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kanaco
2025-05-16 21:34:21
7465文字
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【十二信】十二信SS(単作)まとめ(フセッター時代)
1P【ハタチになってから】モードに入ると止まらない十二くんと、お迎えにきた信一くん。
2P【牙(R18)】嚙みクセのある十二くんと、満更でもない信一くん。
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【ハタチになってから】
満月が煌々と光る夜。
人里から離れた廃墟。
すぐ傍で恐怖に喘いだような悲鳴が聞こえた。
しかし、そんなことはどうでも良いことだった。
十二の耳には右から左へと流れさっていく。
誰が嘆こうが、誰が怯えようが、関係がないのだ。
ただし逃がすことだけはしない。
十二の内に燃える【虎】の狩人としての本能が剥きだしになる。
”ここ”にある全ての命を無心に狩りとっていく。
ただ目に映る喉元へと強力な牙をあて、その頸椎ごと噛み折るかのように。
むせ返るような血の匂いと篭った空気が、虚ろいだ心を返って増長させた。
踏みしめようとした瞬間に足を滑らせる。
びしゃびしゃに濡れ広がった床が忌々しい。
冷えた瞳のまま、刀を再度握り返した。
斬り上げて、搔っ切って、突き立てて、そしてまた斬り捨てて。
皮膚を裂いて、骨を突き壊して、その”中”を刺し破って。
その生々しい感触が”次の一振り”へと彼をただただ動かす。
目の間に転がるそれの唇がぱくぱくと動く。
聞こえない。
もっと、もっと、もっと。
止まらない。
返る生ぬるい血が壁も床も十二の服も何もかも赤に染める。
知らない。
もっと、もっと、もっと。
止まらない。
ここにいる全てが、恐怖に死を願い喘いで、地に伏せ、二度と舐めた口を利かぬように。
目の前の獲物以外は目に止まらぬ、狭まる視界。
もっと、もっと、もっと。
止まらない。
飢える。
渇く。
この止まることを知らぬ怒りを切っ先に宿して刀を振るう。それは例えここにいる人間を肉塊へと全て変貌させたとしても治まらぬ激高。冷静で冷徹なままに執行しながらも。理性や思考の一切を飲み込んでしまうような湧き上がる激しい感情は溢れ出ていく。
もっと。もっと。もっと。
さぁ、殺そ。
「~♪」
ふと、調子はずれな鼻歌が耳に入ってきた。
「~♪」
フラフラとした音程なのを意に止めない、とてもご機嫌な声色だった。十二の一切の音入らぬ無の世界へ無遠慮にも土足で入り込む、あまりにも不自然な、しかし慣れ親しんだ音だ。あまりの違和感に歌が聞こえる方に視線を向けると、灰と赤しか無かった色の世界に初めて違う色が現れた。
ここにいるはずのない男。
左手に持つ煙草を吸いながら、ゆったりと壁に背中を預けている。
楽し気に自分を見つめている幼馴染がいた。
「..............」
信一に目を向けたまま、この廃墟にいた連中の最後の1人の首を跳ねる。
「..................何それ、ほろびの歌?」
この場に足を踏み入れて、十二が初めて出した声だった。ここにいた10人ほどの男たちの騒々しい言葉には何も返さなかったからだ。まるで声の出し方を忘れたように、その音は掠れていた。しかし距離が離れているにも関わらず信一には聞こえたようだった。
「いや、お前失礼かよ」
そう言い返しながらも、信一は大して気にした風でもなかった。今だ刀を強く握りしめたまま棒立ちする十二の元に軽快に歩いてくる。
目の動向が開いたまま、表情筋が一切動かない、異様な雰囲気を纏った十二の剣呑で鋭利な瞳を、信一は一切何も刺さっていないようにいつもの調子で気易く近づく。
全身で発しているのは拒絶と殺意だった。興奮して自分自身ですら止める術を知らない”狂い虎”となった彼は誰かも識別せず切りかかってしまうだろう。十二が敬愛する絶対的な存在・虎兄貴と、そしてこれまでにその姿をもっとも晒している相手、信一以外の者であれば、だが。
「ここは俺たちはまだ立ち入り禁止区域だって、兄貴たちにキツく言われてただろ」
信一は傍に寄って向き合い、自分よりも背の低い十二の顔を少し見下ろした。そしてやはり同じように少し見上げて、自分の目をジッと見つめる年下の幼馴染を見つめ返した。開いていた瞳孔がキュウと狭まっていく。その瞳にしっかりと自分が映っていることを確認すると、満足そうにヘラリと笑う。
「酒と煙草と立ち入り禁止区域はハタチからってさ」
「....................」
「だろ?」
「....................酒も煙草ももうやってるじゃん」
お前が吸ってるソレは何なんだよ、と拗ねた声を出すので、
(あら、ちゃんと会話できるじゃない)と煙草を美味そうに一服。
近く、下方のどこかで何かが動く気配と「ごほっ」という小さな音がした。
(やり残し......)
と、十二の瞳孔が再び広がろうとする。信一がその十二から視線を一切外さないまま、おもむろに右真横へナイフを投げた。緩やかな弧を描いて飛んだナイフは寸分狂いなく声主の喉元に刺さり、十二と信一以外の「生」の気配が終ぞ”無”となる。
信一は携帯灰皿に煙草を押しつけて終う。
そしてバッと両手を十二の前にかざしてニヤリとした。
いつも完璧に仕上げている十二の髪へ遠慮なしに両手を差し込み、これまた一切の遠慮なしに髪をグシャグシャとかき回す。
十二は微動だにしない。
しかし綺麗にセットされた髪がボサボサになるにつれて、表情筋の硬直も目の剣呑さもほどけていく。最後に残ったのはムスっとして不貞腐れた、まだ少年っぽさが残るいつもの表情だった。
「虎兄貴のことを、なんか言われたか?」
信一の穏やかな口調で尋ねた。
不機嫌な十二があからさまに口を尖らせる。
(はいはい、言いたくないってな)
そんなの、そうだと言っているようなものじゃないか。
(健気な子虎ちゃんだこと)
信一はますますご機嫌に髪を崩しまくる。
「廟街歩いていたら肩ぶつけられただけだ」
「ほうほう」
「それに、髪型のことバカにされたし」
「怖ろし~!お前の髪に触れるなんて怖すぎて俺にすらできないわ」
「お前マジでぶっとばすぞ」
だー!!っと叫んだ十二が信一の手を嫌がるように大振りに頭を振った。
信一は愉快そうに手を離す。
「髪、せっかく整えたのに!」
ハハハと信一が笑う。
そして十二の頬についた誰のものかも分からぬ返り血を、手のひらでグイグイ拭ってやった。
「廟街に帰ったら、兄貴に怒られたくないならそのままでいけ。兄貴に怒られたいならちゃんと髪を整えてからいけよ」
(まぁ、どちらにせよ。あの人は怒っちゃいないだろうが)
知っているだろう、裏すらある気がする。でないとそもそも、自分も十二もこんな場所にやすやすと来させてもらえないはずだ
…
と信一は思う。なんせ、行くことを禁じられていたエリアだ。それでも十二が思案している。
彼を放っておいて、証拠は隠滅しないと
…
と、先ほど投げたナイフを取りに地面に転がる男の元へと赴く。喉に深々と刺さったナイフを気をつけて抜く。抜いた際に圧迫された血管から吹き出る血には絶対にかかりたくない。買ったばかりのお気に入りの洋服が、昨日の今日でおじゃんになるのはマジで勘弁というわけだ。
信一は廃墟を見渡す。
そこらかしこに散らばっているかつて人の形を成していた者たちは、今じゃ赤に浸り過ぎて判別もできない。
(壮観だなぁ)
これをまだ10代のコドモがするんだから、俺たちって末恐ろしいかも。
信一はナイフを懐にしまって、まだ下を向いて「うんうん」と唸る幼馴染に声をかけた。
「帰ろうぜ」
晴やかなその声に、十二が顔を上げる。
「帰ろう、兄貴たちのところへ」
「おう」
言って踵を返した信一の隣に十二は小走りで駆け寄り、隣に並んで歩きだす。それは九龍城砦の住人たちが良く知るような、いつもの愛嬌たっぷりな坊やである少年の顔だった。
「そういや、お前なんでいんの?」
「お前のとこの先輩が、暴走しているだろうお前を穏便に戻すのは手がかかるし、虎兄貴の手を煩わすわけにはいかないからって、わざわざ砦まで来て俺にお迎えを押しつけてきたんだよ」
「なるほど」
「なるほどじゃねぇよ。おかしいだろ。俺、龍兄貴とのお夜食タイム参加しそびれたんだぞ。好きな甘菓子だったのに~。はぁ~鬱」
「疲れた~、バイク後ろ乗っけて」
「ヤだよ、お前血だらけじゃん。あと人の話聞ぃてんのか」
「心が狭すぎるっ、それならもろ共!」
「ぎゃっ、こらひっつくな!これ昨日買ったばかりの服っ!!」
ガヤガヤと仲良く小競り合いをしながら年相応の姿で歩む少年2人が消え去る。
そうして廃墟には、ただ凄惨で冷徹な沈黙のみが残るばかりだった。
〈了〉
******************
ハタチって書いたけど酒と煙草は香港だと18歳からかな。
コレするにそれはさすがに幼過ぎるかも...とハタチにしてしまった。
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