獣と獣の小話たち その一

pixivに上げていた同タイトルのまとめより、既にこちらに掲載済の作品を除いた短い作品たちの再掲となります



覚醒を惑わせる火照り


※体調不良表現があります



 目が覚めると見慣れた天井。寝室で寝ていたとすぐに分かった。人の気配はなく静かで、窓のカーテンは閉められていて時間は把握できない。

 そうだ、起きないと。

 早く起きて行かないといけない。そんな焦燥感にかられて身体を起こすが、すぐに力が入らなくなり視界がぐにゃりと歪む。手足や尻尾を必死に動かそうとしても言うことを聞いてくれない。せめて、ベッドから出ないと。そう思って掴んだシーツと手の黒い鱗の境界が滲んで、やがて暗転した。

 目が覚めると見慣れた天井。どうやらあの後にまた眠っていたらしい。もう一度と身体を起こすが、ベッドから這い出せると思った瞬間にまた暗転。天井を見て、ベッドから出ようとするが出られない。何故、どうしてと思い何度も同じ行為を繰り返す。
 早く行かないとマズイのに。その理由は覚えていたはずなのに朧気に溶けて、また暗転した。



 うだるように熱い。一つ熱の籠った息を吐いてそろりと目を開けた。暗い室内にぼんやりと見慣れた天井らしき光景が見える。さっきのように起き上がろうとしても身体の節々がズキズキと痛み、頭も酷く重くて思考がまとまらない。
「ディル?」
 ふと声をかけられてそちらに顔を向けると、白い髪と白い耳……おそらくクルウであろうシルエットが見えた。表情まではよく見えないが、何か物を持っているようでそれを俺の顔に近づけてきた。やがてそれが頬や額、角に当たると柔らかな冷たさを感じて、表面の熱が少し和らいでいった。その心地よさに目を閉じてまた息を吐いた。
「辛そうだな……
 小さな彼の呟きが聞こえる。大丈夫だと言ってやりたいが、どうにも喉から上手く声が出せず、不規則な呼吸音しか彼には届かないようだった。
「ああ、無理に起きようとかしなくていいからな。俺ずっとここにいるから、だから……
 彼の話し声と共に、また冷たいものを目元に優しく当てられる。まだ何か言ってるようだったが、ひんやりとした感覚に導かれるようにゆっくりと意識が沈んでいった。

 次に目が覚めた時、ようやくある程度意識がはっきりしてきた俺が見た時には、クルウは物凄く怒っていた。俺を甲斐甲斐しく世話する手は一切止めず、しかし無言で俺を睨み続けていた。自力で上体を起こせるようにはなっていたので、「そこまで無理にやらなくてもいいぞ」とクルウに言ってみたが「煩い、黙って看病されてろ」と聞こえた後に手に持っていた濡れたタオルをバシンと顔に叩きつけられた。いや、それは看病なのか?

 で、彼が怒っている理由……というより俺が倒れた時の状況について、見舞いに来てくれた当時の依頼仲間たちに聞いてみた。何でも、戦闘中に高熱を出した俺が突然倒れてしまった。敵が倒れてる俺を狙おうとしているのを必死に仲間たちが防いでくれている中で更にその場に現れたのは、本来その依頼に参加していなかった……鬼の形相のクルウだった。
 意識が朦朧としていたのか、俺は途切れ途切れに「一人でも何とかなるから」と言っていたらしいが、それに対して毛を逆立ててクルウはキレた。
「ふざけるなよ……! お前ちょっと前から具合悪そうだから家で大人しくしてろって俺言ってたよな。それなのに目離した隙に勝手に仕事引き受けやがって、んで今こうやって人様に迷惑かけて……なーにが『一人で何とかなる』だ! 馬鹿野郎!!」
 そう叫びながら唖然とする仲間たちを他所に、依頼の敵を一人でノックアウトさせてしまった。そして仲間たちのところにツカツカと向かうと「こいつが迷惑かけて申し訳ありませんでした」と先ほどの事などなかったかのように大人しく丁寧に謝罪してから、俺を軽々と肩に担ぎ上げて去っていったらしい。
 ちなみに仲間たちからは「君たち幸せそうでいいよね」と一言。何故だ。



 この後、終始仏頂面ではあったがクルウからきっちり看病を受けて無事に完治した。しかしその後キッチンに行ってみると、俺が東方からわざわざ取り寄せていたお気に入りのスパイスが棚から綺麗に消えていた。更に酒瓶もなくなっていた。
「今回のこと、反省するまで返さないから」
 問いただした俺に対してツンとそっぽを向いたクルウ。その尻尾も俺に触らせないとばかりにくるりと彼の身体に巻き付いている。ああもう、これじゃ今度は精神がやられそうだ。