僕らは決して友にはなれない

賽殺し伝子さんパロの猫箱。伝子さん死亡ルート。
CPと呼べるほどの恋愛要素はないがある意味で綾滝。
綾部のバックグラウンドは本編でも他の猫箱でも共通です。

無関係な三木ヱ門が相変わらず貰い事故で可哀想な事になってる。
時代考証はぶん投げた。うろ覚えで書いたとこ多いので史実とズレたり誤認したりがあるかも。なんちゃって史実ネタが入ってるとこは参考文献無しなので気になる人は自分で調べてね。



 母校の小学校で教師をしていた山田伝子という女性とその息子が死んだと聞いたのは、週が明けた日の朝の事だった。
 亡くなった息子の名前が利吉だと聞いて、僕は嗚呼、あの青年の事かと合点がいった。
 一体何があったのかは知らない。
 知るつもりもない。
 ただ、あの時の今にも擦り切れそうな表情を思い出せば、彼ら親子の間で起きた『何か』に、滝夜叉丸が少なからず関わっている事は見て取れた。
 山田親子の訃報ふほうを聞き、困惑するクラスメイトたちの中で、滝夜叉丸はただひとりうつむき、グッと何かに耐えていた。
「なあ、滝夜叉丸。お前、こないだからちょくちょく、よくわかんないヤツに声かけられてなかったか? 確かソイツのこと、山田先生がどうとかって……。大丈夫か? もしかしてお前……
 心配と焦燥をにじませ声をかけた三木ヱ門に、滝夜叉丸はこぶしを握りしめる。固く握ったこぶしが僅かに震えているのに気付き、僕は思わず声を上げる。
「おやまあ」
 ――――情けない。
 何があったか知らないが、そんなことで挫けるのか。
 室町の世の記憶があるなんて、前世のことを覚えているなんて、奇異の目で見られることは間違いない。
 それでもお前は前世を持つ『滝夜叉丸』である事を貫く為に、今まで振る舞っていたのではないのか。
 お前の覚悟はそんなものか。
 その程度の覚悟で、この異質な記憶を抱えて令和の世を生きるつもりか。
 そうでないならさっさと立て!
 僕の棒読みの『おやまあ』に込められた怒りを読み取った滝夜叉丸は、目を見開いてこちらを見ている。
 それは当然だ。
 僕は前世のことなど何も知らない、天才トラパーの異名とは無縁のごく普通の同級生として振る舞ってきた。
 だから、何故僕が怒っているのか滝夜叉丸には知る由もない。
――滝夜叉丸の知り合いは、たしか田中という名前じゃなかったっけ?」
……えっ、はっ? そ、そんな事なかったはずじゃ……
 困惑する三木ヱ門に僕は「間違いないよ、確かそうだったはず」と大嘘をいてみせる。
「それに、もし仮にその知り合いの名前が山田だったとして、山田って苗字の人が何人いると思ってるの。別人でしょ」
「ウッ……それは……
 そうかも、いやしかしと困惑する三木ヱ門の後ろで、滝夜叉丸の瞳がきらりと輝く。
 強い闘志と、そして何かを成しげようと言う覚悟の光だ。
「なんだ、三木ヱ門? もしやこのあまりに美しすぎる私のことが気になってきたのか? では仕方ない、私の過去についてもっと聞かせてやろうではないか!」
「あーもうっ! 聞くんじゃなかった鬱陶しい!!」
 ベラベラと喋り出した滝夜叉丸を見て、三木ヱ門はゲンナリとした様子で頭を抱えて距離を取る。
 周りからドン引きされている中、何も知らないフリをして見栄を張る滝夜叉丸を、僕はジッと見つめていた。
 ――きっと僕らは、一生何も知らないままでいい。
 知らないフリで、やると決めた事を成しげようと、誰がなんと言おうと自分の想いを貫き通す。
 ただそれだけでいいのだ。
 馴れ合うなんてゴメンだ、前世の昔話で盛り上がるなんて絶対出来ないししなくていい。
 忘れた記憶は忘れたままでも構わない。
 僕は室町ではなく令和の人間として、滝夜叉丸とは違う道を行く。
 君は過去を、僕は現代いまを。
 その目に映すものは違っても、目指す道は違っても、『誰に何を言われようとも一度決めた事は譲らずやり遂げる』というただその一点だけは、絶対に同じだと信じて。
 だから、互いの道は決して交わらないし、何も知らないままでいい。
 例え背中合わせでも、違う道を選んでも、こころざしは同じだと信じて共に生きていけるから。

 だから僕は、滝夜叉丸と決して友達にはならない。
 友達でも知り合いでもない、この奇妙な関係のまま、何も知らないフリをして、為すと決めた事をやりげるのだ。
 そうして本懐をげた先にあるのは、きっと僕が覚えている何よりも美しい、かけがえのない光景だから。
 諦めずやりたい事を成し遂げた時の喜びを。その尊さを。誰が何と言おうと、君だけは必ず分かってくれるから。例え命と引き換えになったって、それがどれだけ幸せなのか、――例え世界中全ての人が否定したって、僕には必ず分かるから。
 そう思うと、口元がほころぶのを抑えられなかった。
 今までずっと受け入れられなかった室町の『綾部喜八郎』の気持ちが、ようやっとわかった気がした。
 きっと、かつての僕は君の幸せを本気で嬉しく思っていたんだ。だからこそ、あの光景を大切に思い返してきた。――たまたまそれが死に顔だったというだけで。
……おやまあ、案外死に顔というのも良いものなのかも」
 思わず漏れた独り言を聞きつけてしまったのか、三木ヱ門の顔がサッと青ざめた。
 何か酷い誤解を招いた気がするが、まあいいか。前方に延々自慢話をする滝夜叉丸、隣に僕に挟まれてまるで迷子のように涙目になる三木ヱ門を見て、僕はにっこりと満面の笑みを浮かべた。

 ――君を、見てる。
 ――――君が、見てる。
 だから、僕はこの時代を精一杯生きていく。
 退屈でくだらないこの世界を、何もないまっさらなこの世界を、僕の信じる色でいろどりながら。
 君に負けない輝きで、かつての自分とも君とも違う、僕だけの人生を、――懸命に。