ふみかぜ@壁打ち
2025-04-29 13:18:12
15524文字
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【超吸死に一笑 2025新刊】幸せマジロは世界を跨ぐ【ジョン中心web再録】

5/3の「超吸死に一笑 2025」新刊のジョン中心web再録本のサンプルです、よろしくお願いします!/本編前if+派生、CPなし、ほのぼの平和な短編集/web再録済みの話の他、追加した短編も7月頭を目安に公開予定のため本で欲しい方向けです
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【城住みマジロと家庭菜園】

 日本の田舎町に存在するには異彩を放ち、住民にやたら尾ひれの付いた噂が立ったり腕の立つ退治人から殴り込みされたりするドラルク城(賃貸)。
「ヌッヌッヌーン、ヌッヌッヌーン」
 まだまだ寒い日々が続く一月下旬の夜遅く、その廊下にリュックサックを背負い鼻歌交じりに歩くアルマジロの姿があった。吸血鬼ドラルクの使い魔、ジョンである。彼は主人からの重要なミッションを果たすべく、プラスチックのお弁当箱をリュックに入れて運んでいる最中だった。
「ヌーニャヌ」
 一階と二階を繋ぐスロープを慣れた足取りで登り切り、つつがなく目的地へ到着したジョン。最近まで使われることがなかった客室の前に立ち、中身を崩さぬよう慎重に荷物を下ろした彼はくるんと丸くなると、軽い助走をつけて扉へタックルをかました。
「ヌヌヌヌヌーン!」
 ドォン、と扉を叩く音を立てた後で中へ呼びかけて数十秒後。内側からガチャリとドアが開き、中からラフなTシャツ姿の銀髪の青年が顔を覗かせる。
「あー……ジョン?」
 彼の名はロナルド。巷では有名で腕利きの吸血鬼退治人で、一言で説明できない経緯があった今ではジョンの主人とコンビを組んでいる人間だ。
 普段は夜の中でも目を引く赤い衣装に身を纏って、拳銃片手に凶暴凶悪な吸血鬼を屠っていくスペシャリストであるロナルド。しかし今の姿はよれたシャツにだるだるのスウェットパンツ、頭にほつれたヘアバンドを巻いており色々残念な有様だった。ハンサムな顔立ちも充血した目と濃厚な隈で台無しとなっている。
「悪い、ちょっと原稿があと少しでアレで……どうかしたのか?」
 ジョンと目線を合わせようとその場にしゃがみ込み、申し訳なさそうに眉を下げるロナルド。自身の吸血鬼退治の記録をエンタメ作品へ昇華する作家としての一面を持つ彼は、原稿と修羅場を繰り広げることも多い。今夜は翌日正午に〆切の原稿と闘うべく、ドラルク城の一室を占拠しカンヅメをしているのだった。尚、ジョンの主人は門前払いを試みたものの、手負いの文筆業に引きこもり吸血鬼が勝てる訳もなく、今に至るのである。
「ヌヌヌヌヌヌ、ヌン!」
「お届けもの?」
 ジョンは下ろしていたリュックから自分の背丈近くある弁当箱を取り出すと、両の前足で持ち上げてロナルドへ差し出した。戸惑いながら受け取ったロナルドが蓋を開け、その中身を見て目を丸くする。
「これは……おにぎり、か」
「ヌー!」
 中に入っていたのは人間のこぶし大ほどのサイズ感があるおにぎり二つ。海苔で一巻きされた上から、素手で食べやすいように透明なラップで個包装されていた。その中身は定番の鮭と、彼が好物とする唐揚げ。作ったのは勿論この城の主たるドラルク。味の保証は折り紙付きだ。
「ヌヌヌヌヌヌヌ、ヌイヌヌヌッヌ」
「へぇー、あいつが。差し入れとは気が利くじゃねぇか」
 おにぎりを見下ろし、満更でもなさそうな笑みを浮かべたロナルドだったが、急にスッと真顔になって弁当箱へ鼻を近づける。
「何か一服盛られてたりしないか? 血とか薬とか魔力とか霊力とか」
「ヌヌッヌヌイ、ヌヌッヌヌイ」
「そうか、入ってないか……
 残念そうに肩を落とす彼を、ジョンは生温かい気持ちで見上げた。吸血鬼から提供された食事に対して安全性の保証より、何かネタになる混ぜ物を望む若者の危うさにはハラハラしてしまう。せめてちゃんとした栄養と睡眠を摂ってくれればいいのだが。
 こっそり溜め息を吐きつつ、弁当箱と一緒に持ってきていた魔法瓶の水筒も手渡す。
「ヌーン、ヌ茶」
「おう、ありがとよジョン。……一応、あいつにも礼は言っといてくれ」
「ヌー」
 しっかりと頷きながら、ジョンは心の内でゴメンヌ、とロナルドに謝罪した。
 水筒の中に入っているルイボスティーには、人間が健やかな睡眠に落ちる薬が混ざっている。毎度の如く客室を占拠する退治人に業を煮やしたドラルクが、親戚筋から取り寄せた特注の品だ。服用者をきっかり十時間眠らせる効果があるらしいので、午前一時の今飲めばどうなるかは火を見るよりも明らかだ。眠っている間に出版社のカンヅメ部屋に運搬されるだろうロナルドを思うと良心が痛むが、脱稿後のハイテンションに巻き込まれて物言わぬ塵山と化すドラルクのことを思えば平和主義者のマジロといえど心を鬼にせねばなるまい。
「あ、そうだ。ジョン、ちょっと待っててくれるか?」
「ヌ?」
 何かを思い出した様子のロナルドが立ち上がり、ジョンが渡した弁当と水筒を抱えて客室の中へ引っ込む。彼はものの一分で戻ってくるとジョンの前で屈み、シンプルなクラフト用紙の包みをそっと手渡した。不思議そうに受け取るアルマジロを見て、退治人は穏やかに微笑む。
「こっちに来る前、ツチノコとかぼちゃから預かってきたんだ。いつもお世話になってるジョンに、だってさ。いいもの入ってるぜ?」

「ヌヌヌヌヌヌ!」
「あぁ、おかえりジョン」
 一階のキッチンへ到着したジョンは、鼻歌交じりにまな板を拭いていた主人に出迎えられる。
「どうかね首尾は、……うん、うん、流石は私のジョンだ。これであの人間は昼までぐっすり、担当編集の異次元ホールで向こうに送られることだろう。ふっふっふっ、ロナルド君め、この私を散々舐めくさったこと、存分に後悔するがいい!」
 作業の手を止め、ジョンを腕に抱えて報告を聞いた吸血鬼ドラルクは上機嫌な笑い声を上げた。つい先日トラップ空間を荒らされた上、巻き添えで針山に刺され石壁にプレスされた鬱憤は今回の悪戯でスッキリと晴らせたらしい。ロナルドの明日の命運はさておき、嬉しそうな主人を見てジョンも嬉しくなった。
「では、デザートにアップルパイでも……おや。ジョン、これは?」
 すっかり軽くなったリュックをジョンから回収したドラルクが、中に入っていた紙袋の存在に気づく。ついさっきロナルドがくれたものと伝えると、彼は露骨に眉を寄せた。
「ロナルド君が? ……ふむ、ツチノコとかぼちゃからならば心配せずともいいか」
 テーブルの上に乗ったジョンの補足を聞いた主人は表情を和らげ、テープで封をされていた袋を開封する。曲がりなりにもコンビの人間より不思議な生き物たちを信用するのは、ドラルクが生粋の吸血鬼だからか、ロナルドの日頃の行いか。少ししょっぱい気分になるジョンである。
 さて、口が開いた紙袋を傾けると、中身がテーブルの上へ滑り出てくる。片方は透明で薄い皮のようなもの。もう片方は、ラップに包まれた種のようだった。
「まさかこの皮、ツチノコの抜け殻か……? これはこれは、ご利益ありそうだねぇジョン」
「ヌァー」
 予想以上のレアもの。財布に入れて持ち歩くのはちょっと勇気がいるので宝物入れの缶に保管しておこう。
「それでこっちは南瓜の種か。ロナルド君のかぼちゃからということは、ペポカボチャかな」
「ヌイシイヤツ」
 ドラルクがラップを剥がすと、十五粒の暗い緑色の粒が顕わになる。ヘルシーでお酒の肴にもなる素敵な種だ。
「ふむ、オリーブオイルで炒めるかゴマ油で炒めるか……ジョン、どうしたい?」
「ヌーン……ヌッ!」
 前足を組んだままどう食べるか考えを巡らせていたジョンが、不意に耳をピンと立てた。
「ヌー、ヌヌヌヌヌヌ」
「うむ?」
 ドラルクの肩へ上り、自らの思いつきをヌヌヌと話す。ここで全部美味しく食べてしまうより、もっとわくわくするアイデアがあった。