけど、きり丸がずっと頑張ってきたから、その利吉さんにようやく追いついて、同じ目線でものを見れるようになったんだよ。それって、全然恥じることじゃないと思う。きり丸はもっと喜んで良いんだよ!」
 きり丸はしんべヱの言葉にほんの少しだけ目を潤ませた。
……良い、の……かな……?」
「私も賛成! 安心したこと、喜んで良いと思う!」
 搾り出すように呟いたきり丸に、私はすかさずそう答え、「なんなら」と付け加える。
「そうじゃなくても、そういうことにしちゃえば良いんだよ! 人の心なんて、どうせ誰にも分かんないんだもの。きり丸が決めて良いことなんだから、きり丸の気持ちが軽くなる決め方した方がお得じゃない?」
 私の言葉にきり丸は、感極まったように唇をキュッと引き締めると、いつもの調子で「お得〜!? アヒャヒャヒャヒャ」と笑って見せた。……うん、いつものきり丸だ。
 全く無理してないと断言出来るかはまだ怪しいかもしれない。けれど、きっと大丈夫だと思う。ここ数日のきり丸のような、無理している空気は殆ど消えたから。あとは、時間をかけてゆっくりと折り合いをつけていけるはずだ。時間に癒せないものは無いし、きり丸は己の心に折り合いをつけるだけのたくましさを持っていると知っているから。
「また困ったら、いつでも話を聞いて『あげる』ね」
「うん、聞いて『もらう』〜! ……ありがとな、二人とも」
 私たちは『気にしないで』と笑って答える。
「それより、ボクはオムライスって料理のことが気になるな〜。ねぇ、結局どうなの? 作れそう?」
 じゅるりとよだれを垂らすしんべヱに、私はずっこける。しんべヱったら、せっかくいい事言ったと思ったのに!
「いや、まだ難航中かな。俺はまあまあイケると思ったやつがいくつかあったんだけど、利吉さんからするとなんか違うらしくってさ。難しいのかもなーって話してたんだ。……けど、俺はちょっと完成期待してる」
「お金になるから?」
「いいや、金にならなくても」
 きり丸の意外な言葉に、私は目を瞬かせる。きり丸は「俺だってガラじゃねーとは思うけど」と小さく付け加えた。
……利吉さんの話だとさ、そのオムライスって料理、卵に赤い調味料で相手の好きな物を描く料理らしいんだ」
「好きなもの?」
「そ。……相手のことを知って、相手への想いを描く、そういう料理。そういうのって、……ゼニにはならないかもしれないけど、なんか良いなって思ってさ」
 へぇ、と私は感嘆の声をあげる。それは何となく、素敵だなと思う。父ちゃんや母ちゃんに、似顔絵を描いたオムライスを渡したら、きっと感激するだろうなぁ。私の視線をどう受け取ったのか、きり丸は照れを隠すように「だからもし完成したら、乱太郎にも販売手伝ってもらうからな! なんたって乱太郎は絵がめちゃくちゃ上手いし!」と誤魔化すように早口で告げる。
……ねぇ、きり丸。私だけじゃなくて、三人で描こうよ。それで、土井先生に食べてもらわない?」
 きり丸が「ウッ、でもドケチとしてそれは……」とゴニョゴニョ言い訳を口にするが、きり丸の心が何処にあるかは火を見るより明らかだ。きっと彼は、土井先生にそのオムライスを食べて欲しいのだ。
「私としんべヱが手伝って『あげる』から、土井先生に試食として食べて『もらおう』よ! ねっ!」
「さんせ〜い! そうと決まれば何描く?」
「ったくお前なぁ、人の意見無視しやがって〜! 仕方ねえなぁ」
 苦笑するきり丸に、私はにこりと微笑んだ。
「で、どうする? 描くならやっぱり、土井先生の好きな物?」
「いや、折角だしここは俺たちを示す物の方が土井先生喜ぶと思うんだよな〜」
「ボクたちを示す物って言ったら……うーん、食べ物と小銭と包帯とか?」
苦無クナイとにんたまの友なんてどうかな? いかにも忍術学園卒業生〜っ!って感じするじゃない?」
 パッと浮かんだ案を挙げるしんべヱと私に、きり丸は「それも良いけど」とニヤリと笑った。どうやら、最初から描きたいものが決まっていたらしい。
「大きな卵一つと、三つの手裏剣にしないか?」
「手裏剣? ――いいけど、何で? 忍具にんぐなら他にも色々あると思うけど」
 私の問いに、きり丸は悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「だってほら、昔の俺たちのこと思い出してみろよ。手裏剣、全然当たらないどころか味方に当たるのがお約束だったろ? それが今じゃ、立派な忍者になって、ちゃんと狙った所に当たるようになった。土井先生からしたら、これ以上ないくらい思い入れのある成長の証だと思うぜ」
「「なるほど〜!」」
 私としんべヱの言葉にきり丸は得意そうに胸を張る。
――あれ? じゃあ大きな卵っていうのは? 忍たまのこと指すなら、三つじゃなくて良いの?」
 ふと声をあげたしんべヱに、私は苦笑する。私は既に、きり丸の言わんとしている事が分かったからだ。
「一つだけってことに意味があるんだよ。ねっ、きりちゃん?」
「そーそー。――だって俺たち乱きりしんは、三人揃って一人前の忍たまだろ?」
 きり丸の得意げな声と私たちの笑い声の向こうで、残暑を見守る蝉の鳴き声が僅かに聞こえていた。
 ――きっと、私たちはどこまでも駆けていく。蝉たちの声の届かない先の未来まで、振り向かずに、ずっと。
 その中で拾い集めた想いの数々を、明るい想いも辛い想いも全部、忘れずに輝かせながら。