燐々
2025-05-13 00:10:50
4610文字
Public 供養
 

イトリンさん没箱
着地点不明につき没になった物の墓。
ページ毎に一応違う作品になるはずだった物の成れの果てです。

 相手の体の匂いが好きなら、遺伝的に相性がいい。
 もし嫌いなら、心が好きでも遺伝的に相性が悪い。
 どこかで聞き齧った話を思い出しながら筋の浮く首筋に顔を寄せれば、私の心を擽る甘い香りがする。
……リン」
「なぁに?」
「今は勘弁してくれないか」
「今だからいいんじゃん」
 そう言えば珍しく嫌そうに顔を顰めるライトさんの首をちろりと舐めれば、咄嗟に私を払おうとした手が行き場を失って宙に留まった。それなりに嫌そうなのに、私を追い払うことはしない優しい人だと分かっていて彼を捕まえた私は悪い女だ。
 恋人に内緒で郊外へ遊びに行って、喧嘩でも雑務でもなく配送の仕事終わりの彼を狙って捕まえた。目を丸くして驚く姿に気分は良くなったし「会いに来ちゃった」と言えば「連絡してくれ」と言いながらも緩む目元に嬉しさは募った。だけど、ちょっと待って欲しそうに離れていこうとする腕にぎゅっと抱きついて下調べしておいた鍵のかかる倉庫へ彼を引っ張り込んでからはずっと微妙そうな顔をされている。
「今日は一日いい天気だったねぇ」
……
「ライトさん、ずっと外に居たんでしょ? 暑かったよね、お疲れ様」
…………そこまで分かってるなら離してくれ」
「ふふっ、やだ」
 さっき外した赤いマフラーは後で彼が丁寧に洗うんだろう。ふにゃふにゃと笑いながらも距離を離さない私から逃げたそうに、彼は後ずさっていく。無敗のチャンピオンに後退りをさせることが出来る人間は多くないだろうと思えばそれも嬉しくてぐいぐい距離を詰めれば、カタンと鳴った木箱に膝裏を押されたらしい彼がその上に座りこんだ。
 私よりずっと背の高いライトさんが同じくらいの目の高さにいる。そして、その膝の上へ乗り上げて向かい合ったまま首裏へ両腕を回せばサングラスの向こうにある濃い色の目がスっと逸らされた。
「離れてくれ」
「嫌だ」
……あんたが思うより郊外の砂ってのは体に付くんだ」
「知ってるよ」
 そっと指を通せばいつも以上にザラっとする跳ねた髪を辿ってうなじまで撫でれば、彼が動揺しているせいもあって薄く汗が滲んでいた。砂埃を真っ先に出して衛生面に訴えて来た気持ちも理解はしているけど……今はそれよりも、くらくらするほど魅力的なライトさんの香りに溺れたくて仕方がない。
 ぎゅうっと抱きついて深く息を吸う。砂と太陽とバイクの匂いがして。その奥にある汗と地肌の香りにじわじわと頭が熱くなる。
「リン」
……んぅ?」
 低く名前を呼ばれて、浮ついた頭のまま首筋から顔を上げれば長い指にスっと押さえられて視線をどこにも逃がせなくなった。