獣と獣の小話たち その一

pixivに上げていた同タイトルのまとめより、既にこちらに掲載済の作品を除いた短い作品たちの再掲となります

彼はやはり限界点を知らない




 ここ最近、クルウが製作用の部屋に引きこもっている。風呂や飯の時には出てきてくれるが、用事を済ませてしまえばさっさと部屋に戻ってしまう。
「大きな依頼をされててな、ちょっと詰めないと時間がかかりそうなんだ。」
 ディルはある夕飯の時に聞いてみたが、クルウは詳しいことはあまり教えてはくれなかった。夜中まで作業は続いているらしく、隣のベッドが空いたまま朝を迎えることも増えてきていた。



 そうして数日経った頃、夕飯の時間になってもクルウがやってくることはなかった。作業中に部屋に入るのは止めてくれと常々言われていたが、流石に飯くらいは食べてもらわないといけない。なのでさっさとディルは部屋に突撃することにした。
 ノックをしたが、反応はなし。ということで躊躇いなくドアを開いた。すると目の前には大きな猫がいた。いや、正確には綿が詰められている布製の大きな三毛猫だ。よくよく見ると中央に窪みがあり、座れるようになっているようだ。顔の部分も可愛らしく出来ていて、見ているとなんだかほっこりするように思えた。
 いや、まじまじと見てる場合じゃなかった。いない猫を探さないと。周りを見渡してみると、例の猫に隠れて床に突っ伏した状態のクルウがいた。ディルが近づいてみても反応はない。様子を伺うと、目を閉じてすうすうと寝息を立てている。おおよそ、寝不足やらで体力の限界がきたのだろう。やれやれと呆れてから、起こさないようにそっと抱きかかえて寝室に向かった。
 ディルはクルウをベッドに寝かせて、製作用の衣類から寝巻に着替えさせた。身体を動かしていてもクルウは全く反応せず眠ったまま。まあ、クルウがあれこれと根を詰めて倒れることは一度や二度ではない。
「ほんと、自分の限界点くらい、いい加減把握しておけよな……
 ディルが苦笑混じりに呟く。布団をかけてやると、クルウはもぞもぞと無意識に動いて身体を丸めた。それを見たディルはクルウの頭をぽんぽんと撫でてから、寝室から出て行った。

「だって、あの猫の再現が滅茶苦茶難しくて……どうしても納得いくものが出来なくてな……」というのは、のちに目覚めてからディルに説教されたクルウの言い訳である。