kanaco
2025-05-17 00:04:05
15453文字
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信一と十二のチート”デート”デイ

注意!こちらは住処は九龍城砦及び架勢堂ですが、2人が出かけているお外は現代風のパラレルです。ストレス発散にオシャレしてチート”デート”デイをする仲良しな十二と信一と、時々一緒に行く愉快な仲間たち。また、こちらは洛信、四十二前提ですが、あくまで信一と十二のデートなので内容としてはひたすらに信一と十二少がイチャイチャしているだけのお話です。

P1【フルーツパフェ】十二と信一が仲良くフルーツパフェ食べて喋るだけ。
P2【生絞りの和栗モンブラン】十二と信一が生絞りの和栗モンブランが食べたいので待ち合わせ中。

①【フルーツパフェ】

13:00 九龍城砦の阿七冰室。

「うぉぉお終わったぁぁぁあああ!!!!」

突如、ホール隅っこのテーブルから上がった声にビックリして、遅めの昼飯を注文した四仔と、チャーシュー飯を彼の元へ給仕したバイトの洛軍が、仲良く同時にビクリと肩を跳ねさせた。声の主は計算が合わないと暴れながら丸3日間も領収書たちと格闘していた信一だ。店主である阿七の好意に甘えてテーブルに居座り、長きに渡る戦いにようやく終止符を打ったらしい。

さぞ疲れているだろうと洛軍と四仔が目を向けると、一周回ってハイになっているのか目をギラギラとさせた信一が勝利の咆哮を上げるように立ち上がっていた。(うわぁ)と若干引いた友人2人の耳に、今度はドドドドドドドドドッという音が廊下の方から聞こえてくる。その音の主は阿七冰室の入り口でキューーッとスニーカーのソールに悲鳴を上げさせて急停止し、信一と同じくらいの声量で叫んだ。

「こっちも終わったぁぁぁあああ!!!!」

こちらも目をギラギラとさせてハイになっている九龍城砦の半住人の十二が、全力疾走の代償から息を切らせて仁王立ちしていた。また(うわぁ)と若干引いた洛軍と四仔のすぐそばに立つ飲食店の店長が、彼らとは違い気にした風もなく信一たちに声をかける。

「信一、ホラ。終わったら渡してやってくれって龍兄貴から預かったお小遣い」
「阿七、アリガトウッ!」
「十二は?」
「虎兄貴からもらってきた!」
元気よく返事をした2人は信一のテーブルに散らかっている書類たちをかき集めるとバタバタとしながら、
「うぉりゃぁああ、デートだデートォ!いくぞ信一っ」
「おうよォオ!のぞむところだ、このヤロウぉお!」
と、騒ぐだけ騒いで食堂を飛び出していく。

「じゃぁな!洛軍、四仔」とだけ声をかけられた2人は唖然とした顔のまま、年下の友人たちを見送った。

「なんだ、アレは。嵐か何か?」
……ハァ、とうとう、頭がイカれたか……
「いや、それはさすがになぁ」
真顔で辛辣なことを言う友人を、困ったような笑みを浮かべて宥め、洛軍は首をかしげた。
「でぇと?」
何か知っているか?と阿七の方に顔を向ける。
「うーん。まぁ、心配すんな。デートっていうか、女子力高めのストレス発散チートディみたいなもんだ」
店主は肩を竦めて2人の若者の肩をポンポンと叩く。
「「?」」
洛軍と四仔が顔を見合わせて首を傾げた。


**★**★**★**


信一と共に阿七冰室を飛び出し、勢いのままに「じゃ、いつもの場所に1時間後!」と時間指定して一時解散した十二は、一目散に自分の住処に戻ると服をオシャレ着に替えて、わざわざ事務所の姿鏡で全身をチェックした。

少しダメージがあしらわれたジーンズにキレイにアイロンがかかった真っ白いTシャツを合わせ、だぼっとしたカーキのパーカーを羽織る。足元には厚めで存在感あるスニーカーを合わせて機動力を意識した。胸元にはピアスの色に合わせたゴールドのネックレスをキラリと輝かせアクセントを添える。いつも固めてキメる髪型はフワリと下に降ろし、全体的な可愛げを残してボーイッシュに。これなら黒社会にもチンピラにも見えないだろう。

ファッションよーし!
アクセサリーよーし!
髪型よーし!

「兄貴、どう!?」
いつもとは一風違う様に気合をいれたコーディネートを纏って、軽やかにクルリと1回転。軽い素材のパーカーと髪が、その動きに合わせてフンワリと揺れる。ラストチェックは当然の如く虎兄貴にしてもらうのが一番良い。
「ああ?いいんじゃないか?」
自分のデスクに座って新聞を広げていた兄貴は、顔を上げると十二の姿をおさめて目を細めると、渋くてカッコイイ声で律儀に返事してくれた。この世で最も信頼する人のお墨付きをもらい、十二は満足げにニコニコと笑い返す。
「じゃ、デートいってきまぁす」
「荷物持ちはいるか?」
「大丈夫っす。帰りは俺の車でアイツも送っていくし、こっちにも戻ってきます」
「夕飯頃には帰って来いよ」
「はぁい!」
後ろの方で「十二がデート!?」と素っ頓狂な声あげた組の先輩たちに「信一だ、信一」と虎兄貴が補足しているのを聞きながら、ウキウキと事務所の扉を飛び出す。

黒社会の仕事は何も暴力を伴うもののみではない。信一が九龍城砦にて経理関係の全てを引き受けて管理しているように、十二だって事務所の事務仕事を担っている。それぞれのボスの右腕及び若頭である信一と十二の仕事は多岐に渡り、事実上はどこまでが自分の領分、など決まっているわけではなく、突発的なトラブルの対処も含めて日々忙しい。1年のうちにはそれぞれの業務の繁忙が重なることもあり、若者たちに過剰なストレスを与えた。しかもその期間の仕上げが、溜まりに溜まった事務関連の仕事だった場合は特に。

不思議な事にこういうタイミングというのは架勢堂も九龍城砦も重なるもので、十二が頭を抱えながらもんどりを打っている時、信一も机に頭を打ちつけていることが多かった。だからこういう時、2人はその仕事がひと段落ついたら【デート】と表して、いつもと違うファッションスタイルになって身分を隠し、巷で人気のショッピングスポットに繰り出す。ストレス大発散をする、という【チートディ】を設けることが長年の恒例になっているのだ。しかもHAPPYなことに、頑張っている可愛い自分たちへパパたちからの褒美の軍資金付きである。


**★**★**★**


トレンドの発信地としても有名なファッションストリート。商業施設もありながら、その周辺には古着屋やセレクトショップもあり、最新の流行アイテムや個性的なアイテムが一同にGETできるスポット。そのうえ飲食も手頃な価格の店舗が多く、インパクトのあるスイーツが有名な話題性ある店も集まる。そんな多くの若者たちで賑わう場所だ。

通りの入り口。いつも待ち合わせ場所として指定している緑の時計台の下に、十二の幼馴染はすでに立っていた。

黒とダークグレーのアシンメトリーなレイヤードデザインのシャツを、持ち前のスタイルによってサラリと着こなして、黒の光沢あるセミワイドパンツがゆったりとしたフォルムを魅せている。足元をローファーでまとめた信一は、クセのある服装をしていても相変わらず絵になる色男だった。長めの髪を片耳だけかけているが、露わになったそちらの耳にはシルバーのカフスが主張している。胸元のシルバーのネックレスはしばしば身に着けているのを見かけるが、腕にブレスレットまでつけているのは珍しいな、と十二は思った。黒縁メガネをかけているが、もちろん伊達だろう。いつもより大人びて見える。

十二を視界にとらえて、信一がフワリと花がほころんだように笑った。

(いやアイツ、チンピラには見えんが相変わらず無駄に目立つな・・・)

この通りはファッションに満ちているので周りも個性的なコーディネートをしている人ばかりだ。そのため九龍城砦では浮くばかりの服装も今ばかりはハマっているが、如何せん信一の顔面が輝かしいので微妙に溶け込めていない。とはいえ、仕事というより大量の紙と計算から束の間に開放されて、ホワホワと喜んでいる幼馴染の気分に水を差すのは忍びない。十二はニッカリと笑って片手を上げた。

「悪い、待ったか」
「いや、ちょうど今来たとこだ」
「そりゃぁ良かった」

前回【デート】に来た時は、自分が10分遅れただけで信一がナンパにあって冷や冷やものだった。その時は信一がユニセックスな服装にまとめてきたのが悲劇の始まりだったが、青筋を浮かべて爆発寸前の信一に自分があと数秒に合わなかったとしたら、せっかくの【デート】が冒頭で血まみれオジャンになっていただろう。

(まぁ、俺ら別に恋人じゃないけど)

だがしかし【デート】というお遊びだからという理由だけで”待ち合わせ”からずっと設定し続けているのだから“こだわり”である。

「じゃぁ行きますかね」
「よっしゃぁ」
まずはショッピング。ここから怒涛のアパレルめぐりと散財に胸をスカッとさせるのだ。


**★**★**★**


お互いに紙袋を4個ずつ従えた十二と信一はさすがにくたびれて休憩場所を探した。

自分の趣味に合うファッションに、次にめかし込む時のための兄貴たち好みのファッション、お互いに合いそうな服も見繕い、試着室ではお互いを細かく精査し、ついでに洋服が少ない洛軍へのお土産にトップスを買い、それじゃ四仔にも何か買って行こうとクマがプリントされた肌触りの良いフェイスタオルをチョイスし、龍兄貴には甘いお菓子、虎兄貴にはしょっぱいモノなど、洋服にアクセサリーに雑貨に食べ物にと散々買い物をした結果。

疲れたからとにかく派手な甘いモノが食べたい、という信一の希望によりパフェで話題の人気カフェに入った。平日かつ時間帯のためか、それともタイミングが良かったのか、すんなりと店内に案内される。2人は先だって店内にいる女性ばかりの客たちの視線をもろともせず、堂々と着席した。

(気にするな。こちとら、とんでもねえ甘党男子を抱えてんだ)

お店オススメのフルーツパフェにブラックコーヒーを合わせた自分に対し、ワンランク上のパフェにさらにメロンクリームソーダを合わせる幼馴染は、なかなかの強者であると十二は思う。

「アイスにアイスでお前すげぇな」
「うーん、デブりそうで幸せ」
「これで帰ったらどうせまた龍兄貴と甘いもんを夜食に食うんだろ」
「だって別腹だもん、兄貴の手作りは。また明日から四六時中走り回るんだから実質カロリーゼロだぜ」
「本当かよ」
「チートディ最高」
「はいはい」

生クリームとイチゴを一緒に頬張ってうっとりする信一を眺め、十二はコーヒーを一口。

「そういやお前、3つ前の店で悩んでたネックレス買った?」
ふと、気になっていたことを思い出して十二はアクセサリー店のことを話題に出した。
「3つ前?」
「なんかシンプルだけど太めのチェーンみたいな、ゴールドのやつ」
「あー
信一が目を小さく泳がせて、その後に何かを誤魔化すようにヘラリと笑う。
「買わなかった。持ってないタイプだったから1つくらいいいかなぁ、と思ったけどやっぱ違うかな、って」
「ふぅん?」
片肘をついて顔を乗せ、つまらなそうな顔をする十二に信一が嫌そうな顔で抗議する。
「何だよ、その顔」
「別に。何も言ってねーじゃん」

何も言ってない。お前のその行動、もうかれこれ2年くらいずっと繰り返しているぞ、などと。

信一が自分では身に着けないだろうゴテゴテのゴールドのアクセサリーを、お店にて何故か目に止めてはしげしげと眺めて迷っている姿を、十二は何度も目にしてきた。最初は何を悩んでいるのだろう、と訝しげに思っていたのだが、やがてこのキレイな幼馴染が恋煩いをしている相手を思い浮かべて、その人に似合いそうなアクセサリーに自然と引き寄せられていることに気がついた。しかしプレゼントをする勇気もなく、結局は買わずに帰ることも。その恋相手も知っている。自分と信一の共通の友人である、四仔である。

十二の視点では信一と四仔は気持ちをお互いに告げていないだけで「両想い」である。幼馴染のことであれば、十二は気持ちを手に取るように察することができると自負していた。一方、四仔だって分かりやすい。あの男、心情が見えにくいようで行動が実にシンプルなタイプだ。彼は口で何だかんだ言いながらも信一に対して献身的でよく気にかけている。十二が信一の話題を四仔に出す時彼はとても優し気に笑うのだ。こりゃ確約だ。

ところがどうなるのだろうと気にしていれば、お互いに全く気がつかない2人だった。信一が四仔の彼女のことを気にかけて臆病になっているのは理解できる。しかし四仔が積極的に動かない理由は不明だった。その上、基本的には他人の機微に聡いはずの彼らがすれ違う様子は不思議だ。

(恋は盲目ってか)

彼らにほんの少しの勇気があれば、あっと言う間に進展するはずなのだが。

両片思いにも関わらずこの2年間1ミリも進展せずに擦れ違う2人を「こいつら、ウケるな」と思いながら静観していたが、ここ最近、十二にはもう一つ気になっていることがあった。

「今日ブレスレットつけているの珍しいな。あとそのシルバーのイヤーカフス、そんなの持ってたっけ?」
「あ、これ?この前、洛軍にもらったんだよ。服のお礼だっていって」
「へぇ?でもあいつ金ねぇーじゃん」
「それが手作りなんだって。だからあんまりお金かかってないらしい」
すごくねぇ?普通に売りもんに見えるよな?と、信一が自慢げに洛軍からのプレゼントを見せてくる。

はぁー、と十二は妙な感心をした。
(洛軍の積極的なアプローチに気がつかないのに、四仔の消極的なアプローチに気がつくはずがねぇよな)
そう。急に第二の男が現れたのである。
(おいおい、片方は手ぇ出すのがおせぇのに、片方は手ぇ出すのがはぇえなぁ)

正直なところ、四仔の想いが成就しようが、洛軍の想いが成就しようが、十二にとってはどちらでも良かった。一方への肩入れはない。どちらかというと、そもそも何で昔からこんなに大切にしている幼馴染を“男”にやらねばならんのだ、という気持ちの方が大きい。この目の前でいそいそとバニラアイスをつつく鈍感で能天気な幼馴染に対して思うところはなく、四仔に対して何をモタモタして信一を落ち込ませているんだ、とか、洛軍に対して信一にあまりにガッツいたらマジでどうしてくれようか、みたいな思考しか動かない。ただひとまずは黙って静観してやろう、と思うくらいには十二は友人たちを信頼しているし、悪いようにはならないで欲しい、とも思っていた。

「お前が”恋人を作りたい”と思う分にはかまわねぇけどさ」
ネックレスから飛躍して唐突に喋り出した十二に、信一が肩眉を上げて様子を覗う。
「龍兄貴が前にお前に言っていた“俺より強い男じゃないと認めない”っての、今一度頭に叩き込んでおけよ」
……………
「全く持って賛成だ。龍兄貴より強い男を選べ。その上で“俺に気に入られる”ことが必須条件ってのもちゃんと思い出しておけよ」

「じゃないと、うっかりすると龍兄貴も俺もそいつを殺しかねないんだから」

「ああ~」と困ったような声を出して信一が眉をハの字にした。
「”龍兄貴より強い”てのが難題に見えるけど」
それはそうだ、と十二も思う。
「十二が気に入るかどうかは”強さ”に匹敵するくらい難題なんだよなァ、それ」

(そうだぞ。だからこれは奇跡みたいなもんだ。そんなのが二粒も揃った。今後ないかもしれん)

「ハードルたっけぇの」

幼馴染が過保護で本当に困ってます、みたいな顔で信一が嘆くので、十二が鼻で笑い飛ばす。

「俺に言いよって口説いてくる女も男も、わざと色目使って全員お前に落とした途端、冷笑して全員蹴り上げるようなヤツがどの口でソレ言ってんだよ。お前が俺の相手に課しているハードルを超える方がよっぽど高けぇわ」
「ええ?だって、虎兄貴より強くてカッコ良くて、龍兄貴より美人で、その上で“俺に気に入られる”っていうのは最低限クリアしてもらわないとなァ」

いやいや、いるかぁ、そんなやつ。

「お前の色仕掛け落ちなかった希少なヤツら、お前大激怒して切り裂いちゃったじゃん。俺はこの世はなんて不条理で理不尽なんだろうって、むしろ彼らに同情心まで沸いたね」
「だってあいつらは、お前のことトロフィーワイフ扱いしようとしてたじゃん」

マジで無理、そんなヤツにお前をやるなんて俺は許さないね!

プリプリ怒りながらグレープフルーツを口に放り込んで「すっぱぁい」と口をすぼめる姿は20代半ばの男とは思えない。その上、黒社会に浸ってあの九龍城砦のボスの右腕をしているなどとは。

「第一、これが虎兄貴に知れたらとんでもねぇぞ?断罪してやった相手が俺だったことに感謝して欲しいくらいさ」
キレイな顔で、意気揚々と物騒な思考。いやホント。
十二は嬉々として笑った。

「俺の幼馴染、めっちゃかわいー」
「そ?俺の幼馴染も可愛いぜ?」

やはりこいつと付き合うならば、ハードルは高いところを超えてもらわないと。

果たして信一が結ばれるのは四仔なのか洛軍なのか、はたまた違う第三の人物が現れるのか、と十二は考える。何かアクションさえ起こせれば四仔と信一はあっと言う間に進展するだろうが、愛されてることに慣れていて寂しがり屋の信一は洛軍が積極的にアプローチすればやがてすんなり心を移すだろう。自分は信一に比べるともう少し寛容であるから、もし2人が幼馴染を幸せにできるならば、味方になってやって次に待つ最難関、龍兄貴に口添えをしてやることも、やぶさかでない。

(だって、俺ってトモダチ想いだから)


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だが後日。十二は四仔が信一に応えてこなかったのは、実は四仔の恋相手が信一ではなく自分だという衝撃の事実を四仔本人から告白され、それを聞いた時に飲んでいた綠寶を盛大に噴き出し、蚊帳の外だとふんぞり返って眺めていた三角関係から強制的に四角へと巻き込まれ、のちのち全てが良い具合におさまった後、信一と一緒に”お互い”のために、”幼馴染の彼氏”について”幼馴染の兄貴”へ全力プレゼンしなければならないという、人生最難関の謎イベントに遭遇することになる。